にんじん状雲

中・上層風上側に向かって、次第に細く毛筆状あるいは、にんじん状になっている雲域をにんじん状(carrot-shaped)雲(以下にんじん状雲)と呼ぶ。 これは、風上側から風下側に広がったCbの雲列と上層風に流されるかなとこ巻雲で構成されている。

にんじん状雲は、特に穂先部分では豪雨、突風、雷、降雹などの顕著現象を伴うことが多く、その発生や移動を監視することは重要である。 気象衛星センター(1991)によれば、にんじん状雲を構成する個々のCbを含む対流雲は中・上層風の下流側へ移動することが多いが、 ほぼ停滞したり、時には風上側に伸びる対流雲列上に発生することもある。にんじん状雲のライフタイムは、ほとんどが10時間未満である。

一般的に、にんじん状雲の発生しやすい主な状況は、以下の通りである。

  • 発生場所は、主に海上で、地上低気圧中心付近や前線近傍・暖域である。
  • 対流圏下層の暖湿気の流入(暖湿移流)とその上への乾燥空気の流入が顕著である。
  • 対流圏上層には、相対的な強風帯、明瞭な鉛直シア及び上層発散がある。

図1では、石垣島の南東には、丸で囲んだ領域ににんじん状雲が見られ、かなとこ巻雲が北東方向に広がっている。 また、可視画像(図2)ではCbラインが南の先端から北北東に延びている。 図1の右上に示したレーダー観測画像では、Cbライン対応の降水強度32~64mm/hrのエコーが観測されている。

赤外画像(B13)とレーダー降水強度 図1 赤外画像(B13)とレーダー降水強度
(2015年12月10日04UTC)
可視画像(B03) 図2 可視画像(B03) 2015年12月10日04UTC

図3は水蒸気画像(B08)と200hPa高度と風を重ねたものである。図3ではにんじん状雲の風上から風下に向かって風速が強まる加速場(発散域)であることが分かる。さらに、等風速線から北側には、100ktを超える強風帯がある。水蒸気画像では、にんじん状雲は相対的な湿り域と乾燥域の境界に発生しており、風系から乾燥空気の流入を示している。図4に850hPaの相当温位と風を示した。にんじん状雲の発生域は、寒冷前線近傍の暖域内で330K以上の高相当温位域が南から進入している。図4の青線に沿った断面をとると、図5のように上空に向かって強い風速のシアが見られ、前述した発生しやすい状況と一致する。

水蒸気画像(B08) 図3 水蒸気画像(B08)と200hPa等高度(茶)、風、等風速線(黒)2015年12月10日04UTC
赤外画像(B13)と850hPa相当温位、風 図4 赤外画像(B13)と850hPa相当温位、風 (2015年12月10日04UTC)
青線に沿った断面図 図5 青線に沿った断面図