南極でオゾンホールが発生するメカニズム
地上で放出されたクロロフルオロカーボン類(フロン類)等は、上部成層圏(高度40km付近)において太陽紫外線により分解され、
塩素原子が生じます。この塩素原子が触媒となって、上部成層圏でオゾンを連鎖的に破壊します。
塩素原子は、その後下部成層圏にも輸送されますが、そこでは塩化水素(HCl)、硝酸塩素(ClONO2)といった、
それ自体はオゾン破壊作用の無い比較的安定な化合物に変化し、通常は直接オゾンを破壊することはありません。
ところが、極域では冬季から春季にかけての特有の気象条件によって、下部成層圏でもオゾン破壊が起きます。そのメカニズムは以下のとおりです。
極域では冬季、成層圏に形成される極渦(極夜渦ともいう)により、極域上空とその周囲との空気の交換が著しく制限され、極域上空の成層圏大気は周囲から孤立します。冬季は太陽光があたらないため、極渦の内部は放射冷却により著しく低温となります。
成層圏の気温が低下すると、極域成層圏雲(Polar Stratospheric Clouds ; PSCs)と呼ばれる微細な粒子からなる雲が成層圏に形成されます。極域成層圏雲は、硝酸や水蒸気などが低温で凝結した液相や固相の粒子から形成され、大きく分けて下部成層圏の気温がおよそ−78℃以下で発生するタイプIのものと、およそ−85℃以下で発生するタイプⅡのものとがあります。前者には硝酸が多く含まれるのに対し後者は氷晶(H2O)が主成分であると考えられています(WMO,1999)。
極域成層圏雲が発生すると、その粒子の表面では不均一反応注) により、成層圏の塩素の大部分を占める硝酸塩素(ClONO2)や塩化水素(HCl)から、塩素分子(Cl2)などが生成され、冬季の間に極渦内に蓄積されます(WMO, 1995)。そして、春季になって極域上空の成層圏に太陽光が戻ってくると、冬に蓄積された塩素分子などが光によって解離して活性塩素原子になり、これが触媒となって働いてオゾンを破壊します。オゾンホールは、南極域でこのメカニズムによる急激なオゾン破壊が進むことによって形成されます。
このように、オゾンホールの形成は極渦の状況と密接に関係しているため、極渦の年々変動にともなってオゾンホールの規模にも年々の変動が生じます。
注)不均一反応:気体分子が固体または液体の表面で起こす反応など、異なる相の間で起こる化学反応。異相反応ともいう。
図1 南極オゾンホールでのオゾン破壊に関わる化学反応
参考文献
- WMO(1995), Scientific assessment of ozone depletion:1994, Global Ozone Research and Monitoring Project Report No.37.
- WMO(1999), Scientific assessment of ozone depletion:1998, Global Ozone Research and Monitoring Project Report No.44.