海氷域面積の長期変化傾向(北極域)
平成22年10月20日発表
気象庁地球環境・海洋部
診断(2010年)
北極域の海氷域面積は、1979年以降、長期的に見ると減少傾向を示しています。特に、年最小値において減少傾向が顕著で、2010年までの減少率は8.1万平方キロメートル/年となっています。2010年の海氷域面積の年最小値は、474万平方キロメートルとなり、2007年、2008年に次いで3番目に小さい記録となりました。
解説
北極域の海氷域面積(年最小値)の経年変化
北極域の海氷域面積は、1979年以降、長期的に見ると減少傾向を示しています。 特に、年最小値において減少傾向が顕著で、2010年までの減少率は 8.1 [6.3~10.0] 万平方キロメートル/年となっています(角括弧中の数字は95%の信頼区間を示す)。
2010年の北極域の海氷域面積の経過
北極域の海氷域面積は例年3月初めから減少に転じます。 2010年は3月上旬に年最大値(1545万平方キロメートル)となり、3月末まで年最大値に近い値が続きました(図:北極域の海氷域面積の推移)。 このように海氷が融解し始める時期は例年より一か月ほど遅くなりましたが、それ以降減少に転じ、5月以降海氷域の減少スピードが上がり、6月はこの時期として海氷域面積が観測史上最小となりました。 7月は海氷域の減少スピードが鈍りましたが、8月からは再び減少スピードが上がり、9月17日には年最小値となり、その後、海氷域面積は増加に転じました。 2010年の海氷域面積の年最小値は474万平方キロメートルとなり、2007年、2008年に次いで3番目に小さい記録となりました。
海氷域面積年最小時の北極域の海氷分布
2010年の海氷域面積年最小時には、2007年と比べグリーンランド東岸で海氷が少なくなりましたが、東シベリア海から北極海中央部にかけて密接度が低いながらも海氷が残りました(図:海氷域面積年最小時の北極域の海氷分布)。 2010年の海氷域面積の最小時の分布を同時期の平年分布と比較すると、ボーフォート海からラプテフ海にかけての北極海の太平洋側で海氷域が顕著に減少しています。また、グリーンランド東岸やカナダの多島海付近やカラ海でも海氷域の減少が見られます。
2010年融解期の北極域の気象経過
2010年の6月と8月及び9月は海氷域を顕著に減少させる気圧配置となりました(図:北極域の月平均の海面気圧と925hPaの気温)。 その気圧配置のパターンは、ボーフォート海に高気圧の中心があり、シベリアからその沿岸に低気圧があるパターンです。この気圧配置では、北極海の太平洋側は概ね南から北へ風が吹き、海氷を北へ移動させ海氷域を減少させる効果があります。 逆に7月は、北極海中央部に低気圧が広く存在する状態が続き、海氷域を顕著に減少させるパターンではありませんでした。また、6月と8月及び9月の気温は、北極海の太平洋側で概ね平年並かやや高く、海氷が融解しやすい状況だったと推定されます。
海氷域面積の年最小値が過去最小となった2007年は、6月から9月にかけて海氷域を顕著に減少させる上記のパターンが続き、気温も平年より高く経過しました。
北極域における海氷域面積(年最小値)の年々変動の要因については、気象の影響の他に海氷の厚さや海洋の影響などがあり、各機関で研究が行われています。
海氷データについて
平成22年10月20日に「北極域・南極域の海氷」の過去資料である「海氷分布図」、「海氷域面積の年別経過図」及び「平年値・極値」を更新しました。NASA・NSIDC提供の最新データセットを用いて海氷データ(1978年~)を再計算しています。この「海氷域面積の長期変化傾向(北極域)」の診断はこれらの新しい海氷データを用いており、平成22年10月20日より前に発表した資料とは値が異なります。また、2009年4月30日以降はNSIDCの速報値を用いて解析しています。観測や解析の方法については、北極域と南極域の海氷解析の解説を参照して下さい。