第3回アルゴ科学チーム会合報告

吉田 隆、気象庁

会期 2001年3月20−22日

場所 カナダ海洋科学研究所(ブリティッシュ・コロンビア州シドニー)

出席者 D. Roemmich(議長、米国スクリプス海洋研究所)のほか、13カ国と国際機関から総数38名。わが国からは竹内謙介(地球観測フロンティア研究システム)、水野恵介(海洋科学技術センター)、四竃信行、岩尾尊徳(気象研究所)、古川博康(科学技術庁)、吉田隆(気象庁)が出席。

アルゴ科学チームは、Argoを推進するためにCLIVAR上層海洋パネルとGODAE運営委員会により設立された組織で、現在のところ、Argoを国際的に推進する唯一の組織である。同チームの過去2回の会合でプロジェクトの基礎が作られてきた。3回目にあたる今回は、新たに中国、韓国、インドの代表が委員に加わった他、ロシア、スペイン、ニュージーランドからも参加者があった。以下、事項毎に概要を述べる。

  1. フロートの展開

    各国からの計画及び実施状況の報告をもとに大洋ごとのフロート個数が集約され、今後のフロート展開にあたっての方向性が議論された。インドが今後3年間で150個のフロートを投入する予定であること、中国は自国によるフロートの開発後に本格参加になるが、今年度に10本ほど南シナ海ならびに赤道域に投入を行うこと、韓国は日本海と西太平洋に毎年25本ほど投入する計画をもっていること、アメリカと南太平洋諸国、オーストラリア、ニュージーランドが共同で相当数のフロートを投入すること、などが紹介された。我が国からはミレニアムプロジェクト・アルゴ計画の概要と、同計画におけるフロート展開として2000年度に17本を投入したこと及び2001年度には84本を西太平洋に、10本を東部熱帯インド洋にそれぞれ投入する計画であることを報告した。

    2001年度までに各国が確保したフロートの総計は900個を超えている。2002年度以降3年間は各国の提案個数の総数は平均して年間750個であり、今後4年間に各国が投入予定の合計は2000を超えている。これからも参加国が増える可能性や、既に参加している国のフロートの個数が増える可能性も含めると、4年後には世界中のフロートの個数が目標の3000に達する可能性が高まってきていることが示された。

    各大洋別に見ると、大西洋、北太平洋では既に十分な個数が期待でき、インド洋に関して目標に近づきつつあるが、南太平洋や南大洋では目標を大きく下回っている。初期のフロート展開は、全球的な展開を最優先に、Argoの価値と成功を速やかに示すことを志向しており、南太平洋や南大洋が今後の展開努力の大きな焦点である。解決のためにはニュージーランドなど南大洋にロジを持つ(投入のための船舶等を用意できる)国とフロートを供給できる国の協力関係が鍵のひとつになると考えられる。

    我が国の関心海域では、太平洋の熱帯域がまず必要数に達する見込みであり、この領域に今後日本や韓国が投入を行うのであれば現在計画している投入域を東に移動させることも検討事項のひとつとなる。

    なお、大洋毎の実施企画会合はこれまで太平洋(2000年4月、東京)、大西洋(2000年7月、パリ)で行われており、インド洋については2001年7月後半にインドのハイデラバードで開催される。

  2. データシステム

    アルゴデータ管理ワークショップ(2000年10月、ブレスト)の結果に基づくデータシステムの構築状況が報告された。本アルゴ科学チームの下に、データシステムの管理を行う常設委員会が設置されることとなった。同委員会が速やかに取り組むべき対処事項は以下のとおりである。

    • すべてのアルゴデータのGTSを経由した準リアルタイムでの公開の確保
    • アルゴデータの速やかな交換と普及のための共通フォーマットの策定
    • データシステムの運用開始までのタイムテーブルの作成

    同委員会は2001年9月にオタワで会合を開く予定である。

  3. 技術的な事項

    最も大きな問題である塩分センサーの安定性について、いくつかの問題点が示されたものの、ワシントン大のRiserが3年以上漂流の後に回収されたフロートについて再検定した結果、ほとんど時間変動が無視できることが示され、基本的にフロートが海面近くにいる時間がそれほど長くなければ塩分センサーの時間変動はあまり問題にならないという楽観的な見方が強まった。

