展示室2 温室効果ガスの全球濃度解析

濃度傾向解析方法

 二酸化炭素などの大気中の温室効果ガスの中には、特徴的な季節変動を伴いながら経年変動することが知られています。地球温暖化の原因とされている人間活動による温室効果ガスの増加傾向を正確に把握するためには、長期変動成分を正確に抽出することが必要不可欠です。また、季節変動成分には、植物活動や大気中での化学反応など複雑な過程が含まれており、現象の正しい理解が必要です。

 大気中の濃度変動を季節変動成分と長期変動成分に分離する解析方法として、従来から、三角関数などの関数当てはめ法(例えば、1995年以前の大気バックグランド汚染観測年報で使用していたKeeling et al., 1989)や数値フィルタリング(例えば、Thoning et al., 1989やNakazawa et al., 1991)、あるいは両方を組み合わせた手法(例えば、Conway et al., 1994)が開発されてきました。ここでは、以下に記載するNakazawa et al.(1991)と同様の方法によって、観測値の時系列データから長期変動成分と平均的季節変動成分を求めます。

  1. 観測値の時系列データから線形トレンドを差し引きます。

  2. トレンドを差し引いた時系列データに対して、平均的な季節変動として次のフーリエ級数展開を適用します。
    フーリエ級数展開
    ここで、tは観測開始以来の経過時間(単位は年)を示し、kはすべての観測所における平均的な季節変動を表現できるように3に固定します。
  3. もとの時系列データから2.で求めた季節変動を差し引いた時系列データに対して、Lanczosフィルター(Duchon, 1979)をかけて長期変動成分を求めます。この数値フィルターのカットオフ周波数(フィルターからの出力信号が入力信号の半分になる周波数)は0.48サイクル/年とします。

  4. もとの時系列データから3.で求めた長期変動成分を差し引きます。この長期変動成分を差し引いた時系列に対して、2.と同様の操作によって、平均的な季節変動を求めます。

  5. 3.及び4.の操作を、平均的な季節変動及び長期変動成分が変化しなくなるまで繰り返します。これはおおむね数回の繰り返しによって達成されます。

 上記の方法で使用したLanczosフィルターの応答関数を下図に示します。 入力信号の周波数が0.48サイクル/年の時に出力信号の振幅が半分の大きさになっています。 また、解析期間が短くなるのを防ぐため、3.の処理の初回については、直近の1年間の濃度を用いて1次回帰式により傾きを求めて 線形トレンドを延長し、それに対してフィルター処理を施しています。

Lanczosフィルターの応答関数

Lanczosフィルターの応答関数
このフィルターでは入力信号の周波数が0.48サイクル/年の時に出力信号の振幅が半分の大きさになっています。

 下図に、一例として、入力した信号のパワースペクトルとこの手法を適用した出力信号のパワースペクトルを示します。 入力信号には大気環境観測所(岩手県綾里)で観測された二酸化炭素濃度の月別平均値を用いました。この手法によって、観測値の時系列に含まれていた季節変動(1.0サイクル/年)より高周波の成分がフィルターによって除去されていることがわかります。

パワースペクトル

入力信号のパワースペクトル(実線)とこの手法を適用した出力信号のパワースペクトル(破線)
入力信号は綾里で観測された二酸化炭素の月平均値、出力信号はその長期変動成分です。


  下図の上段のグラフは、大気環境観測所(岩手県大船渡市綾里)で観測された二酸化炭素濃度の月別平均値と、上記の手法によって求めたその長期変動成分(季節変動成分を除いた濃度変動)です。 なお、長期変動成分の算出には、それよりおおよそ半年以上先の濃度値が必要なため、最後の半年分の長期変動成分は、それ以前の値に比べて、より大きな誤差を含んでいる可能性があります。 下図の下段のグラフは、観測値から長期変動成分を差し引いた各年ごとの季節変動成分です。

綾里で観測された二酸化炭素の月平均値とその長期変動成分

上:綾里で観測されたCO2の月平均値(点及び細線)とその長期変動成分(太線)
下:綾里で観測されたCO2の月平均値から長期変動成分を差し引いた各年ごとの季節変動成分

全球濃度解析方法

 上記の手法で各観測所の濃度解析値を算出します。 なお、解析に用いた観測点の中で、解析対象とした期間に欠測があると、欠測の前後で緯度帯平均値の算出に不連続な影響が生じる可能性があります。 そこで、欠測期間については、同一緯度帯の平均的な濃度増加率及びその観測所の平均的な季節変動成分をもとに空白のない連続した濃度変動を再現します。 その後、20度ごとあるいは30度ごとの緯度帯別に単純平均し、その緯度帯の平均濃度とします。
 二酸化炭素の全球濃度解析には、観測に使用した標準ガス濃度がWMOの基準に基づいて較正されており、かつ、平均濃度がその緯度分布曲線の近傍に分布し、バックグランド観測所として適切であると考えられる地点のデータを採用します。 メタンに関しても、WMOの基準に基づいて較正されている標準ガス、あるいはWMO基準との違いが明らかになっている標準ガスを観測に使用している観測点で、かつ、二酸化炭素と同様な手法でバックグランドデータとして適切であると考えられる地点を選別して用います。 一酸化二窒素に関しては、WMO基準またはWMO基準との違いが明らかになっている標準ガスを使用している観測所を選別して用います。 なお、一酸化二窒素については、WDCGGに報告されている濃度の空間的変動が比較的小さいことから、現時点では二酸化炭素やメタンで用いたバックグランドに関する選別処理は行っていません。
 解析方法の詳細については、WMO(2009)及び気象庁(2009)をご参照下さい。

参考文献

Conway, T. J., P. P. Tans, L. S. Waterman, K. W. Thoning, D. R. Kitzis, K. A. Masarie, and Ni Zhang, 1994: Evidence for interannual variability of the carbon cycle from the National Oceanic and Atmospheric Administration/Climate Monitoring and Diagnostics Laboratory Global Air Sampling Network. J. Geophys. Res., 99, 22831–22855.

Duchon, C. E., 1979: Lanczos Filtering in One and Two Dimensions. J. Appl. Meteor., 18, 1016–1022.

Keeling, C. D., R. B. Bacastow, A. F. Carter, S. C. Piper, T. P. Whorf, M. Heimann, W. G. Mook, and H. Roeloffzen, 1989: A three-dimensional model of atmospheric CO2 transport based on observed winds: 1. Analysis of observational data. Geophysical Monograph, 55, 165–236.

Nakazawa, T., K. Miyashita, S. Aoki, and M. Tanaka, 1991: Temporal and spatial variations of upper tropospheric and lower stratospheric carbon dioxide. Tellus, 43B, 106–117.

Thoning, K. W., P. P. Tans, and W. D. Komhyr, 1989: Atmospheric carbon dioxide at Mauna Loa observatory: 2. Analysis of the NOAA GMCC data, 1974–1985. J. Geophys. Res., 94, 8549–8565.

WMO, Technical Report of Global Analysis Method for Major Greenhouse Gases by the World Data Center for Greenhouse Gases, GAW Report No.184, WMO TD No.1473, 2009.

気象庁, WDCGGにおける主要温室効果ガスの全球濃度解析手法, 測候時報 第76巻, 207-220, 2009.