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展示室1 二酸化炭素濃度の年々変動とその要因

濃度変動とエルニーニョ現象との関連

緯度帯別の大気中の二酸化炭素濃度の経年変化 緯度帯別の大気中の二酸化炭素年上昇率の経年変化

図に、緯度帯30度毎の、季節変動成分を取り除いた二酸化炭素濃度(上)および年増加量(下)の経年変化を示す。

 二酸化炭素濃度は緯度帯によって異なる(北半球中高緯度で高く、南半球で低い)が、年増加量はいずれの緯度帯でも似たような年々変動を示している。この年々変動の要因のひとつとしてエルニーニョ/ラニーニャ現象が関係しており、おおむねエルニーニョ現象の発生時期には年増加量が大きく、ラニーニャ現象の発生時期には小さくなる傾向がみられる。たとえば、1997~1998年、2002~2003年、2009~2010年はエルニーニョ現象の発生時期にあたり、全球的に大きな年増加量がみられた。
 このような関係性は次のように説明される。エルニーニョ現象が発生すると、陸上生物圏では熱帯域を中心に高温・乾燥化することにより、植物の呼吸や土壌有機物の分解による二酸化炭素の放出の強化と光合成による吸収の抑制が起こる(Keeling et al., 1995)。また、その高温・乾燥化は森林火災を発生させやすくなり、二酸化炭素の放出が強まることも知られている。一方、海洋においては、太平洋赤道域の東部から放出される二酸化炭素の量が減少するが、これは陸上生物圏による放出の増分より小さい。結果的に二酸化炭素濃度の年増加量は増大する傾向となる。
 ただし例外もある。たとえば1991~1992年は、エルニーニョ現象が発生したにも関わらず、濃度年増加量が小さかった。これは、1991年6月のピナトゥボ火山の噴火が世界規模で異常低温をもたらし、土壌有機物の分解による放出が抑制されたためと考えられている。
(エルニーニョ/ラニーニャ現象の発生期間の一覧はこちら

陸上生物圏による二酸化炭素の吸収量に及ぼすエルニーニョ現象の影響

陸上生物圏による二酸化炭素吸収放出量の経年変化

 エルニーニョ/ラニーニャ現象の発生によって、植物の光合成/呼吸や土壌有機物の分解など、陸上生物圏の活動が大きく変化する。陸上生物圏による二酸化炭素の全球の吸収量や放出量を直接計測することは非常に難しいが、正味の吸収量を間接的に推定する手法のひとつとして、人為起源放出量から大気中の増加量及び海洋による吸収量を差し引くというものがある(Le Quéré et al., 2016)。
 図に、そのようにして推定した陸上生物圏による正味の吸収量の、1990~2015年の経年変化を示す。桃色および水色の背景の箇所はそれぞれエルニーニョ、ラニーニャ現象発生時期に相当する。また、エラーバーは推定値の不確かさ(信頼区間68%の範囲)を表す。この計算に使用したデータは下の表に示してある。
 上で述べたように、エルニーニョ現象が発生すると陸上生物圏による二酸化炭素の吸収量が減少する傾向があるが、この解析では確かにそのような傾向がみられる。たとえば2015年にはエルニーニョ現象の発生に呼応するように吸収量の減少がみられる(WMO, 2016)。この年の吸収量は年間22±9億トン炭素で、これは前の10年間(2006~2015年)の平均(32±9億トン炭素)よりも小さい。同様に1997~1998年、2002~2003年及び2009~2010年に陸上生物圏による吸収量が減少している。特に1998年は、陸上生物圏による正味の吸収量が1990年以降で最も小さく、ほぼゼロであった。
 陸上生物圏は、1990~2015年の平均で年間26±8億トン炭素の二酸化炭素を正味で吸収している。陸上生物圏の吸収・放出量については年々変動が大きいため、1990~2015年の期間においてその明確な長期変化傾向は見られない。しかしながら、今後、地球温暖化がさらに進行すると陸上生物圏の吸収が抑制され、大気中の二酸化炭素濃度増加が加速することが懸念されており(IPCC, 2013)、引き続きその長期変化傾向について監視していく必要がある。



表: 陸上生物圏による二酸化炭素吸収量の算出に用いたデータ
(陸上生物圏による吸収) = (人為起源放出) - (大気中増加量) - (海洋による吸収)

人為起源放出 Le Quéré et al. (2016)※1
大気中増加量 WDCGGによる全球平均濃度
海洋による吸収 気象庁による解析 (Iida et al., 2015)※2

※1 各放出起源(化石燃料消費、土地利用変化など)からの二酸化炭素放出量の推定に用いた資料、計算の手法および結果が示されている。
※2 このデータは大気-海洋間の正味の二酸化炭素交換量を示しているため、 自然の炭素循環 における海洋からの放出量7億トン炭素/年(IPCC, 2013)を補正している。


参考文献

Iida, Y., A. Kojima, Y. Takatani, T. Nakano, T. Midorikawa, M. Ishii, 2015: Trends in pCO2 and sea-air CO2 flux over the global open oceans for the last two decades. J. Oceanogr., 71, 6, 637-661.

IPCC, 2013: Climate Change 2013: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Changeeds. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 1535 pp.

Le Quéré, C., R. M. Andrew, J. G. Canadell, et al., 2016: Global Carbon Budget 2016, Earth Syst. Sci. Data, 8, 605-649.

Keeling, C. D., T. P. Whorf, M. Wahlen and J. van der Plicht, 1995: Interannual extremes in the rate of rise of atmospheric carbon dioxide since 1980. Nature, 375, 666-670.

WMO, 2016: WMO Greenhouse Gas Bulletin, No. 12.