海面浮遊汚染物質(プラスチック類)
海面浮遊物質(プラスチック類)による海洋汚染
人類の社会・経済活動の活発化に伴い、様々な廃棄物も増加の一途をたどってきました。なかでもプラスチックなどの石油化学合成製品は、利便性に富むことから大量に生産され、同時に大量に廃棄されています。しかし、プラスチック類は化学的に安定であるため、ひとたび海洋に排出されると回収されない限り存在し続けます。しかも、時間が経つにつれ、細かく砕けて小片となり、回収は困難になります(Lytle, 2009; Moore, 2012)。
浮遊プラスチック類は、海域により密度は異なるものの、世界中の海洋で発見されています。その存在は単に美観を損ねるだけではありません。船舶のスクリューに絡まったり、冷却水の配管を詰まらせたりして、船舶の航行を妨げることがあります。また、海獣や海鳥が廃棄された漁網に絡まったり、プラスチック片やポリ袋を誤食したりして死んだ事例も、数多く報告されています(Lytle, 2009)。
浮遊プラスチック類が海岸に漂着する問題も深刻化しています。我が国の海岸には、日本国内だけではなく中国、韓国、北朝鮮などを起源とするプラスチックゴミが大量に漂着します(JEAN,2012など)。これらを回収する経費は莫大であるし、海水により変質した廃棄物を無害な形で処理する技術も未熟です。
一方、これらを放置すれば、やがて風化して回収が一層困難な小片(マイクロプラスチック)となり、海へと拡散してしまいます。近年、このマイクロプラスチックを動物プランクトンや魚類が捕食し、海洋の生態系及び我々人間の食生活に悪影響を及ぼすことが指摘されています。今後、浮遊汚染物質(及び漂着ゴミ)の回収・処理の努力や、それを排出しない社会的システムの構築など、総合的な対策が望まれます。
海面浮遊物質(プラスチック類)の監視
写真1 船橋から監視 |
写真2 発泡スチロール |
写真3 漁具(浮き) |
図 航走100kmあたりの発見個数の水平分布(1991~2020年) |
我が国における浮遊プラスチック類の観測は、UNESCO/IOC(ユネスコ政府間海洋学委員会)の提唱した石油類による海洋汚染を観測するパイロットプロジェクト(UNESCO, 1976)に対応して1976年に開始されました。気象庁は外洋域において主要な観測定線に沿った観測を、海上保安庁は巡視船により主として沿岸域の観測を行っています。また、水産庁も漁船や取締船によって広範囲の浮遊汚染物質の調査を実施しています。
気象庁による浮遊プラスチック類の観測は、航海中毎日、日の出から日の入りまでの間、観測船の船橋(写真1)から目視によって行います。浮遊プラスチック類を発見するたびに日時、位置、種類、形状、大きさ、個数などを記録し、発見されない場合は「なし」と記録します。発見した浮遊プラスチック類は、発泡スチロール(写真2)、漁具(浮きなど;写真3)、薄膜状プラスチック(ポリ袋など、フィルム状のもの)、その他に分類し、それぞれの発見個数を航走100kmあたりの数に換算してデータを整理しています。
図に気象庁の観測による北西太平洋における浮遊プラスチック類の分布(1991~2020年の緯度経度5度格子における100kmあたりの発見個数)を示します。浮遊プラスチック類は北緯5度から20度の海域では少ないですが、日本周辺海域では全般に多く発見されています。特に、黒潮続流を含む北緯30~40度の範囲に、発見数が100kmあたり10個前後と比較的多い海域が東西に広がっています。Yamashita and Tanimura(2007) は紀伊半島南方の黒潮周辺海域の北緯32~ 33度にプラスチックが多く存在し、1km2あたり10万個にも及ぶと述べており、水産庁の実施した漂流物目視観測調査の結果(三宅・竹濱, 1988)でも、ハワイ北東沖などにプラスチック類が多く発見されています。こうした分布の特徴は、1980年代後半にアラスカ大学が中心となって行われた北太平洋全域にわたる浮遊プラスチックの観測結果(Day et al., 1990)ともほぼ一致しています。このように、日本の東方やハワイ諸島から北米大陸にかけての海域には浮遊汚染物質が集中しやすく、「太平洋ゴミベルト(the Great Pacific Garbage Patch)」とよばれています(Lytle, 2009; Dautel, 2010; Pan et al., 2012)。こうした海域は洋上の風系や海流系の影響によって作られることが数値モデルによるシミュレーションで確かめられており(Kubota, 1994; 宇野木・久保田, 1996; Martinez et al., 2009)、浮遊汚染物質の分布は気候的な風系や海流系の影響を受けていることを示しています。
日本周辺海域及び東経137度線における浮遊プラスチック類発見個数の経年変動では、日本周辺海域では、1988 年から1990 年をピークとしてその後漸減傾向となっています。1988 年は、マルポール条約の附属書Ⅴ により船舶からのプラスチック類の排出規制処置が定められ、海洋汚染防止法が改正された年にあたっており、この海域における規制の効果が認められます。ただし、2000 年代に入ってからは増加傾向にあり、特に、2011 年以降は100kmあたり10個を超える年が増えています。一方、東経137度線においては、年によって多数の海面浮遊汚染物質が観測されることがあるものの、2000年代まではおおむね 3個を下回る水準で、その後はやや増加し、5個前後で推移しています。
なお、最新の情報については、定期診断で診断・解説しています。