地球温暖化とオゾン層の回復

  大気中のオゾン層破壊物質の濃度は、国際的な生産や消費の規制の効果により現在緩やかに減少しており、 オゾン層の回復は進んでいます(基礎的な知識「オゾン層保護の取り組みとオゾン層の今後の見通し」参照)。 しかし、オゾン層の破壊は、オゾン層破壊物質の濃度だけでなく、成層圏の大気の状況にも依存します。
  温室効果ガスの増加によって地球温暖化が進むと、大気中における熱放射バランスの関係から成層圏では気温が低下することが知られています。 オゾン層破壊の化学反応は気温が低くなると反応速度が遅くなるため、成層圏における気温の低下は成層圏のオゾン量を増加させ、オゾン層の回復が早まるように働きます。 また、温室効果ガスの増加に伴って成層圏の大気循環が強まることが知られています。 そのため、熱帯域では対流圏から成層圏への物質輸送が増えることにより熱帯下部成層圏のオゾン量が減少し、 その他の緯度帯では、上部成層圏の熱帯域で生成されたオゾンの輸送量が増えることにより下部成層圏のオゾン量が増加すると考えられます。
  「オゾン層破壊の科学アセスメント:2022」総括要旨によると、化学気候モデルの予測の結果、オゾン層破壊物質の減少により、全球の成層圏オゾン量は増加する見込みです。しかしながら、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書で採用されている社会経済シナリオ(共通社会経済経路:SSP)に基づく将来の地球温暖化予測を加味すると、オゾン全量の増加量の推定に大きな差が出てくることが示されています(図1(c)及び(d))。


オゾン層破壊物質とオゾン全量の変化予測

図1 オゾン層破壊物質とオゾン全量の変化予測

(a)等価CFC-11の排出量(各物質のオゾン層破壊効果をCFC-11に換算した排出量)
(b)等価実効塩素(EECl)の濃度(各物質の地表面での大気中濃度、塩素及び臭素の原子数と相対的なオゾン破壊効率を考慮した濃度)
(c)全球の年平均オゾン全量(60°S-60°N)
(d)10月(春季)の南極のオゾン全量(70°S-90°S)
(出典:「オゾン層破壊の科学アセスメント:2022」総括要旨(WMO and UNEP, 2022))。

  また、2014年に公表された「オゾン層破壊の科学アセスメント:2014」によると、大気中のオゾン層破壊物質の濃度が現在よりも減少すると予想されている21世紀後半において、 二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)等の温室効果ガスがオゾン層の回復に及ぼす影響が大きくなると解説しています。 CH4やN2Oの増加は成層圏の気温の低下だけでなくオゾンの生成・消失の化学反応にも影響を与えるため、 CO2やCH4の増加はオゾン層の回復を早めますが、N2Oの増加はオゾン量を減少させ、オゾン層の回復を遅らせると説明しています。



参考文献

  • WMO and UNEP(2014), Scientific Assessment of Ozone Depletion:2014, Global Ozone Research and Monitoring Project-Report No.55.
  • WMO and UNEP(2022), Scientific Assessment of Ozone Depletion:2022, Ozone Research and Monitoring-GAW Report No.278.

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