表面海水中のpHの長期変化傾向(北西太平洋)の見積もり方法

表面海水中のpHの長期変化傾向(北西太平洋)の診断ではIshii et al. (2011)の手法に基づいて、二酸化炭素観測値からpHの値を見積もっています。この手法は、二酸化炭素濃度(分圧)と全炭酸、アルカリ度、pHのうち2つの要素の値が分かれば、化学平衡の関係からそのほかの要素の値が計算で求めることができることを利用しています。

二酸化炭素濃度(分圧)については、1984年以降、十分な精度の観測値が得られています。また観測結果から診断の対象としている熱帯から亜熱帯の海域では、塩分の値を35とした場合のアルカリ度は一定であることが確かめられています(Takatani et al. (2014))。このため、塩分の値を35とした場合のアルカリ度(NTA)と表面海水塩分(SSS)の観測値からアルカリ度(TA)の値を以下の式で求めることができます。

TA = NTA × SSS/35

pHの値は、観測した二酸化炭素分圧と推定したアルカリ度から計算で求めています。診断で表示しているpHは現場水温における値です。

気象庁では、2003年から高精度な手法によるpHの分析を開始しました。採水・分析したpHと推定したpHはよく一致しています(図1)。このことから、分析値からは求めることができなかった、より長期間の海洋酸性化の進行状況の把握が可能となりました。不確かさが±2µatmの二酸化炭素分圧と±4µmol/kgのアルカリ度から計算されるpHには約0.002の不確かさが含まれます(Zeebe and Wolf-Gladrow, 2001)。また、採水・分析によって得られるpHにも約0.002の不確かさが含まれます(Saito et al., 2008)。

推定されたpHと観測によるpHとの比較

図1 推定したpHと採水・分析によって得られたpHとの比較

2003年以降の採水・分析によるpHと、同観測点における表面海水塩分から推定されたアルカリ度と表面海水二酸化炭素濃度から求めたpHとの比較です。

参考文献

  • Ishii, M., N. Kosugi, D. Sasano, S. Saito, T. Midorikawa, and H. Y. Inoue (2011), Ocean acidification off the south coast of Japan: A result from time series observations of CO2 parameters from 1994 to 2008, J. Geophys. Res., 116, C06022, doi:10.1029/2010JC006831.
  • Saito, S., Ishii, M., Midorikawa, T. and Inoue, H. Y. (2008), Precise spectrophotometric measurement of seawater pHT with an automated apparatus using a flow cell in a closed circuit. Technical Reports of the Meteorological Research Institute 57, Tsukuba, 28 pp.
  • Takatani, Y., K. Enyo, Y. Iida, A. Kojima, T. Nakano, D. Sasano, N. Kosugi, T. Midorikawa, T. Suzuki, and M. Ishii, 2014: Relationships between total alkalinity in surface water and sea surface dynamic height in the Pacific Ocean, J. Geophys. Res. Oceans, 119, 2806-2814, doi:10.1002/2013JC009739.
  • Zeebe, R. E. and D. A. Wolf-Gladrow (2001), CO2 IN SEAWATER: EQUILIBRIUM, KINETICS, ISOTOPES, Elsevier Oceanography Book Series, 65.

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