長期変化傾向(トレンド)の解説

 このページでは、地球温暖化やヒートアイランド現象などの解析で用いている「長期変化傾向(トレンド)」について解説します。
 なお、折れ線グラフによる気温を例に解説していますが、棒グラフで示している降水量や階級別回数(1時間降水量50mm以上の発生回数など)でも考え方は同じです。

長期変化傾向(トレンド)とは

 気象庁では、地球温暖化やヒートアイランド現象といった人為起源の気候変動の解析などのために、長期変化傾向を用いています。
 気象庁が用いる長期変化傾向とは、数十年から百年を超える観測値などについて、その期間の「平均的な変化」を示したもので、その値は10年あたり(例:約0.25℃/10年)や100年あたり(例:約2.5℃/100年)のように時間的な変化の割合で表します。トレンドと表記する場合もあります。また、経年変化を示したグラフ(図1)では、年々の値の長期変化傾向を示した直線(回帰直線)を赤色で示しており、この直線の傾きが変化の割合となります。

 

図1 経年変化を示したグラフの例(ある地点の年平均気温偏差)
細線(黒)が各年の平均気温の基準値からの偏差、太線(青)が偏差の5年移動平均、直線(赤)が長期的な変化傾向を示します。基準値は1991〜2020年の30年平均値です。

詳しい説明

なぜ長期変化傾向を算出するのか

 ひとつの季節の中でも暑い日や寒い日があるように、年によっても暑い年や寒い年があります。このような年ごとの違いは、地球温暖化やヒートアイランド現象といった人為的な影響の有無にかかわらず起こりうる自然の変動です。自然変動には、地球の気候がもともと持つ変動する性質(年ごとの違いのほか、エルニーニョ・ラニーニャ現象といった数年の周期を持つものや、太平洋十年規模振動などの十年から数十年の周期を持つものが知られています)によるものと、火山活動や太陽活動の変化のような気候以外の自然の影響によるものがあります。観測で得られる各年の値は、このような様々な周期の自然変動と人為起源の気候変動を含んだものとなります。
 このため、観測結果を用いて人為起源の気候変動を監視するためには、観測値から様々な周期の自然変動の成分をなるべく除去する必要がありますが、地球温暖化やヒートアイランド現象は、それらの監視に影響を及ぼすような自然変動よりもゆっくり変化しているので、観測結果から短い周期の変動を取り除き数十年から百年を超える長期的な変化傾向を算出することで、人為起源の気候変動の指標として用いることができます。
 これらを図1の各線に大まかにあてはめると、この期間の平均的な人為起源の気候変動が直線(赤)、これに数年から数十年の自然変動を加えたものが太線(青)、更に年ごとの自然変動を加えたものが細線(黒)とみなすことができます(図2)。

 

図2 様々な周期の自然変動と人為起源の気候変動の重ね合わせ
上段左は図1の直線(赤)、上段中は数年から数十年の自然変動の例、上段右及び下段左は図1の太線(青)、下段中は年ごとの自然変動の例、下段右は図1の細線(黒)を示します。観測で得られた各年の値(下段右)は、この期間の平均的な人為起源の気候変動(上段左)に、様々な周期の自然変動(上段中、下段中)を重ね合わせたものとみなすことができます。

長期変化傾向の算出方法とその評価について

 長期変化傾向の変化の割合は、前述のように年々の値の回帰直線の傾きとして算出します。具体的には最小二乗法という方法を用いて、年ごとの値と、ある直線上におけるその年の値との差(図3の緑矢印)を2乗し、これを期間にわたって合計した値が最小となるように、直線の傾きと縦軸との交点を定めます。これが回帰直線であり、その傾きが変化の割合となります。
 そして、この変化が統計的に意味のあるものかどうかを確認します(有意検定)。これは、自然変動により毎年バラバラな値となる観測値は、人為起源の気候変動などによる「現れやすい値の変化」がなかったとしても、たまたま大きい値や小さい値が続いたりすることで、「偶然」に長期変化傾向があるように見えることがあるため、その偶然性を評価する必要があるからです。気象庁ではこの偶然に現れる確率を計算し、これが10%以下(信頼水準が90%以上)の場合に統計的に意味のある変化として、上昇している・下降しているなどの表現を用いるとともに、経年変化を示したグラフに回帰直線を赤色で示しています。
 また、一部の刊行物やホームページでは、5%以下(信頼水準が95%以上)や1%以下(信頼水準が99%以上)についても偶然性の評価を行っており、表1のように記述を区別してより詳細に示しています。

 

図3 最小二乗法で用いる各値
細線(黒)が各年の値、直線(黒)が仮の直線、両矢印(緑)が年ごとの差を示します。両矢印を2乗したものを全期間にわたって合計したものが最小になるように直線を決めます。

表1 偶然性の評価による記述の違い


 なお、観測場所の移転に伴う影響を除去できないなど、統計期間にわたってデータが均質でない場合は、長期変化傾向の算出や評価を行っておりません。(観測場所の移転に伴う気温データの補正方法については、こちらをご覧ください。)

よくある質問

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