    塩分データの補正に関して、センサーのドリフトをポテンシャル電気伝導度で把握し補正する手法を、アメリカのグループも試みていることが発表された。日本でも同様の手法を試みている。センサーが測定する物理量そのものである電気伝導度のずれを見るのがセンサーのドリフトの把握のためには最適であり、その圧力依存部分を除去するためにポテンシャル電気伝導度を用いている。

    通信に関して、破産したイリジウム社(双方向通信・高速通信のサービスを提供する衛星通信会社)をアメリカの国防省が援助し、営業を続けられる見通しになったことが報告され関心を集めた。ただし、現状では営業のための財源の安定性を欠いており、実現のためには政府等への働きかけを強める必要があるとのことである。

    投入方法では、イギリスグループから、船に取り付けたスロープを用いて航走中の船舶から投入する方法が報告された。

  4. 国際的な履行に関する事項

    アルゴ情報センター(AIC)の機能に関し、フロート運用者が新たなフロート展開に関する情報をAICウエッブサイトに登録することを含めた、フロート展開の通知手順について議論された。アルゴ調整官(アルゴ計画の実施について様々な面から支援するポスト)がその最優先の仕事として、オンラインのフロート追跡システムを構築する。即時的な位置情報はAICがサービスアルゴスから直接取得することとなった。

    EEZにおけるフロート展開についての国際的な了解と支援を確立する必要性を含め、アルゴ実施のために必要な地域的協調が必要となる。この成功例として、SOPACの調整の下、太平洋の島国の合意形成を図り、西部及び中部熱帯太平洋を中心に70個のフロートを展開する計画が紹介された。EEZについて、我が国は条約の解釈上、EEZにおける投入のみならずEEZへ進入する可能性のあるフロートについても沿岸国に事前の同意を求めることとし、実際に同意申請を行っている。会合ではこれに対する違和感(他にこのような手続きを行っている国はない)も示されたが、各国の当局の解釈を尊重することに異論のあるメンバーは当然ながらいなかった。

    環境問題に関しては、フロートが海岸に打ち上げられたり、漁船に拾われた場合に、回収可能とするためのラベルを貼り付けることとして、具体的にはAICを中心に検討されることになった。ラベルにはWMO ID、ARGOS ID、連絡先などを示すことにより拾った者がAICに連絡するようなシステムにする。

    キャパシティ・ビルディングの一例として、アルゴデータと環境科学に焦点を当てた国際プロジェクト(SEREAD)が紹介された。SEREADは、国際海洋協会太平洋諸島支部(IOI-PI)、IOCパース地域計画事務所、SOPAC、NOAA等が協同で推進するもので、太平洋の島々の中学生達にそれぞれが担当するアルゴフロートを割り当て、そのモニタリングの役目を与えることにより、中学生達、教師、及びそれを取り巻くコミュニティーのアルゴと環境科学への関心を高めることを目的としている。

  5. その他

    アルゴ科学チームはその構成をフロートについての専門家、フロート購入等に関する国の代表に対してオープンとしている。この一年間のフロート供給国の増加によりメンバーが増え、機敏な行動が困難になったことから、Roemmich議長以下、北米、欧州、アジア、南半球の代表から成り、主に電子メールで活動を行う実行委員会(Executive Committee)を設置することとした。代表として、北米からH. Freeland(加)、欧州からY. Desaubies(仏)が選ばれた。アジアと南半球は追って選出する(地域ごとの相談で、アジアでは日本を推す声が強かったが、インドが難色を示したため話がまとまらなかった)。

    次回会合はオーストラリアで2002年の早い時期に開催されることとなった。会期間会合として、2001年7月にインド洋の実施会合がインドで行われる。中国が次々回会合(2003年)の招致を申し出て、暫定的に合意された。

    なお、本会合のサマリーレポートが、国際Argoホームページ(http://www.argo.ucsd.edu/)からダウンロード可能である。詳細は同レポートを参照されたい。


日本海洋学会 「海の研究」 第10巻 第4号より転載