展示室4 大気中メタン濃度の変動とその要因

経年変化と季節変動

大気中メタンの世界平均濃度の経年変化
 図は、大気中におけるメタンの世界平均濃度を示しています。

 メタンの大気中濃度は、少なくとも1980年代以降長期的に増加傾向にあることがわかります。2000年代前半はその増加傾向がほとんどなくなりましたが、2007年以降は再び増加に転じています。IPCC(2021)では、濃度増加が止まった原因については、化石燃料による人為起源の排出量減少の寄与が指摘されており、2007年以降の濃度増加については、主に化石燃料と農業分野からの排出の変化によると考えられています。一方、メタンの定量的な収支評価には、エルニーニョ/ラニーニャ現象に伴う湿地やバイオマス燃焼からの放出及びメタン消滅に寄与するOHラジカル(ラジカルとは非常に反応性が高く不安定な分子のこと)の変動等、依然として不確実な部分も多く残されています。2020年から2021年までの大気中メタンの世界平均濃度の増加量は17 ppbとなり、解析期間(1984年以降)で最大となりました。WMO(2022)によれば、現時点で明確な原因は不明ですが、長期的なメタン放出量の増加傾向に加え、2020年からのラニーニャ現象に伴う気温・降水量パターンの変化により熱帯からのメタン放出量が増加したことが可能性として指摘されています。
 また、1年間の濃度変動に着目すると、夏季に濃度が低くなり、冬季に高くなる季節変動が見られます。これは主に、OHラジカルとの反応によるメタンの消失と、湿地などからのメタンの放出の季節変動の結果としてもたらされます。大気中に放出されるメタンの約40%は自然起源(湿地やシロアリなど)であり、人為起源(畜産、稲作、化石燃料採掘、埋め立て及びバイオマス燃焼など)によるものは約60%です。

地域差

緯度帯別の大気中メタン濃度の経年変化
 図に、緯度帯30度毎に分割した大気中メタン濃度を示します。

 緯度帯別に見ると、相対的に北半球の中・高緯度帯の濃度が高く、南半球では濃度が低くなっています。
 これは、メタンの主な放出源が北半球陸域に多く、かつ南半球に向かうにつれて熱帯海洋上の豊富なOHラジカルと反応し消滅するためです。また、夏季には紫外線が強く水蒸気濃度が高くなることによりOHラジカルが増加し、これと反応することでメタンが消滅するため、夏季に大気中メタン濃度が減少し冬季に増加する季節変動を繰り返している様子が両半球で見られます。

経年変化と増加率

緯度帯別の大気中メタン濃度の経年変化 緯度帯別の大気中メタン濃度の年増加率の経年変化

 図に、緯度帯30度毎の、季節変動成分を取り除いた大気中メタン濃度(左)および年増加量(右)の経年変化を示します。

 大気中メタン濃度の各緯度帯の長期変動は、北半球の中・高緯度、赤道域及び南半球で違いが見られます。この南北勾配は、前述のとおり、メタンの放出源のほとんどが陸上に存在し、陸地面積の大きい北半球でメタンの放出量が多いことに加えて、南半球に向かうにつれて、特に熱帯の海洋上では化学反応によるメタンの消滅が盛んなため、相対的に北半球の中・高緯度で濃度が高い傾向となることを反映しています。
 大気中メタン濃度の増加率は、各緯度帯で概ね同様の傾向を示しています。幾つかの極大・極小を伴った年変動が見られますが、独立した複雑な起源が関係しているため、それぞれを包括的に説明する事は難しくなっています。
 例えば、1998年に各緯度帯でピークが見られましたが、これは同時期の強いエルニーニョ現象に伴い、熱帯域の湿地帯からメタンの放出が強まり、また、シベリアなど各地で森林火災が多発したことに起因していると考えられています(Dlugokencky et al., 2001)。

参考文献

Dlugokencky, E.J., B.P. Walter, K.A. Masarie, P.M. Lang and E.S. Kasischke, 2001: Measurements of an anomalous global methane increase during 1998. Geophys. Res. Lett., 28, 499 – 502, https://doi.org/10.1029/2000GL012119.

IPCC, 2021: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M.I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T.K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 2391 pp., https://doi.org/10.1017/9781009157896.

WMO, 2022: WMO Greenhouse Gas Bulletin, No. 18,
(英語版)  https://library.wmo.int/idurl/4/58743,
(日本語訳) https://www.data.jma.go.jp/env/info/wdcgg/GHG_Bulletin-18_j.pdf