北太平洋の海面水温の全体像について

(1) 海面水温の平均分布

 図1に、1991年~2020年の北太平洋の(a)2月、(b)5月、(c)8月及び(d)11月の月平均海面水温(月別平年値)を示します。北太平洋の海面水温は全般に低緯度で高く、高緯度で低いことが分かります。しかし、日付変更線より東の赤道域では、南米大陸沿いに南半球高緯度から流れ込む寒流であるフンボルト海流と、この海域で卓越する東風によって引き起こされる湧昇の影響で、赤道上の海面水温がその南北に比べ低くなっています。


海面水温の月別平年値

図1:(a) 2月、(b) 5月、(c) 8月、(d) 11月における海面水温の月別平年値(単位℃)。

(2) 海面水温の季節変動

 太平洋西部の熱帯域では、海面水温は季節によらずおおむね25℃から30℃の範囲にあって、季節変動の振幅も小さくなっています(図1)。一方、高緯度では振幅の大きな季節変動がみられ、冬には1℃以下まで海面水温が下降するオホーツク海やアリューシャン近海でも、夏には10℃前後まで海面水温が上昇します(図1(a)(c))。

 海域による、海面水温の季節変動の違いを詳しくみるために、図2に、(a)2月、(b)5月、(c)8月及び(d)11月の月別平年値の年平均値からの差を示します。これをみると、季節変動の振幅が最も大きいのは、日本近海を含む中緯度海域であることがわかります。

 北西太平洋中緯度では季節風の影響を通じた熱の出入りによる季節変動が大きく、更に、月平均海面水温の分布(図1)をみると、北西太平洋中緯度では東西に延びる等温線が込み合った構造が季節によらずみられていることがわかります。これは、海洋の亜熱帯循環と亜寒帯循環の境界付近で暖水と冷水が接しているためと考えられます。

 季節変動に伴い、北緯20度以北の日本近海を含む中高緯度の広い海域において、2月から3月に海面水温が最も低くなり、8月から9月に最も高くなっており(図2)、気温の季節変動に比べると、やや遅れています。


海面水温の月別平年値の年平均値からの差

図2:(a) 2月、(b) 5月、(c) 8月、(d) 11月における海面水温の月別平年値の年平均値からの差(単位℃)。

(3) 北太平洋にみられる十年規模の海洋変動

 太平洋赤道域東部の海面水温が平年に比べて大きく上昇するエルニーニョ現象は、数年に一度発生し一度発生すると1年程度持続する現象ですが(「エルニーニョ/ラニーニャ現象に関する知識」参照)、北太平洋の中高緯度の海洋には、更に長い十年規模(十年から数十年周期)で変動する現象があることが知られています。

 北太平洋に見られる主要な海面水温の変動として、中央部付近と北米沿岸で逆符号の偏差が現れるパターンが知られており、太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation:PDO)と呼ばれています(Mantua et al., 1997)。また、PDOの次に主要な海面水温の変動として、北東部と南西部で逆符号の偏差となるパターンが知られており、North Pacific Gyre Oscillation(NPGO)と呼ばれています(Di Lorenzo et al., 2008)。これらの変動には、エルニーニョ/ラニーニャ現象や中緯度のアリューシャン低気圧、黒潮等の大規模な海洋表層循環など様々な要素が関係している可能性が示唆されています。詳細は、「太平洋の海面水温に見られる十年〜数十年規模の変動」を参照してください。

参考文献

  • Di Lorenzo, E., N. Schneider, K. M. Cobb, P. J. S. Franks, K. Chhak, A. J. Miller, J. C. McWilliams, S. J. Bograd, H. Arango, E. Curchitser, T. M. Powell and P. Riviére (2008) : North Pacific Gyre Oscillation links ocean climate and ecosystem change; Geophys. Res. Lett., Vol.35, L08607.
  • Mantua, N. J., S. R. Hare, Y. Zhang, J. M. Wallace, and R. C. Francis (1997) : A Pacific Interdecadal Climate Oscillation with Impacts on Salmon Production; Bull. Amer. Meteor. Soc., Vol.78, pp.1069-1079.

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