CMT解とは何か

CMTとは何か

CMTとは、セントロイド・モーメント・テンソル(Centroid Moment Tensor)の略で、観測された地震波形を最もよく説明する地震の位置と時刻(セントロイドの位置と時刻)、規模(モーメント・マグニチュード)、及び発震機構(メカニズムを同時に決定する解析法により求められます。

解析の概要

『断層がどのようにずれたか』『地下構造』がわかれば、地震波形を計算により求めることができます。現在、地下構造はある程度解明されていますので、計算により求めた地震波形と観測された地震波形を比較することにより、断層の位置とずれ方を推定することができます。CMT解析では、このことを利用して断層面を求めています。

使用するデータと解析可能な地震について

この解析法は地震波形のうち、主に周期の長い成分を利用します。気象庁では、全国各地に設置されている広帯域地震計(通常の地震計よりも長周期の波形を観測することができる地震計)で観測した波形を解析に使用しています。 しかし、一般に地震の規模が小さくなればなるほど長周期の成分が少なくなることから、長周期の波が観測されないような小さな地震にはこの解析法は使えません。 そこで、気象庁では日本とその周辺で発生した気象庁マグニチュード5.0以上の地震についてCMT解析を行っています。(これは目安であり、実際にはそれより小さい場合でも解析することがあります)

用語の解説

セントロイドの位置と時刻

地震の断層運動を1点で代表させた場合のその位置と時刻を表しています。これは気象庁が普段発表している「震源」とは意味が異なるものです。震源というのは、断層運動が始まった地点を示したものですので、震源とセントロイドの位置は普通一致しません。

震源とセントロイドの関係
震源から破壊が進んでいく模式図

(基礎知識:断層の運動)
地震は、岩盤がある面を境に急激にずれ動き、破壊することで発生します。この動きのことを断層運動と言います。一般に、地震の規模は、断層運動によって形成された破壊面(断層面)が大きいほど大きくなります。例えばその大きさを、長さと幅の比が2:1程度の長方形でイメージすると、マグニチュード(M)6クラスの地震では、長さ10-15km程度、M7クラスでは30-50km程度、M8クラスでは100-150km程度が大体の目安です。また、このように広大な断層面を形成する地震の断層運動は決して一様ではなく、同じ断層面上でもすべり量(断層のずれの大きさ)の大きい部分もあれば小さい部分もあります。

地震モーメント

地震のエネルギー量を表すもので、(断層が動いた距離)×(動いた断層の広さ)に比例します。

モーメントテンソル解

地震モーメントを、より詳細に表したもの(力が働く面と、力の働く向きにより分解したもの)です。

モーメント・マグニチュード(Mw)

CMT解析で求められた地震のエネルギーをマグニチュードとして表したものです。これは、気象庁発表のマグニチュード(気象庁マグニチュード)と概ね同じような値をとりますが、両者は異なる手法で求められた別のものです。気象庁マグニチュードは周期数秒程度の地震波の振幅を使って計算されるマグニチュードで、建物の被害などと良い相関があります。一方、Mwは周期が数十秒以上の長周期の地震波とその波の形を使って計算されるマグニチュードで、断層運動の規模に関係付けられています。気象庁マグニチュードとMwは、お互いの短所をお互いの長所で補い合う関係にあり、両方をうまく使い分けることが大切です。

(参考:マグニチュード)
このように、マグニチュードにはいくつかの種類があり、それぞれ計算法が異なります。つまり、一つの地震にマグニチュードは複数存在するのです。大抵の場合、どのマグニチュードも概ね同じような値をとることが多いのですが、それぞれ異なる特徴を持っているので値が少し異なる場合もあります。どれが正しいのか、という問題ではなく、「地震の大きさ」という漠とした概念を数値化するために、いろいろなものさしが提案され、存在しているということです。ただ、これでは混乱を招く恐れがあるので、国としての地震情報におけるマグニチュードは、わが国で最も観測実績のある気象庁マグニチュードを採用しているのです。

非ダブルカップル(D.C.)成分比

CMT解析による押し引きの境界(白と灰色の境界)と、節面(断層面解)のずれを表す数値です。この値が大きいほど、両者のずれが大きくなります。

バリアンスリダクション(V.R.)

CMT解析における解の品質を示す指標で、CMT解の理論波形と観測波形の一致度を示します。

発震機構解

CMT解でも初動解と同様に発震機構解が得られ、断層面の候補(2つの面)や圧力軸方向などが推定できます。ただし、初動解が断層運動の始まった点(震源)における発震機構を示すのに対し、CMTによる発震機構は断層運動全体を一つの発震機構で代表させた場合の発震機構を示しています。地震を起こした断層の形状と断層がずれた方向を表すのが、発震機構解です。実際の断層は板のように一様なものではなく、途中でその大きさや方向が変わったりします。このため、初動発震機構解とCMTによる発震機構解は、同じ地震でも異なる場合があります。

参考図書(地震について詳しく知りたい方へ)

  • 「地震学(第3版)」宇津徳冶著(共立出版)
  • 「地震活動総説」宇津徳冶著(東京大学出版会)

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