発表した降灰予報の検証

 気象庁は平成20年(2008年)に降灰予報の発表を開始し、平成27年(2015年)3月からは「降灰量」や「風に流されて降る小さな噴石の落下範囲」の予測を含む降灰予報を発表しています。
 ここでは、平成27年以降の降灰を伴う噴火事例のうち代表的なものについて、気象庁の降灰予報と観測との比較等を行った結果を紹介します。


平成28年10月8日 阿蘇山噴火の事例

 平成28年(2016年)10月8日01時46分に阿蘇山で噴火が発生し、阿蘇山の北東側にあたる熊本県、大分県、愛媛県、香川県、岡山県で降灰を確認しました(図1~3)。なお、火口周辺については前日の10月7日の噴火による降灰も含まれているとみられます。

降灰の状況(広域)
図1 平成28年10月8日の阿蘇山の噴火における降灰の状況(広域1)
※国土地理院発行の『基盤地図情報』を使用

降灰の状況(詳細)
図2 平成28年10月8日の阿蘇山の噴火における降灰の状況(広域2)
※国土地理院発行の『基盤地図情報』を使用

降灰の状況(火山近傍)
図3 平成28年10月8日の阿蘇山の噴火における降灰の状況(狭域)
小さな噴石(火山礫)は、阿蘇山の北東側約20kmの大分県竹田市(赤矢印)まで達しました。
※国土地理院発行の『基盤地図情報』を使用


 気象庁ではこの噴火について、03時15分に噴煙高度11,000mとして降灰予報(詳細)を発表しました。このうち、噴火開始から08時までの予想降灰量分布を図4に示します。

降灰予報の図 凡例
図4 平成28年10月8日の阿蘇山の噴火の降灰予報
※降灰の厚さ(mm)と単位面積当たり重量(g/m2)との関係は火山灰の様相により一律ではありませんが、おおよそ1[mm]が1000~1700[g/m2]に相当します。


 この時の降灰予報は、火口から北東~東北東方向に降灰する様子を概ね再現できています。ただし、詳しく見ると、「多量」「やや多量」の降灰量の予測領域が観測よりも広くなっており、火口に近い場所で降灰量の予測がやや過大となっていました。
 この噴火について、事後的に噴煙高度と噴出継続時間を変化させて再計算したところ、噴煙高度を海抜13km(≒事後の解析で気象衛星や気象レーダー等からおおよそ推定された高さ)とし、爆発地震波形から求めた噴出継続時間(4分)を入力することで、観測された降灰分布が精度良く再現されることが分かりました。


平成27年9月14日 阿蘇山噴火の事例

 平成27年(2015年)9月14日09時43分に阿蘇山で噴火が発生し、火口より西側の熊本県北部から福岡県の一部で降灰を確認しました。気象庁ではこの噴火について、10時13分に噴煙高度2,000mとして降灰予報(詳細)を発表しました。降灰予報(詳細)における噴火開始から16時までの予想降灰量分布と、現地調査及び聞き取り調査による降灰の状況を図5に示します。

降灰の状況と降灰予報の図
図5 平成27年9月14日の阿蘇山の噴火における降灰予報と降灰の状況
※国土地理院発行の『数値地図25000(行政界・海岸線)』を使用


 この噴火では、特に火口から西~北西側において、降灰予報(詳細)で「少量」以上の降灰を予測した範囲よりも広い範囲で降灰を観測しました。この時に降灰の予測計算に用いた数値予報モデルの当該領域の850hPa面の風向きは東風でしたが、毎時大気解析によると実際には南東風となっており、このことが予測より広い範囲で降灰を観測した理由だと考えられます。(図6)

上空の風の状況
図6 平成27年9月14日の850hPaの風の予報と解析値



平成28年4月30日 桜島噴火の事例

 平成28年(2016年)4月30日09時25分に桜島で噴火が発生し、火山灰は低い高度で北方向に流れた後、上空で多くの火山灰が東方向に流れました(図7)。09時現在の鹿児島の高層観測によれば、高度3,000m程度以下では西~北寄りの風、それより上空では西寄りの風が観測されており(図8)、噴煙の広がる方向はこの観測と整合しています。

噴煙の状況
図7 平成28年4月30日の桜島の噴煙の状況(手前が東方向)


エマグラム
図8 平成28年4月30日の桜島の上空の風の状況


 気象庁ではこの噴火について、09時54分に降灰予報(詳細)を発表しました(図9)。当時の数値予報モデルでは風向が変化する高度が実際よりも高く予想されていたため、実際よりも多くの火山灰が北に流れる予報となりました。実際には図7のように、より多くの火山灰が東に流れました。

降灰予報
図9 発表した降灰予報(詳細)



発表した降灰予報と降灰調査結果の比較

 気象庁で降灰調査を実施し、調査結果を火山活動解説資料で報告している事例(平成29年以降)について、発表した降灰予報と降灰調査結果との比較を以下に示します。



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