都市気候モデルについて
1. 都市気候モデルの概要
都市気候モデルの概要を図A1に示します。都市気候モデルとは、数時間から1日先の大雨や暴風等の災害をもたらす現象を予測することを主要な目的として、日々の天気予報や防災気象情報の作成に利用されていたメソモデル(気象庁, 2003, 2008)に、図A1で示すような、大気の状態とともに地形、都市域と草地や森林等の土地の利用形態、人工排熱等を入力し、地表面や建築物との熱のやり取りをモデル化したもので、都市における大気の状態をコンピュータ上で精度よく再現することを目的として開発されたものです。水平の解像度は2kmです。都市気候モデルの詳細設定については、萱場,石原(2014)やAoyagi and Seino(2011)を参照してください。
2. 人工排熱量データ
モデルに与える人工排熱量データについては、萱場ほか(2010)で作成された推定式により、総務省統計局の人口データや従業者数データ、国土数値情報の土地利用3次メッシュデータをもとに作成したデータを利用しています。図A2は、上記で作成された関東の8月の15時の分布図と東京(大手町)の観測地点における8月の時系列図を示しています。
シミュレーションで用いる8月の15時の人工排熱量分布(単位:W/m2) | 東京(大手町付近)の8月の人工排熱量の24時間時系列図(単位:W/m2) |
3. 土地利用データと都市域の設定
都市気候モデルで用いる土地利用形態には、国土交通省国土政策局が公開している国土数値情報の土地利用3次メッシュデータ(平成18年度版)を使用しています。本データの土地利用種別は、田、その他の農用地、森林、荒地、建物用地(住宅地・市街地等で建物が密集しているところ)、幹線交通用地(道路・鉄道・操車場等で、面的に捉えられるもの)、その他の用地(運動競技場、空港、競馬場・野球場・学校港湾地区・人工造成地の空地等)、河川地及び湖沼、海浜、海水域、ゴルフ場に分類されています。シミュレーションでは、このうちの建物用地、幹線交通用地、その他の用地の割合が50%(下図では0.5)以上を都市域と設定しています(図A3)。
4. 都市気候の評価方法
都市化による気候への影響を定量的に評価するために、都市の地表面状態や人工排熱を考慮した場合のシミュレーションを「都市あり実験」、また、都市の影響を除去した場合(都市域の地表面状態を草地に置き換え、かつ、人工排熱をゼロにすることで、仮想的に人間が都市を建設する以前の状態に戻す)のシミュレーションを「都市なし実験」として、2つの実験を行い、都市あり実験結果から都市なし実験結果を引いたものを都市化の影響とみなします(図A4)。
なお、このモデルの都市あり実験における再現精度については概ね良好です。詳細については「ヒートアイランド監視報告(平成23年)」、「同(平成24年)」(気象庁, 2012,2013)を参照してください。
都市あり実験結果(単位:℃) | 都市なし実験結果(単位:℃) | 都市化の影響(単位:℃) |
参考文献
- 気象庁, 2003: 数値予報課報告・別冊第49号 気象庁非静力学モデル
- 気象庁, 2008: 数値予報課報告・別冊第54号 気象庁非静力学モデルⅡ-現業利用の開始とその後の発展-
- 気象庁, 2012: ヒートアイランド監視報告(平成23年)
- 気象庁, 2013: ヒートアイランド監視報告(平成24年)
- 萱場亙起,青栁曉典,高橋俊二, 2010: 重回帰分析による人工排熱量の推定. 測候時報, 77.4-6, 137-153.
- 萱場亙起,石原幸司, 2014: 都市気候モデルを用いたヒートアイランドの監視. 日本ヒートアイランド学会誌, 9, 25-29.
- Aoyagi, T., and N. Seino, 2011: A square prism urban canopy scheme for the NHM and its evaluation on summer conditions in the Tokyo metropolitan area, Japan. J. Appl. Meteor. Climatol., 50, 1476-1496.