解説(大気の循環・雪氷・海況図表類)

 用いる各データの平年値は、特に断りのない限り1991~2020年の30年間の平均値とし、偏差は平年値からのずれを示します。標準偏差は平年値の期間より計算しています。

中・高緯度の循環

大気循環場データ

 気象庁第3次長期再解析(JRA-3Q)による1日4回の解析値を用いています。JRA-3Qの詳細については、 こちらをご覧ください。

波の活動度フラックス

 東西非一様な基本場におけるロスビー波束の伝播を解析するためのものであり、Takaya and Nakamura (2001)に従って計算しています。このフラックスを用いた解析により、例えば、ブロッキング現象(長波の振幅が大きくなり、その位相が長期間停滞する現象)の形成・維持に係る準定常ロスビー波の寄与を診断することができます。

高周波変動の単位質量あたりの運動エネルギー

 総観規模擾乱(移動性高・低気圧)の活動度を示します。計算方法は、2~8日のバンドパスフィルター(Duchon 1979)により抽出した500hPaの東西風及び南北風の高周波変動成分から単位質量当たりの運動エネルギーを計算し、それを1か月間平均して求めています。

全球帯状平均場の対流圏上層における東向き運動量の北向き輸送量、及び、850hPaにおける熱の北向き輸送量

 Newellら(1972)の考え方に沿って計算しています。「子午面循環」による輸送量は1か月平均の帯状平均によるもの、「定常擾乱」による輸送量は1か月平均の帯状平均からのずれによるもの、「非定常擾乱」による輸送量は1か月平均からのずれによるものと定義しています。

北半球500hPa高度の主成分分析

 統計的に現れやすい変動パターンを季節ごとに抽出し、各パターンの経年変化や季節内変動を監視するため、主成分分析によって得られた固有ベクトル(空間パターン)及びスコアを掲載しています。主成分分析には、緯度による重みをかけた北緯30度以北の季節平均500hPa高度の共分散行列を用いています。主成分分析の計算期間は1948~2021年です。これによって得られた固有ベクトルは、この期間に統計的に最も現れやすかった500hPa高度偏差のパターンを表します。季節平均及び5日平均の主成分スコアは、それぞれ季節平均及び5日平均500hPa高度の平年値期間(1991~2020年)からの偏差を固有ベクトルに投影することで算出します。なお、固有ベクトルの振幅の大きさは、季節平均主成分スコアの平年値期間の分散が1になるように規格化しています(単位:m)。

層厚換算温度

 静力学平衡を仮定して、2つの等圧面間の層厚(ジオポテンシャル高度差、単位: m)から求めた、等圧面間の大気の平均的な気温(単位: K)です。

熱帯の循環と対流活動

大気循環場データ

 中・高緯度に関するデータと同様に、JRA-3Qによる解析値を用いています。

対流活動を推定するデータ

 米国の極軌道衛星により観測された外向き長波放射量(OLR、単位: W/m2)を利用しています。解析値は、まず、米国海洋大気庁(NOAA)気候予測センター(CPC)より提供された1日2回の観測データから月や半旬で平均した値を速報値として作成します。このCPC提供データには欠測値が含まれる場合があることから、観測から数か月を経て、NOAA環境衛星データ情報局(NESDIS)より提供される時間・空間内挿によって欠測値を補完した日平均データから再度解析値を作成し、確定値としています。このため、後日、予告なしにデータが書き変わる場合があることに留意してください。また、CPC提供データが欠損している期間は、更新が遅れたり灰色で塗られた欠損表示となったりすることがあります。なお、1991年以降のOLRの図には、NOAA気候予測センター(CPC)より提供されたBlended OLRを用いています。
 OLRは、晴天時は地表から、雲がある場合には雲の上端から、宇宙に向かって放出される長波放射の強さを表します。この強さは雲の上端の高さに対応し、値が小さいほど対流活動が活発であると推定できます。冬季の中緯度や標高の高いところ(例えばチベット高原など)では、対流活動が活発でなくても地表面温度の低い状態が反映され、放射量が少なく値が小さくなっているので注意が必要です。詳細については、こちらをご覧ください。

