海氷域面積の長期変化傾向(北極域)

平成25年10月18日発表
気象庁地球環境・海洋部

診断(2013年)

北極域の海氷域面積は、1979年以降、長期的に見ると減少傾向を示しており、特に年最小値において減少傾向が顕著で、近年は減少率が大きくなる傾向にあります。

なお、2013年の年最小値は513万平方キロメートルで、1979年以降では6番目に小さい記録でした。

北極域の海氷域面積の年最小値の経年変化(1979年~2013年)
北極域の海氷域面積の年最小値の経年変化(1979年~2013年)
青色の折れ線は北極域年最小値の海氷域面積の経年変化を示す。点線は変化傾向。


解説

海氷域面積の長期変化傾向の最近の特徴と要因

北極域の海氷域面積は、1979年以降、長期的に見ると減少傾向を示していおり、特に年最小値において減少傾向が顕著です。海氷域面積の年最小値は2007年に大きく減少し、それ以降の年最小値はいずれの年も2006年以前よりも小さくなっています。2013年までの減少率9.2[7.3~11.0]万平方キロメートル/年は、2012年までの減少率9.3[7.4~11.3]万平方キロメートル/年より小さくなりましたが、近年は減少率が大きくなる傾向にあります(角括弧中の数字は95%の信頼区間を示す)。

海氷域面積の年最小値の減少率が近年大きくなっている要因の一つとして、海氷が融解することで海面が増えた分、太陽放射をより吸収し、更に海氷の融解をもたらす正のフィードバック効果が働いている可能性があり、海氷がより融解しやすい状態になっているものと考えられます。また、海氷域面積を減少させる要因には気象や海洋の状況、河川水の流入、海氷の厚さなども複雑に影響を及ぼし合っており、それぞれの要因がどのように影響しているのか、各機関で研究が進められています。

2013年の北極域の海氷域面積の経過

北極域の海氷域面積は、例年3月初め頃年最大となり、その後減少に転じます。2013年は3月14日に年最大値(1528万平方キロメートル)となり、年最大値としては平年より小さい値でした。その後海氷域面積は減少に転じ、平年とほぼ同じペースで減少しました。6月下旬から7月中旬にかけ海氷域面積の減少速度が一時的に大きくなりましたが、その後次第に減少速度が小さくなり、9月13日に年最小の513万平方キロメートルとなりました。その後、海氷域面積は増加に転じています(図:北極域の海氷域面積の推移)。

2012年夏季の北極域の状況との違い

2012年夏季は、海氷域面積の長期的な減少に加え、北極海に暖気が流入してボーフォート海やカナダの多島海の気温が平年より高く経過したことや、8月上旬に北極海中央部で発達した低気圧の影響が重なって海氷域面積が著しく減少しました(参照:臨時診断表 2012年夏季の北極域の海氷域面積)。

2013年夏季は、北極海のグリーンランド側が低圧部、シベリア側が高圧部になりやすい気圧配置で、寒気が北極海上空にとどまりやすい状況でした。そのため、2012年夏季と比べ海氷の融解が抑えられたと考えられます。また、海氷の大西洋への流出を抑える風が卓越した影響も考えられます(参照:北極域の気象状況)。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書における見解

2013年9月に公開されたIPCC第5次評価報告書第1作業部会報告書の政策決定者向け要約では、北極域の海氷に関して以下のような見解が示されています。

  • 1979~2012年の期間にわたって北極域の年平均海氷面積は減少し、その減少率は10年当たり3.5~4.1%(10年当たり45~51万平方キロメートル)の範囲にある可能性が非常に高く、夏季の海氷の最小値(多年氷)の減少率については10年当たり9.4~ 13.6%(10年当たり73~107万平方キロメートル)の範囲にある可能性が非常に高い。10年平均した北極域の海氷面積の平均的な減少は夏季に最も急速に進んでいるが(高い確信度)、全ての季節について、また1979年以降の10年間毎について連続して、それぞれ面積が減少している(高い確信度)。復元データによれば、少なくとも過去1,450年において、過去30年間の北極域における夏季の海氷後退が前例のないものであったことと、海面水温が特異に高かったことの確信度は中程度である。
  • マルチモデルの平均から、21世紀の終わりまでに北極域の海氷面積は通年で減少すると予測されている。この減少は、9月においてはRCP2.6シナリオの43%からRCP8.5シナリオの94%、2月においてはRCP2.6シナリオの8%からRCP8.5シナリオの34%の間である(中程度の確信度)。
  • 北極域の海氷面積について、その気候学的な平均状態と1979~2012年の傾向を現実にかなり近く再現したモデルによる評価では、RCP8.5シナリオにおいて今世紀半ばまでに9月の北極域で海氷がほぼ無くなる可能性が高い(中程度の確信度)。9月において21世紀のいつ頃に北極域の海氷がほぼ無くなるのかについて、他のシナリオでは確信のある予測をすることができない。

備考

この「海氷域面積の長期変化傾向(北極域)」の診断は、NSIDC(アメリカ雪氷データセンター)提供の観測データを用いており、2013年4月1日以降はその速報値を用いて解析しています。観測や解析の方法については、北極域と南極域の海氷解析の解説を参照して下さい。

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