海洋による二酸化炭素の吸収・放出の分布
大気と海洋の間では常に二酸化炭素のやり取りが行われており、海洋全体で平均すると、海洋は大気から二酸化炭素を吸収しています。
海洋には大気から二酸化炭素を吸収する海域と、大気に二酸化炭素を放出する海域が存在します。また、季節や年によって、その海域や吸収・放出量は大きく変動しています。将来、地球温暖化が進行すると、海洋の二酸化炭素の吸収能力が低下すると予測されており、このような変動をとらえるためには、海洋による二酸化炭素の吸収・放出を常に監視することが重要です。
海洋による二酸化炭素の吸収・放出の変動要因
海洋による二酸化炭素の吸収・放出を変動させる主な要因は、大気中の二酸化炭素分圧(*)と表面海水中の二酸化炭素分圧の差、及び風速の変動です。表面海水中の二酸化炭素の分圧が大気よりも高いと海洋は大気へ二酸化炭素を放出し、逆に表面海水中の二酸化炭素の分圧が大気よりも低いと海洋は大気から二酸化炭素を吸収します。また、風速が大きいほど吸収・放出が多くなります(海洋による二酸化炭素吸収量の見積もり方法)。
表面海水中の二酸化炭素分圧は、水温、海水の鉛直混合や湧昇、生物活動といったさまざまな影響を受けて大きく変動しています。例えば、水温が高くなると、二酸化炭素の水に対する溶解度が減少し、溶けきれなくなった二酸化炭素は表面海水中の二酸化炭素分圧を高くします。また、海水の鉛直混合や湧昇で二酸化炭素を多く含む下層の水と混ざると、表面海水中の二酸化炭素の分圧は高くなります。生物活動が盛んになると、植物プランクトンが二酸化炭素を消費することで、表面海水中の二酸化炭素の分圧は低くなります。
*分圧:二酸化炭素濃度を圧力の単位で示したもの。詳細は海洋の二酸化炭素の観測: 海洋の二酸化炭素の観測項目と方法 (1)表面海水中および大気中の二酸化炭素濃度を参照。
二酸化炭素の吸収・放出の分布と季節変動の特徴
赤道域、亜熱帯域、亜寒帯域に分けて、二酸化炭素交換量の季節の分布と季節変動の特徴を紹介します。
赤道域
赤道域では、湧昇の影響を受けて表面海水中の二酸化炭素分圧は高く、二酸化炭素の放出域が分布しています。特に、太平洋の赤道域は、海洋全体の中で放出量が最も多い海域です。赤道域では二酸化炭素の放出量の季節変動は小さく、年間を通じて二酸化炭素を放出しています。
亜熱帯域
亜熱帯域(北緯10~35度、南緯10~35度)には、二酸化炭素の吸収域が広く分布しています。亜熱帯域では、主に海面水温の影響を受けて表面海水中の二酸化炭素分圧が季節変動しており、冬季に吸収量が多くなり、夏季に吸収量が少なくなります。
亜寒帯域
亜寒帯域(北緯35~60度、南緯35~60度)では、海面水温だけでなく、海水の鉛直混合や生物活動などの影響を複合的に受けて、季節変動をしています。このため、二酸化炭素の年間の交換量や季節変動は海域によって一様ではありません。おおむね、冬季には風が強く、表面の海水が冷却されることにより強い鉛直混合が起きることで、二酸化炭素の放出域に、また、春季から秋季には生物活動が盛んになり、表面海水中の二酸化炭素が消費されて吸収域になるという季節変動をしています。
下の図は、各季節を代表する月の二酸化炭素交換量の分布です。
各季節における平均的な二酸化炭素の吸収・放出の分布図
2月、5月、8月及び11月の平均的な二酸化炭素の吸収・放出の分布図を示しています。面積1km2あたりの二酸化炭素吸収・放出量を炭素の重さに換算し、年あたりの値で表しています。正(負)の値は海洋が大気へ(から)二酸化炭素を放出(吸収)していることを示しています。
年々から十年規模の変動
太平洋赤道域は、二酸化炭素の放出量が特に多い海域であり、また、その放出量はエルニーニョ/ラニーニャ現象時とそれ以外の時では大きく変わるため、全海洋の二酸化炭素吸収量の年の変動に最も大きな影響を及ぼしています。太平洋赤道域では、通常、東部で二酸化炭素を多く含む下層の水が湧昇することによって、二酸化炭素を放出していますが、エルニーニョ現象時には、湧昇が弱まり二酸化炭素の放出が少なくなります。逆にラニーニャ現象時には、湧昇が強まり、二酸化炭素の放出が多くなります。
エルニーニョ・ラニーニャ現象に伴う太平洋赤道域における二酸化炭素の放出の増減の模式図
このほか、海洋には、各大洋ごとに特徴的な十年規模の変動(例えば、北太平洋においては海面水温の変動として特徴づけられる太平洋十年規模振動(PDO)や表層循環の変動があり、このような海洋変動が二酸化炭素の吸収・放出にも影響している可能性があります。