流線関数

 ベクトル解析におけるヘルムホルツの定理により、水平方向の風は、回転成分(非発散風)と発散・収束成分(発散風)に分けることができます。風の回転成分は以下の式を満たす流線関数を用いて表現されます。
 uψ = -δψ/δy,  vψ = δψ/δx
 (ψ:流線関数、uψ、vψ:東西、南北風の回転成分)
 このとき、風の回転成分は流線関数の等値線に平行で風下に向かって左手に小さい値を見て流れ、その強さは流線関数の勾配に等しい(等値線の混んでいるところほど風が強い)という性質があります。流線関数の平年偏差は平年と比べた高気圧性循環あるいは低気圧性循環の強さを表しており、平年の循環が高気圧性循環なのか低気圧性循環なのかで意味が異なります。例えば、平年の循環が高気圧性循環のところで高気圧性循環の平年偏差が現れれば、高気圧性循環が平年より強いことを表します。一方、平年の循環が低気圧性循環のところで高気圧性循環の平年偏差が現れれば、低気圧性循環が平年より弱い、あるいは平年と異なり高気圧性循環となっていることを示します。

速度ポテンシャル

 風の発散・収束成分は以下の式を満たす速度ポテンシャルを用いて表現されます。
 uχ = δχ/δx,  vχ = δχ/δy
 (χ:速度ポテンシャル、uχ、vχ:東西、南北風の発散・収束成分)
 このとき、風の発散・収束成分は速度ポテンシャルの等値線に直角に、かつその値の小さいところから大きいところに向かって吹き、その強さは速度ポテンシャルの勾配に等しいので、速度ポテンシャルの値が負で絶対値が大きいほど、大規模な発散が強いことを意味します。一般に、熱帯域での上層発散(収束)、下層収束(発散)域は、大規模な対流活動の活発な(不活発な)領域に概ね対応しています。

熱帯の大気・海洋の監視指数

南方振動指数(SOI)

 貿易風(赤道付近で定常的に吹いている対流圏下層の偏東風)の強さを監視するための指数です。エルニーニョ現象発生時には貿易風が弱まる一方、ラニーニャ現象発生時には強まります。計算方法は、まずタヒチとダーウィンの標準偏差で規格化された海面気圧の差を求め、それをさらに標準偏差で規格化しています。詳細については、こちらをご覧ください。

赤道東西風指数

 赤道付近の東西循環を監視するための指数です。計算方法は、領域の縁に当たる格子点の値に1/2の重み、四隅に当たる格子点の値に1/4の重みをかけてから領域平均し、標準偏差で規格化しています。詳細については、こちらをご覧ください。

図 赤道東西風指数の領域

図 赤道東西風指数の領域

図 赤道東西風指数の領域(上は対流圏上層(200hPa面)、下は対流圏下層(850hPa面))

OLR指数

 フィリピン付近、インドネシア付近、及び、日付変更線付近の対流活動を監視するための指数です。計算方法は、符号を反転させたOLR平年偏差を領域平均し、標準偏差で規格化しています。平年偏差の符号を逆にしているため、正の値は平年より活発、負の値は不活発を示します。

図 OLR指数の領域

図 OLR指数の領域

夏のアジアモンスーンOLRインデックス(SAMOI: Summer Asian Monsoon OLR Index)

 夏のアジアモンスーンの活動を監視するため、気象庁が独自に定義した指数です。この指数は、夏(6~8月)平均したOLRを(5ºS-35ºN, 60ºE-150ºE)の領域で主成分分析して、東西あるいは南北でシーソー変動(例えば、東側で活発な一方、西側で不活発となるような相反する変動)するパターンを抽出し、その結果から、全体の活動度を示すSAMOI(A)、北偏度を示すSAMOI(N)、西偏度を示すSAMOI(W)を定義しています。

