海洋内部のpHの長期変化傾向の診断では、Takatani et al.(2014)の手法に基づいて、全炭酸濃度と全アルカリ度からpHの値を見積もっています。この手法は、海洋の二酸化炭素の観測項目として広く測定されている全炭酸濃度、全アルカリ度、pH、二酸化炭素分圧(pCO2)のうち2つの要素の値が分かれば、化学平衡の関係からそのほかの要素の値が計算で求めることができることを利用しています(海洋の二酸化炭素の観測項目と方法参照)。
気象庁と気象研究所では、1994年から全炭酸濃度、2003年から高精度な手法によるpHの観測を開始しました。Takatani et al.(2014)は、同じポテンシャル密度の面(等密度面)における塩分で規格化した全アルカリ度に長期的な変化傾向がみられないことを報告しています。このことから、各等密度面における塩分で規格化した全アルカリ度が解析期間内で一定であるとし、全炭酸濃度と全アルカリ度の値からpHの長期変化傾向を求めました。これにより、pHの観測値からは求めることができなかった、より長期間の海洋内部での海洋酸性化の進行状況の把握が可能となりました。
上記手法で求められた各密度面でのpHの長期変化傾向から、ポテンシャル密度25.0σθから26.9σθ(深さ約150mから800m)の平均の変化傾向を求めています。これは、北西太平洋亜熱帯域において冬季の混合層より深い25.0σθから有意なpHの長期変化傾向がみられる下限である26.9σθまでの範囲として定義しています。水温によってpHの値は少し変化します。ここでは、現場水温におけるpHから長期変化傾向を計算しました。
海洋内部のpHの長期変化傾向の見積もりに使用したデータを示します。
全炭酸・全アルカリ度・pH・水温・塩分・ポテンシャル密度
海洋内部のpHの長期変化傾向の見積もりに使用した観測定線・範囲・観測期間は表のとおりです。
観測定線 | 範囲 | 観測期間 | |
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東経137度 | 北緯7度30分~北緯32度30分 | 1994年~ | |
東経165度 | 北緯7度30分~北緯37度30分 | 1992年~ |
各航海で使用した標準物質、装置の状態等の違いによって、航海間の観測値に差が生じることが知られています。海洋内部のpHの長期変化傾向の見積もりでは、Sasano et al.(2015)の手法を用いて、東経137度線は2010年夏季の、東経165度線は2011年夏季の高精度・高密度観測を基準に、標準物質や装置の状態等の違いによる各航海の差を補正しています。