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展示室7 濃度傾向・全球濃度の解析

濃度傾向解析方法

 二酸化炭素などの濃度変動を季節変動成分と長期変動成分に分離する解析方法として、従来から、 三角関数などの関数当てはめ法(例えば、1995年以前の大気バックグランド汚染観測年報で使用していたKeeling et al., 1989)や 数値フィルタリング(例えば、Thoning et al., 1989やNakazawa et al., 1991)、あるいは両方を組み合わせた手法( 例えば、Conway et al., 1994)が開発されてきた。本報告では、以下に述べるNakazawa et al.(1991)と同様の方法によって、 観測値の時系列データから長期変動成分と平均的季節変動成分を求めた。

  1. 観測値の時系列データから線形トレンドを差し引く。

  2. トレンドを差し引いた時系列データに対して、平均的な季節変動として次のフーリエ級数展開を適用する。
    フーリエ級数展開
    ここで、tは観測開始以来の経過時間(単位は年)を示し、kはすべての観測所における平均的な季節変動を表現できるように3に固定した。
  3. もとの時系列データから2.で求めた季節変動を差し引いた時系列データに対して、Lanczosフィルター(Duchon, 1979)をかけて長期変動成分を求める。この数値フィルターのカットオフ周波数(フィルターからの出力信号が入力信号の半分になる周波数)は0.48サイクル/年とした。

  4. もとの時系列データから3.で求めた長期変動成分を差し引く。この長期変動成分を差し引いた時系列に対して、2.と同様の操作によって、平均的な季節変動を求める。

  5. 3.及び4.の操作を、平均的な季節変動及び長期変動成分が変化しなくなるまで繰り返す。これはおおむね数回の繰り返しによって達成される。

 上記の方法で使用したLanczosフィルターの応答関数を下図に示す。 入力信号の周波数が0.48サイクル/年の時に出力信号の振幅が半分の大きさになることがわかる。 また、解析期間が短くなるのを防ぐため、3.の処理の初回については、直近の1年間の濃度を用いて1次回帰式により傾きを求めて 線形トレンドを延長し、それに対してフィルター処理を施している。

Lanczosフィルターの応答関数

Lanczosフィルターの応答関数
このフィルターでは入力信号の周波数が0.48サイクル/年の時に出力信号の振幅が半分の大きさになっている

 下図に、一例として、入力した信号のパワースペクトルとこの手法を適用した出力信号のパワースペクトルを示す。 入力信号には大気環境観測所(岩手県綾里)で観測された二酸化炭素濃度の月別平均値を用いた。この手法によって、 観測値の時系列に含まれていた季節変動(1.0サイクル/年)より高周波の成分がフィルターによって除去されていることがわかる。

パワースペクトル

入力信号のパワースペクトル(実線)とこの手法を適用した出力信号のパワースペクトル(破線)
入力信号は綾里で観測された二酸化炭素の月平均値、出力信号はその長期変動成分である


  下図の上のグラフは、大気環境観測所(岩手県大船渡市綾里)で観測された二酸化炭素濃度の月別平均値と、 上記の手法によって求めたその長期変動成分(季節変動成分を除いた濃度変動)である。 なお、長期変動成分の算出には、それよりおおよそ半年以上先の濃度値が必要なため、最後の半年分の長期変動成分は、 それ以前の値に比べて、より大きな誤差を含んでいる可能性がある。
  下図の下のグラフは、観測値から長期変動成分を差し引いた各年ごとの季節変動成分である。

綾里で観測された二酸化炭素の月平均値とその長期変動成分

上:綾里で観測されたCO2の月平均値(点及び細線)とその長期変動成分(太線)
下:綾里で観測されたCO2の月平均値から長期変動成分を差し引いた各年ごとの季節変動成分

 各月の参照濃度は、この長期変動成分を差し引いた季節成分により当該月の濃度を推定したものである。 また、月ごとに、参照濃度の誤差範囲を、各年の月別濃度と参照濃度の差の標準偏差で示す。

全球濃度解析方法

 上記の手法で各観測所の濃度解析値を算出した。 なお、解析に用いた観測点の中で、解析対象とした期間に欠測期間があると、欠測の前後で緯度帯平均値にギャップを生じる。 そこで、欠測期間については、同一緯度帯の平均的な濃度増加率及びその観測所の平均的な季節変動成分をもとに濃度値を推定して 緯度帯平均の計算に組み入れ、欠測にともなうギャップが生じないようにした。 その後、20度ごとあるいは30度ごとの緯度帯別に単純平均し、その緯度帯の平均濃度として変動の特徴を調べた。
 二酸化炭素の全球濃度解析に用いた観測点は、観測に使用した標準ガス濃度がWMOの基準に基づいて較正されており、 かつ、平均濃度がその緯度分布曲線の近傍に分布していることからバックグランド観測所として適切であると考えられる地点とした。 メタンに関しては、WMO基準は2005年に確立され、現在普及されつつある段階であることから、 観測に使用した標準ガス濃度がWMOの基準に基づいて較正されている観測点に加えて、 それとWMO基準との違いが科学的に明らかになっている観測点で、かつ、 二酸化炭素と同様な手法でバックグランドデータとして適切であると考えられる地点を選別して用いた。 一酸化二窒素に関しては、WMO基準に基づいているか、又はWMO基準との違いが科学的に明らかになっている観測所を選別して用いた。 なお、濃度変動の安定している一酸化二窒素については、二酸化炭素やメタンで用いたバックグランドに関する選別処理は行っていない。

参考文献

Conway, T. J., P. P. Tans, L. S. Waterman, K. W. Thoning, D. R. Kitzis, K. A. Masarie, and Ni Zhang, 1994: Evidence for interannual variability of the carbon cycle from the National Oceanic and Atmospheric Administration/Climate Monitoring and Diagnostics Laboratory Global Air Sampling Network. J. Geophys. Res., 99, 22831–22855.

Duchon, C. E., 1979: Lanczos Filtering in One and Two Dimensions. J. Appl. Meteor., 18, 1016–1022.

Keeling, C. D., R. B. Bacastow, A. F. Carter, S. C. Piper, T. P. Whorf, M. Heimann, W. G. Mook, and H. Roeloffzen, 1989: A three-dimensional model of atmospheric CO2 transport based on observed winds: 1. Analysis of observational data. Geophysical Monograph, 55, 165–236.

Nakazawa, T., K. Miyashita, S. Aoki, and M. Tanaka, 1991: Temporal and spatial variations of upper tropospheric and lower stratospheric carbon dioxide. Tellus, 43B, 106–117.

Thoning, K. W., P. P. Tans, and W. D. Komhyr, 1989: Atmospheric carbon dioxide at Mauna Loa observatory: 2. Analysis of the NOAA GMCC data, 1974–1985. J. Geophys. Res., 94, 8549–8565.