令和5年2月28日 気象庁発表
診断(2022年)
- 1970年代後半から1990年代初めまでは、黒潮大蛇行が頻繁に発生していました。それ以降は2004年7月~2005年8月を除き、非大蛇行の状態が続いていました。
- 2017年8月には、12年ぶりに黒潮大蛇行が発生し、2022年も大蛇行の状態が継続しました。2022年12月には継続期間が5年5か月となり、1965年以降では継続期間が最も長い大蛇行となっています。
上図:東海沖における黒潮流路の最南緯度の経年変動(1961年1月~2022年12月) 東海沖における黒潮流路の月ごとの最南緯度を細線で、13か月移動平均値を太線で示しています。オレンジ色は黒潮大蛇行の期間を表しています。東海沖(東経136度~140度)で黒潮が北緯32度より南まで南下した状態で安定していることが黒潮大蛇行の判定の目安になります(下記「黒潮大蛇行とその判定基準について」を参照)。 左図:黒潮の典型的流路(1:非大蛇行接岸流路 2:非大蛇行離岸流路 3:大蛇行流路) |
上図:串本と浦神の潮位差(串本の潮位から浦神の潮位を引いたもの)の経年変動(1961年1月~2022年12月) 串本と浦神の月ごとの潮位差を細線で、5か月移動平均値を太線で示しています。オレンジ色は黒潮大蛇行の期間を表しています。潮位差が小さい値に安定していることは潮岬で黒潮が離岸していることを示し、黒潮大蛇行を判定する目安になります(下記「黒潮大蛇行とその判定基準について」を参照)。 |
解説
長期変動
黒潮は、1960年代半ばから1970年代半ばまで、非大蛇行の状態でした。それ以降1990年代初めまでは黒潮大蛇行が頻繁に発生していました。その後、非大蛇行の状態が2004年前半まで続いていましたが、2004年7月~2005年8月に大蛇行が発生しました。 その後、再び非大蛇行の状態が続きましたが、2017年8月に黒潮大蛇行が発生し、それ以降、大蛇行の状態となっていました。2022年12月には継続期間は5年5か月となり、1965年以降では継続期間が最も長い大蛇行となっています。2020年10月には、東海沖で黒潮の一部が冷水渦として切離したため、一時的に潮岬で接岸し、東海沖での黒潮の大きな離岸が解消されましたが、翌月には、最南緯度は北緯32度より南となり、潮岬でも離岸が継続したことから、過去の研究や1977年の同様な事例※1に倣って、冷水渦切離の前後で黒潮大蛇行は継続しているとしています。
2022年
2022年は、黒潮大蛇行が継続しました。 2022年の黒潮は、潮岬では1月上旬に接岸※2した以外は、離岸して流れ、東海沖では年を通して北緯32度より南まで南下して流れていました。東海沖の最南緯度は、2月上旬に北緯28.5度まで南下した後、2月中旬に冷水渦が黒潮から切離したため、北緯31.5度付近まで北上しました。4月以降は、おおむね北緯30度〜31度付近で推移しました。 伊豆諸島付近では、 1月中旬、3月下旬〜4月上旬、5月中旬、10月上旬〜中旬に三宅島と八丈島の間、9月下旬に八丈島の南を流れていましたが、それ以外の期間は三宅島付近を流れていました。
九州の東から四国沖では、黒潮が大きく離岸する時期がありました。2022年1月に九州の東で、黒潮流路の岸側に冷水域を伴う波動(じょう乱)が発生し、東進しました。2月中旬には東海沖で蛇行した流路の一部が冷水渦として切離したため、黒潮は3月下旬まで、九州の東から四国沖で大きく離岸し、東海沖を北東進するような流れとなりました。なお、2月中旬に切離した冷水渦は、日本の南を西進し、2022年4月下旬に屋久島の南東で黒潮に再び取り込まれました。
なお、黒潮流路の短い周期の変動や最新の状況は、 日本近海の海流(月概況)をご覧ください。
黒潮大蛇行とその判定基準について
本州南方を流れる黒潮の流路には、大きく分けて2種類の安定したパターンがあります。一方は、東海沖で南へ大きく蛇行して流れる 「大蛇行流路」、他方は、四国・本州南岸にほぼ沿って流れる「非大蛇行流路」と呼ばれているものです。 「非大蛇行流路」はさらに、東海沖をほぼ東に直進し八丈島の北を通過する「非大蛇行接岸流路」と、伊豆諸島近海で南に小さく蛇行して八丈島の南を通過する「非大蛇行離岸流路」に分けられます。「大蛇行流路」を「黒潮大蛇行」と呼んでいます。
黒潮大蛇行を判定する基準として、以下の2つの条件を設定しています(吉田ほか, 2006)。
(1)潮岬で黒潮が離岸している(串本と浦神の潮位差が小さい値に安定していることで判定) (海水温・海流の知識:黒潮「串本と浦神の潮位差」参照)。
(2)東海沖(東経136~140度)での黒潮流路の最南下点が北緯32度より安定して南に位置している (海水温・海流の知識:黒潮「黒潮大蛇行とは」参照)。
この基準によると、1965年以降の黒潮大蛇行の期間は、以下のようになります。
- 1975年8月〜1980年3月まで
- 1981年11月〜1984年5月まで
- 1986年12月〜1988年7月まで
- 1989年12月〜1990年12月まで
- 2004年7月〜2005年8月まで
- 2017年8月〜
なお、1965年以前については、岡田(1978)が潮位観測から1959年5月頃〜1963年5月頃を黒潮大蛇行期間として推定しています。
※1 1977年の冷水渦の切離について
1975年8月〜1980年3月までの黒潮大蛇行期間中、1977年に冷水渦の切離が発生しました。1977年7月には、東海沖の最南緯度は北緯33度以北となり、串本と浦神の潮位差も増大しました。しかし、黒潮はその後、再び東海沖で北緯32度より南まで南下し、串本と浦神の潮位差も小さくなって継続したことから、冷水渦の切離を黒潮大蛇行の例外的な流路変化とみなし、冷水渦切離の前後で同一の大蛇行が継続したとして扱っています(吉田ほか, 2006)。
※2 2022年1月上旬の潮岬での接岸について
潮岬では、2022年1月上旬に黒潮が接岸しました。これは、黒潮が、紀伊半島の南方で北緯30度付近まで大きく南下した後、東海沖で北向き、その後北西向きに流れて、潮岬の南東方向から接近したためです。黒潮の四国沖から紀伊半島の南方に向かう流れは大きく離岸していたため、大蛇行が継続していたと判断しました。
参考文献
- 岡田正美,1978:黒潮の大蛇行歴(1854〜1977)と潮汐観測.号外海洋科学,Vol. 1,No.2, 81-88.
- 吉田隆・下平保直・林王弘道・横内克巳・秋山秀樹,2006:黒潮の流路情報をもとに黒潮大蛇行を判定する基準.海の研究,15,499-507.