対馬暖流とは
日本海の表層は、北緯40度付近を境に南部と北部に分けることができます。
南部の表層には、東シナ海の大陸棚斜面を流れる黒潮水を主な起源とし、
対馬海峡を通って流入する高温・高塩分水(以下、暖水)が広がっています。
その大部分は津軽海峡を通って太平洋に、一部は宗谷海峡を通ってオホーツク海に流出します。
この暖水の流れが対馬暖流です。
日本海北部の表層には対馬暖流より低温・低塩分の海水(以下、冷水)が広がっており、
また、日本海の約300m以深は水温0〜1℃程度、塩分34.1程度でほぼ均一な「日本海固有水」で占められていますが、
日本海南部の表層は、対馬暖流によって高水温・高塩分の状態に維持されています。
暖水と冷水との境界には、東西に延びる極前線(亜寒帯前線)と呼ばれる水温・塩分の不連続線が形成されています。
100m深における2、5、8、11月の月平均水温(1985〜2010年の平均)の分布(図1)をみると、日本海の極前線は、
北日本や朝鮮半島の近海を除くとおおむね北緯40度付近に位置し、
対馬暖流が岸に沿って流れている北日本の近海ではおおむね岸と平行に位置しています。
対馬暖流の流路
対馬暖流は黒潮に比べると、流量で約1/10、流速で約1/4の弱い流れで、黒潮のように連続した流路を形成することは稀ですが、
対馬暖流が流入・出する対馬海峡や津軽海峡に近い海域では、比較的安定した流路をとっています。
100m深における2、5、8、11月の月平均水温(1985〜2010年の平均)の分布(図1)において、
水温の水平勾配が大きく等温線の間隔が狭くなっているところには、等温線に沿って水温が高い側を右にみる方向の流れが存在し、
等温線の間隔が狭いほど強い流れとなります。
対馬海峡から隠岐諸島に至る海域には等温線の間隔が狭くなっているところがあり、
これとは別に、朝鮮半島の東側にも等温線の間隔が狭くなっているところがみられ、いずれも対馬暖流の流路に相当すると考えらます。
対馬暖流の流路に相当する部分の水温の水平勾配を季節ごとに比べてみると、8月および11月は2月および5月に比べて大きく明瞭なことから、
対馬暖流の流れは、冬季および春季に比べて夏季および秋季に強いという季節変動をしていることがわかります。
対馬暖流の勢力
対馬暖流の厚さは、水深が150m程度の対馬海峡や陸棚地形の影響で、200m程度に抑えられています。このため対馬暖流の流量の増減は、
平面的な広がりの増減となって現れると考えられます。そこで、日本海において、100m深水温が10℃以上の海域の面積を、対馬暖流の勢力の指標としています。
対馬暖流の勢力は3月に極小、12月に極大となるような季節変動をしています。また、十年を超える長い周期の経年変動がみられます。
図2:対馬暖流の勢力の経年変動(1985〜2010年)
海洋大循環モデルとデータ同化の解析結果による、100m深の水温が10℃以上の海域の面積時系列。図中の赤線が月の実況を、黒丸(●)が実況の年平均値を示している。黄色の線は1985〜2010年の過去26年間の平均値を示す。濃い青は、「平年並」の範囲をあらわしている。ここでは、「平年並」の範囲を、1985〜2010年の26年間に出現した月ごとの対馬暖流の勢力の、上位1/3および下位1/3の事例を除いた範囲と定義している。薄い青は、1985〜2010年の26年間に出現した、上位1/10および下位1/10を除いた範囲を示している。
参考文献
- 重岡裕海,2010:測候時報,第77巻特別号,S109-S118.