深層循環の変動について
海洋の深層循環は、海水の水温と塩分による密度差によって駆動されており、熱塩循環と呼ばれています。 熱塩循環は、現在の気候において、表層の海水が北大西洋のグリーンランド沖と南極大陸の大陸棚周辺で冷却され、重くなって底層まで沈みこんだ後、世界の海洋の底層に広がり、底層を移動する間にゆっくりと上昇して表層に戻るという約1000年スケールの循環をしています(図1)。
地球温暖化等の気候変動の影響により、底層まで沈みこむような重い海水が形成される海域の海水の昇温や、降水の増加や氷床の融解などによる低塩分化によって、表層の海水の密度が軽くなり、沈みこむ量が減少し、深層循環が一時的であれ弱まるのではないかと考えられています。 北大西洋での深層水形成が弱まった場合、南からの暖かい表層水の供給が減り、北大西洋およびその周辺の気温の上昇が比較的小さくなることが指摘されています。
大西洋の深層循環の予測については、気候変動に関する政府間パネル第6次評価報告書第1作業部会報告書(IPCC, 2021)によると、21世紀中の衰退については確信度が高い一方、傾向の大きさについては低い確信度しかないことが報告されています。また、2100年までに大西洋の深層循環の突然停止が起こらないことについての確信度は中程度であると報告されており、確信度がIPCC(2013)のときよりも高まっています。
図1 深層循環の模式図
海洋の循環を表層と深層の二層で単純化したもので、青い線は深層流、赤い線は表層流を示す。 (IPCC(2001)をもとに作成)
参考文献
- IPCC, 2001: Climate Change 2001: Synthesis Report. A Contribution of Working Groups I, II, and III to the Third Assessment Report of the Integovernmental Panel on Climate Change [Watson, R.T. and the Core Writing Team (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge,United Kingdom, and New York, NY, USA, 398 pp.
- IPCC, 2013: Climate Change 2013: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Stocker, T.F., D. Qin, G.-K. Plattner, M. Tignor, S.K. Allen, J. Boschung, A. Nauels, Y. Xia, V. Bex and P.M. Midgley (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 1535 pp.
- IPCC, 2021: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M.I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T.K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R Yu, and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 1239 pp.