東経137度線における二酸化炭素の長期変化傾向について


 東経137度線(北緯3~33度)における冬季の表面海水中二酸化炭素分圧(注)の年増加率(1984~2013年)とそのばらつきは、大気中に比べ変動が大きく、また海域によって異なります(下図)。
 注 : 大気と海洋の間でやり取りされる二酸化炭素の量を定量的に扱って解析するために、二酸化炭素濃度を圧力の単位に変換した値

 Midorikawa et al. (2006)は、このような海域による違いについて、表面海水中の二酸化炭素分圧を変化させるメカニズムが海域ごとに異なるためと報告しています。 冬季混合層が発達する北緯25~32度の海域では、表面海水中における二酸化炭素分圧の年増加率は、大気と有意な差はなく、ばらつきは相対的に小さくなっています。 これは、冬季に表面海水が冷却される効果と、表面海水が冷却されることによる混合層発達の効果とが相殺するためです。 前者の効果は、水温が低下するほど二酸化炭素分圧が低下する性質によるためで、 後者の効果は、混合層が発達する過程において全炭酸濃度の高い海水を下層から取り込むことで二酸化炭素分圧を上昇させます。 その南の北赤道海流域(海洋の循環)にあたる北緯15~18度では、年増加率のばらつきは相対的に大きくなっています。 これは、全炭酸濃度と海水温の変動による効果が相殺しないためで、 この原因については、エクマン流(風によって引き起こされる海面付近の流れ)や北太平洋回帰線水の変動の影響など、 いくつかの可能性が示唆されていますが、まだ明確にはなっていません。 また、北緯3~6度の海域も年増加率のばらつきが大きく、エルニーニョ/ラニーニャ現象の影響によるものと考えられています。

東経137度線(冬季)における二酸化炭素分圧の年増加率の緯度分布1

東経137度線(冬季)における二酸化炭素分圧の年増加率の緯度分布

図中の青色■印は表面海水中、ピンク色●印は大気中の二酸化炭素分圧の年増加率を表し、エラーバーは標準偏差を示しています。




 また、Midorikawa et al. (2012)は、東経137度線の北緯10~20度付近において、1999~2009年の表面海水中の二酸化炭素分圧の増加率が、それ以前の期間に比べ低下していたことを指摘し(下図)、 その要因として亜熱帯循環(海洋の循環)が南下した影響である可能性を示唆しています。 1999年以降、亜熱帯循環が南下したことによって、水温が高く全炭酸濃度の低い水に表層が覆われたことと、このことに伴って下層からの全炭酸濃度の高い海水の供給が減少したこと、 これら2つの効果によって二酸化炭素分圧の増加率が低下したと考えられています。


東経137度線(冬季)における二酸化炭素分圧の年増加率の緯度分布2

東経137度線(冬季)における二酸化炭素分圧の年増加率の緯度分布
(a)大気中、(b)表面海水中

図中の橙色■印は1984~1997年、水色●印は1999~2009年の二酸化炭素分圧の年増加率を表し、エラーバーは標準偏差を示しています。(Midorikawa et al. (2012)をもとに作成)

参考文献

  • Midorikawa, T., M. Ishii, K. Nemoto, H. Kamiya, A. Nakadate, S. Masuda, H. Matsueda, T. Nakano, and H. Y. Inoue (2006), Interannual variability of winter oceanic CO2 and air-sea CO2 flux in the western North Pacific for 2 decades, J. Geophys. Res., 111, C07S02, doi:10.1029/2005JC003095.
  • Midorikawa, T., M. Ishii, N. Kosugi, D. Sasano, T. Nakano, S. Saito, N. Sakamoto, H. Nakano and H. Y. Inoue (2012), Recent deceleration of oceanic pCO2 increase in the western North Pacific in winter, Geophys. Res. Lett., 39, L12601, doi:10.1029/2012GL051665.

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