展示室2 二酸化炭素濃度解析の詳細

逆解法を用いた二酸化炭素濃度の解析方法

 二酸化炭素の濃度分布を解析する方法として、輸送モデル(forward model)と逆解法(inversion method)を組み合わせた手法が良く用いられています。ここで紹介している二酸化炭素濃度分布の解析は、大気トレーサー輸送モデル相互比較計画(TransCom)と呼ばれる研究プロジェクト(Gurney et al., 2000)で用いられた逆解法(Baker et al., 2006)におおむね準拠しており、以下に概要を示します。前提条件として、(1)式で表される行列式によって観測データ行列dは各領域からの放出を表す行列mと大気輸送行列G(輸送モデルの結果を用いる)の積で表されると仮定します。

行列式

 ここで、Mは分割された領域の数を示し、Nは逆解法に利用する観測値の数を示します。各領域からのフラックスは、評価関数S(m)を(2)式のように定義して、これを最小とする<m>を(3)式より求めます。

評価関数

評価関数を最小とするm

 両式においてdobsは先験的なフラックス(化石燃料の燃焼及び陸上生態系・海洋との二酸化炭素交換から推定されるフラックス)の寄与を除いた各観測所の月平均濃度行列、Cdは各観測所の月平均濃度の分散共分散行列を示し、mpは各領域からのフラックスの第一推定値行列、Cmはフラックス第一推定値の分散共分散行列を示し、分散共分散行列の非対角成分はゼロを仮定します。また、添字Tは転置行列を、−1は逆行列を示します。逆解法の具体的な手順は以下のとおりです。

  1. 観測データから月平均値とその標準偏差((2)、(3)式のCdの対角成分の平方根)を算出します。

  2. 先験的なフラックスを与えて、輸送モデルで各観測値に対する二酸化炭素濃度への寄与分を計算します。

  3. 1.の月平均値から2.で計算された各観測値における先験的なフラックスによる二酸化炭素濃度の寄与分を引き、(2)、(3)式のdobsを求めます。

  4. 地球上をいくつかの領域に区切った各領域(ここでは地球を陸上11、海洋11の合計22領域に分割)から1 GtC/yの二酸化炭素を1か月間のみ放出した時の各観測値に対する二酸化炭素濃度の応答((2)、(3)式のG)を、輸送モデルで計算します。

  5. これまでの様々な研究をもとに、各領域からの月平均フラックスの第一推定値(mp)とその標準偏差((2)、(3)式のCmの対角成分の平方根)を求めます。

  6. 式(3)を用いて(2)式の評価関数S(m)を最小とするような各領域からの月別フラックスの組み合わせ(<m>)を求めます。この際、1.、5.で求められた標準偏差を重みとして考慮しています。

ここでの解析においては、温室効果ガス世界資料センター(WDCGG: World Data Centre for Greenhouse Gases)が収集した二酸化炭素月平均値を逆解法を用いた選別を行い利用しています。データ選別手法は以下のとおりです。

  1. WDCGG月平均値データセットの中で、重複した観測地点を除外します。

  2. 各観測地点に対して、全解析期間について、欠測値を内挿もしくは外挿で補完したデータセットを作成します。この際、連続した観測が一定期間以上ない観測地点は解析から除外します。観測値の不確かさは、フィッティングカーブと実測値の標準偏差で与えます。ただし、欠測分のデータは、大きな不確かさを与えて解析から実質的に除外します。

  3. 2.で作成した全観測地点データセットを用いて、逆解法により各領域からのフラックス推定値と各格子点の濃度解析値を求めます。

  4. 観測値と、それに対応する濃度解析値を比較し、しきい値以上(ここでは、2.5σを採用しています)の観測値は大きな不確かさを与えて解析から除外し、逆解法を行います。

  5. 4.を除外される観測値がなくなるまで繰り返します。

参考文献

Baker, D.F., R.M. Law, K.R. Gurney, P. Rayner, P. Peylin, A.S. Denning, P. Bousquet, L. Bruhwiler, Y.-H. Chen, P. Ciais, I.Y. Fung, M. Heimann, J. John, T. Maki, S. Maksyutov, K. Masarie, M. Prather, B. Pak, S. Taguchi and Z. Zhu, 2006: TransCom 3 inversion intercomparison: Impact of transport model errors on the interannual variability of regional CO2 fluxes, 1988–2003. Global Biogeochem. Cycles, 20, GB1002, https://doi.org/10.1029/2004GB002439.

Gurney, K., R. Law, P. Rayner and S. Denning, 2000: TransCom 3 Experimental Protocol. Department of Atmospheric Science, Colorado State University, USA, Paper No. 707, https://hdl.handle.net/10217/234782.