 SAMOI(A)=((-1)×OLR(W+E))を正規化
 SAMOI(N)=(正規化OLR(S)-正規化OLR(N))を正規化
 SAMOI(W)=(正規化OLR(E)-正規化OLR(W))を正規化

 ここで、OLR(X; XはN, S, E, Wのいずれか)は、下図に示したX領域で平均したOLRを示しています。夏のアジアモンスーンの活動が活発(SAMOI(A)が正)な場合、亜熱帯ジェット気流が極側にシフトする、チベット高気圧が強い、日本付近で高気圧が強く北日本を中心に高温になるなどの関係がみられます。また、モンスーンに伴う活発な対流活動域が北偏(SAMOI(N)が正)する場合、本州付近では高温になる傾向があります。

図 夏のアジアモンスーンOLR指数(SAMOI)の領域

図 夏のアジアモンスーンOLR指数(SAMOI)の領域

海面水温および平年偏差

 エルニーニョ/ラニーニャ現象などを通じて大気の循環に大きな影響を与える赤道域の海面水温を領域平均して作成しています。気象庁が定義している熱帯の海洋変動監視指数とは、使用する領域は同じですが、計算方法が異なります。

海況

使用データ

 気象庁の海面水温解析(COBE-SST2; Hirahara et al. 2014, MGDSST)と海洋データ同化システム(MOVE/MRI.COM-G3)による解析結果を用いています。エルニーニョ/ラニーニャ現象などの監視に不可欠な海面水温などの分布図や断面図を作成しています。

月平均海面水温(偏差)図等

 気象庁が収集した海面水温の観測データに基づいて全球1º×1ºの格子で作成した海面水温及びその偏差の分布図です。なお、細かな変動を除くため、緯度経度方向共に簡単なフィルタを施し、等値線をなめらかにしています。3か月平均の図は季節毎の変動を把握するのに利用しています。

貯熱量の時間-経度断面図等

 太平洋の北緯6度線、赤道、南緯6度線に沿った海洋表層の貯熱量(OHC: 海面から300m深までの平均水温に相当する)、赤道に沿った20ºC深度、及び赤道に沿った海面の風応力の東西成分とそれぞれの偏差の時間-経度断面等を示しています。なお、細かな変動を除くため、経度方向に簡単なフィルタを施し、等値線をなめらかにしています。特にエルニーニョ現象と深くかかわる太平洋赤道域の海況に焦点をあて、赤道や南北6度の緯度線に沿った最近の3~5年間の時間推移を示しています。

積雪の状況

衛星観測データ

 衛星観測による積雪日数は、米国国防省気象衛星(DMSP)衛星に搭載されたマイクロ波放射計(SSM/I・SSMIS)および宇宙航空研究開発機構(JAXA)の水循環変動観測衛星(GCOM-W)に搭載された高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)の観測値を用いて、気象庁が開発した手法により解析した値です(気象庁 2011)。平年値は、1991~2020年平均値です。

地上観測データ

 地上観測による積雪日数は、世界各国の気象機関から通報された、地上月気候値気象通報(CLIMAT報)及び、地上実況気象通報(SYNOP報)に基づく値です。

参考文献

Duchon, C. E., 1979: Lanczos Filtering in One and Two Dimensions, J. Applied Meteor., 18, 1016-1022.
気象庁,2011: 気候系監視資料2010.
Newell, R. E., J. W. Kidson, D.G. Vincent, and G. J. Boer, 1972: The General Circulation of the Tropical Atmosphere and Integrations with Extratropical Latitudes, Vol.1, The MIT Press.
Takaya, K., and H. Nakamura, 2001: A Formulation of a Phase-Independent Wave-Activity Flux for Stationary and Migratory Quasigeostrophic Eddies on a Zonally Varying Basic Flow, J.Atom.Sci., 58, 608-627.
Hirahara, S., M. Ishii, and Y. Fukuda, 2014: Centennial-scale sea surface temperature analysis and its uncertainty. J.Climate, 27, 57-75.


(最終更新日 2023年5月30日)

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