海水中に含まれる二酸化炭素量は全炭酸濃度という項目で観測されています。気象庁と気象研究所では、東経137度線については1994年から、東経165度線については2003年から、全炭酸濃度の観測を概ね緯度5度毎に実施しており、これまで約10~20年間のデータを取得しています。
海水は、同じ深さではなく、圧力、水温及び塩分で決まる同じポテンシャル密度の面(等密度面)に沿って流れています。そのため、海水中に含まれる全炭酸も等密度面に沿って動いており、ある場所における海洋中の二酸化炭素蓄積量は等密度面上における全炭酸濃度の時間変化量から見積もることが可能です。気象庁では、東経137度線と東経165度線の全炭酸濃度の長期時系列データから、それぞれの観測線の緯度5度毎の等密度面上における全炭酸濃度の時間変化量を計算し、1年あたりの二酸化炭素蓄積量を見積もりました(Ishii et al., 2010)。
等密度面解析による海洋中の二酸化炭素蓄積量の見積もりに使用したデータを示します。
全炭酸・水温・塩分・ポテンシャル密度・溶存酸素
等密度面解析による海洋中の二酸化炭素蓄積量の見積もりに使用した観測定線・範囲・観測期間は表のとおりです。
観測定線 | 範囲 | 観測期間 | |
---|---|---|---|
東経137度 | 北緯7度30分~北緯32度30分 | 1994年~ | |
東経165度 | 北緯7度30分~北緯37度30分 | 1992年~ |
各航海で使用した標準物質、装置の状態等の違いによって、航海間の観測値に差が生じることが知られています。等密度面解析による海洋中の二酸化炭素蓄積量の見積もりでは、Sasano et al.(2015)の手法を用いて、東経137度線は2010年夏季の、東経165度線は2011年夏季の高精度・高密度観測を基準に、標準物質や装置の状態等の違いによる各航海の差を補正しています。
観測によって得られる全炭酸濃度(DIC)は、淡水の出入りによる海水中の物質の濃度変化による影響や生物活動による影響を受けて変動しています。これらの変動を除去し、大気中の二酸化炭素増加に伴う海洋への人為起源二酸化炭素蓄積を見積もるため、塩分(S)および生物活動により消費された酸素量(AOU:見かけの酸素消費量)のデータを用いて、海水中の物質の濃度変化や生物活動による影響を取り除いた全炭酸濃度(DIC∗)を計算しました。
DIC∗は、以下の式によって求められます。
117/170×AOUは、レッドフィールド比(ここではAnderson and Sarmiento(1994)を使用)から見積もられる全炭酸濃度の生物活動による変化分に相当します。
DIC∗はその海水が海面で大気と接していた時の状態を表し、DIC∗の増加傾向は大気二酸化炭素濃度の増加に伴う海洋への人為起源二酸化炭素の蓄積を反映します。二酸化炭素蓄積量の解析では、ポテンシャル密度0.1σθ毎にDIC∗の長期変化傾向・密度・等密度面の厚さを求め、海面から27.5σθまで積分することで、その緯度における1年あたりの二酸化炭素蓄積量を見積もっています。