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展示室5 二酸化炭素放出量の推定

  近年、濃度の観測データからモデルを使って二酸化炭素放出・吸収量(フラックス)を推定する試みが行われている。 気象庁でも、地球圏-生物圏国際協同研究計画(IGBP)主催の大気トレーサー輸送モデル相互比較計画(TransCom)で採用された時系列逆解法 (Baker et al., 2006)を用いて、二酸化炭素放出・吸収量の推定を行っており、ここでその結果の一部を紹介する。 ここでの輸送モデルによる前方演算は、同プロジェクトに参加した気象庁の二酸化炭素輸送モデル(CDTM、Maki et al., 2001)を用い、 気象庁と電力中央研究所が実施した長期再解析(JRA-25: Onogi et al., 2007)を利用して実施した。 用いた観測データは、WMO温室効果ガス世界資料センターが収集した世界中の二酸化炭素濃度月平均値である。 この観測値と逆解法から求めた解析値の差が、期待される解析精度の3倍(3σ)以上となった観測値を除外するという、 逆解法自体を用いたデータセレクションを行い、それを用いて1985~2009年にかけての月別の二酸化炭素の放出量を算出した。


結果

  図は陸域・海域における推定された二酸化炭素の放出量の変化とエルニーニョ監視海域(NINO.3) (北緯5度~南緯5度、西経150度~西経90度)の海面水温の基準値(その年の前年までの30年間の各月の平均値)との差との関係を示している。 図によると、1991~1992年を除いて、エルニーニョ現象の時期(1986~1988、1997~1998、2002~2003年)にやや遅れて陸域の放出量が増大していることが分かる。 1991~1992年にエルニーニョ現象が発生したにもかかわらず、 陸域の放出量が大きく減少しているのはピナトゥボ火山の噴火による影響と考えられている(Baker et al., 2006)。 これらの結果は他の多くの研究結果(Rödenbeck et al., 2004、Patra et al., 2005など)とほぼ一致している。

逆解法による陸域と海域の月平均総二酸化炭素放出量とエルニーニョ監視海域の海面水温の差の関係

 逆解法による陸域及び海域の月平均総二酸化炭素推定放出量(負は吸収量を示す)と エルニーニョ監視海域(NINO.3) (北緯5度~南緯5度、西経150度~西経90度)の海面水温の基準値(その年の前年までの30年間の各月の平均値)からの差との関係
 推定放出量は、バックグランドとしての放出量(海洋は−2GtC/年、人為起源を含む陸域は4GtC/年)が差し引かれている。

背景となる一般的知識

・逆解法による観測点配置の評価の試み

 逆解法はこのように、地域的な二酸化炭素放出・吸収の変動を推定するのに有効であるが、それだけでなく、この手法を使って、どこに新たな観測点を設置したらよいか、あるいはそれぞれの観測点がどの程度二酸化炭素放出・吸収量の推定精度に寄与しているか、という評価も行われている(Patra and Maksyutov, 2002; Patra et al., 2004; Sasaki et al., 2004)。それによると、シベリアは放出・吸収の不確かさが大きい地域の一つであり、観測点の設置が望ましい地域である(Maksyutov et al., 2004)。しかしシベリアの冬は厳寒になり、また夏季は多くの地域で泥沼化するため、観測点の設置及びその維持管理は非常に困難と考えられている。そのため、シベリアでなくてもその風下の太平洋岸に観測点があれば放出・吸収量の推定に有効であることが確かめられている(Patra et al., 2004)。それを裏付けるようにSuntharalingam et al.(2004)は、気象庁の大気環境観測所(岩手県大船渡市綾里)が、アジア大陸太平洋岸にあるとともに、連続観測によるデータ数の多さと小さな標準誤差によって、放出・吸収量の評価に大きな影響力のある観測点になっていることを指摘している。   また、逆解法を用いて異なる機関や方法(フラスコ観測、連続観測)の観測データを用いた際の影響に関する研究も行われている(Rödenbeck et al., 2006)。これによると、観測実施機関の違いや観測プログラムの違いに起因する解析結果の違いは放出・吸収の年々変動やモデル誤差などから推定される変動よりもはるかに小さく、異なる機関や方法の観測データを統合して逆解法で取り扱うことの妥当性を示している。

参考文献

Baker, D. F., R. M. Law, K. R. Gurney, P. Rayner, P. Peylin, A. S. Denning, P. Bousquet, L. Bruhwiler, Y. -H. Chen, P. Ciais, I. Y. Fung, M. Heimann, J, John, T. Maki, S. Maksyutov, K. Masarie, M. Prather, B. Pak, S. Taguchi, and Z. Zhu, 2006: TransCom 3 inversion intercomparison: Impact of transport model errors on the interannual variability of regional CO2 fluxes, 1988-2003. Global Biogeochemical Cycles, 20, GB1002, doi:10.1029/2004GB002439.

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