水蒸気画像の特徴

大気中の気体分子による吸収特性の図(図1)を見ると、赤外領域の中で特に水蒸気の吸収を受ける領域があることがわかります。AHIの観測バンドではバンド8(6.2μm)、バンド9(6.9μm)、バンド10(7.3μm)が対応します。これら3つのバンドの画像は特に水蒸気画像と呼ばれます。水蒸気画像も他の赤外画像と同じく輝度温度の分布を表しており、温度の低いところを明るく、温度の高いところを暗く画像化していますが、大気中の水蒸気による吸収が支配的であるために、画像での明暗が対流圏上~中層の水蒸気の多寡に対応することが特徴です。

3つのバンドの荷重関数を見ると(図2)、それぞれ違った高度にピークを持っており、観測される水蒸気の高度もそれぞれ異なっていることが示唆されます。ただし、荷重関数にあるようにピークのある特定の高度の水蒸気分布を示しているのではなく、衛星から見てある程度の深さを持った分布を示していることに注意が必要です。

水蒸気画像は、大気中の水蒸気をトレーサとして上~中層の大気の流れを可視化することができ、水蒸気画像で現れる明・暗域の分布から、上~中層のトラフ・リッジや渦、ジェット気流の位置を推定、明・暗域の時間変化からみた上~中層トラフの深まり、乾燥域の沈降の強さの推定等ができます。

ひまわり 8 号/ 9 号では解像度が従来の 4km から 2km(衛星直下点)に向上したことで識別が容易となった現象もあります。たとえば図3に示すように水蒸気画像において波状パターン(図の赤丸付近)がたびたび見 出されるようになりました。これは山岳波に対応する波動であると考えられます。山岳波は航空機の運航にとって重要な情報となりうるため(気象衛星センター, 2002)、今後の詳細な調査が期待されています。

これらの水蒸気画像を比較して大気中の水蒸気の鉛直構造を解析することもできます。バンド9は荷重関数では、標準大気で 400~500hPa 付近にピークが見られ、バンド8のピークに対応する高度よりやや低くなっています。このような特性からバンド9画像ではバンド8画像よりやや低い対流圏上中層の水蒸気の多寡を捉えることができます。

図4に3つの水蒸気画像の例を示します。画像の全体的な明暗を比較すると上層の水蒸気の影響をより多く受けるバンド8のほうが明るく(輝度温度が低く)、相対的にバンド9の画像は暗く(輝度温度が高い)なっています。各観測波長帯の水蒸気に対する透過率を見るとバンド8よりも相対的にバンド 9 は水蒸気の透過率が高いことがわかります。

図1 赤外バンド波長(波数)帯における大気中の気体分子による吸収特性。縦軸は透過率、横軸は波数、赤線と最上段の赤字はひまわり 8 号の観測バンドを示す(Clerbaux et al., 2011 に一部追記)。
図2 各赤外バンドの荷重関数(縦軸:気圧、横軸:荷重関数)。
図3 水蒸気画像における波状パターン(山岳波)の事例(図の赤丸付近)。左からバンド 10、バンド 9 およびバンド 8 の画像。
図4 バンド 8(上)、バンド 9(中)、バンド 10(下)の画像例。