展示室1 二酸化炭素濃度解析の基礎

二酸化炭素濃度の解析手法

解析手法


 二酸化炭素濃度の数値シミュレーションにおいては、フラックス(単位時間当たりに単位面積の地表面または海表面から大気中に出入りする二酸化炭素の量)が基本的な推定量となります。表面のある一地点でのフラックスは風による二酸化炭素の輸送を通じて、上空を含む広い領域の濃度に長期にわたって影響を及ぼします。言い換えると、ひとつの地点·時刻の濃度は、すべてのフラックスからの寄与分の総和として求められます。このような寄与の計算は、大気輸送モデルに基づいて行われます。気象庁では、GSAM-TM (Nakamura et al., 2015) という数値モデルを採用しています。

 計算に先んじて、様々な研究に基づいた先験的なフラックスを用意します。ここでは、人間の活動、陸上生物圏の活動、海洋の働きに相当する3種類の先験的フラックスを用いています。これらのフラックスから、大気輸送モデルに従って各地点·各時刻の濃度が算出されます(1)。こうして推定された濃度は、現実に観測された濃度とは一般に異なるため、以下の手法によって補正をします。

 地球全体をいくつかの領域に分け、各々の領域における月あたり単位量のフラックスが各地点·各時刻の濃度へどのように寄与するかを算出します。そして、上述した推定値と観測値との差異が最も良く補われるように各領域に対して係数を割り当てます。係数の決定に際しては、先験的なフラックスと観測値それぞれの誤差を適切に考慮する必要があります。この係数を乗じた各領域のフラックスが先験的なフラックスに対する補正量となります(2 3)。

 先験的なフラックスと補正分のフラックスに基づいて算出された濃度は、計算上最も良い推定値(最尤推定値)とみなすことができます(4)。このようにして算出された濃度分布が、気象庁の『二酸化炭素分布情報』に用いられています。


二酸化炭素濃度の推定精度

 上記の手法による二酸化炭素濃度の推定精度は、解析に利用していない独立な観測データとの比較によって見積もることができます。本解析結果と、CONTRAILプロジェクト*による航空機観測データのうち解析に未利用のものとを比較したところ、濃度推定精度は地表面付近で約3ppm、高度約6kmでは約1ppmであると評価されました(2005年~2013年における月平均濃度の二乗平均平方根誤差に基づく; Nakamura et al., 2015)。

*国立研究開発法人国立環境研究所と気象庁気象研究所が、環境省の支援のもと、(公財)JAL財団、日本航空(株)、(株)ジャムコと共同で行う定期航空機を利用した観測プロジェクト


二酸化炭素分布情報について

 気象庁の『二酸化炭素分布情報』は、世界の約150地点で観測された二酸化炭素濃度を利用した数値シミュレーションの結果に基づいて作成されています。
 現在、世界のさまざまな地点で二酸化炭素濃度の観測が意欲的に行われていますが、観測地点がほとんど存在しない地域や、データが得られていない年月が存在するのも事実です。しかし、利用し得る観測データに大気輸送の数値モデルを応用することで、このような地域·年月に対する濃度を推定することができます。とりわけ気象庁の『二酸化炭素分布情報』では、ごく限られた量の航空機観測データしか得られていない上空の濃度分布の推定値を提供しています。
 より詳しくは、ページ下部に記載の参考文献をご覧ください。

参考文献

Nakamura, T., T. Maki, T. Machida, H. Matsueda, Y. Sawa and Y. Niwa (2015):Improvement of Atmospheric CO2 Inversion Analysis at JMA, A31B-0033 (https://agu.confex.com/agu/fm15/meetingapp.cgi/Paper/64173), AGU Fall Meeting, San Francisco, 14-18 Dec. 2015.

Maki, T., M. Ikegami, T. Fujita, T. Hirahara, K. Yamada, K. Mori, A. Takeuchi, Y. Tsutsumi, K. Suda and T. J. Conway (2010):New technique to analyse global distributions of CO2 concentration and fluxes from non-processed observational data, Tellus, doi: 10.1111/j.1600-0889.2010.00488.x.

二酸化炭素分布情報について, 測候時報 第76巻, 221-229, 2009.