気候リスク管理技術に関する調査(清涼飲料分野)
~2週以上先の気温予測を販売促進対策に活用しませんか?~
気象庁では、「気候リスク管理」の有効性を示す実例(成功事例)を示すため、一般社団法人全国清涼飲料連合会の協力を得て、平成28年度から平成30年度にかけて、清涼飲料分野における気候リスク管理技術に関する調査を実施しました。
コーヒー飲料やスポーツ飲料などの自動販売機(自販機)による販売数データと気象観測データの関係を分析した結果、これらの販売数と気温等の気象要素の間には関係があり、その特徴は品目や地域によって異なることが分かりました。
さらに、平成29年度には気象庁HPからリアルタイムで手に入る2週先までの気温予測を活用した実験を行い、販売機会ロスを効果的に削減することができました。
また、平成30年度には、2週以上先の気温予測に基づいた在庫管理を行うことの効果をシミュレーションを実施しました。
詳細については、以下の調査報告書をご覧ください。
このページでは、清涼飲料分野における気候リスクへの対応策として、自販機による清涼飲料販売数と気温の関係の調査結果を示します。また、2週先までの気温予測を販売機会ロスの削減に活かす方法について紹介します。
気候リスク管理の方法
寒い季節は、自販機の暖かい飲み物に手が伸びますね。逆に、暑い季節にはスポーツ飲料などの冷たい飲み物が欲しくなります。このように、自販機の清涼飲料販売数と気候に関係があることは経験的に認識できます。
では、実際に暖かい飲み物は気温が何度ぐらいで売れ始めているのでしょうか。また、地域や品目によって違いはあるのでしょうか。このようなことが定量的に分かれば、企業は商品の補充など、消費者の需要にタイムリーに応えることが可能になります。
気候による影響を利用するためには、①気候リスクを認識し、②それらを定量的に評価し、③気候情報を用いて対応すること、の3つのプロセスが重要で、これら一連のプロセスを「気候リスク管理」といいます。
気候リスクの評価(販売数と気温の関係を調べる)
7日間平均のコーヒー飲料等(HOT)販売数と平均気温の関係について、時系列図や散布図を用いて調査しました。7日間で平均することにより、曜日による販売数の変動の影響を取り除くことができます。
以下、気温は7日間の平均値を使います。また、図1、図2 のグラフでは販売数を「販売指数」として示します。ここで「販売指数」とは、1日の販売数を2016年の1日当たりの平均販売数で割った値です。
評価方法の具体例については、気候リスクの評価ページをご覧ください。
図1に東京都におけるコーヒー飲料等(HOT)の販売数と平均気温の推移を示します。
販売数は平均気温の上昇に伴って減少し、気温の下降に伴って増加していることが分かります。
9月の後半頃から販売数の増加が始まり、10月以降は気温の変動に伴う販売数の変化が大きくなります。そして4月は販売数が急激に減少します。
なお、気温の高い時期は販売数がほぼゼロとなっていますが、これは自販機のコラムがほぼ全てCOLD飲料に割り当てられるためです。
図1 2014~2016年の東京都におけるコーヒー飲料等(HOT)の販売数(濃細実線、右縦軸)と平均気温(薄太実線、左縦軸)の推移。
次に、平均気温とコーヒー飲料等(HOT)の販売数の関係をみてみます。
図2は、2014年4月から2017年3月までの東京都における平均気温(横軸)と屋外の自販機でのコーヒー飲料等(HOT)の販売数(縦軸)をプロットしたもので、月ごとに異なる色で表しています。
販売数は22℃を下回るまではほぼゼロで、気温の低下に伴い増加することが分かります。
図2 東京都の平均気温(横軸)とコーヒー飲料等(HOT)の販売数(縦軸)の散布図。
このような販売数と気温の関係は、他の地域や品目でも見られました。詳細は平成29年度報告書(第3.1章および付録A)に掲載しています。
気候リスクへの対応例1(2週先の気温予測を活用したHOT飲料への切替)
①気温予測を用いたタイムリーな対策の実施
平成29年度の調査では、2017年10~12月に一般社団法人全国清涼飲料連合会会員企業において、リアルタイムで手に入る2週先の気温予測を活用する実験を実施しました。ここでは、2週先の気温予測を用いてHOT飲料の販売をタイムリーに開始できた例を紹介します。
実験に参加した企業に、2週先の気温予測などの情報を提供しました。 10月にはいり、平均気温が22℃を大きく下回るという予測を受け、東京都内の一部の屋外自販機においてHOT飲料の販売を開始しました。
②対策の効果(実験の事後検証)
東京都内の屋外自販機31台を選び、HOT飲料の販売を開始するのが10月17日以前だった15台と、10月18日以降だった16台のふたつのグループ(それぞれ、「先行グループ」、「後発グループ」と呼びます)に分けて、HOT飲料とCOLD飲料の販売数を比べてみました。
図3 2017年10月の東京都内屋外自販機の販売数と東京の平均気温の推移。左図は先行グループ、右図は後発グループ。棒グラフは販売数(左縦軸)、折線は平均気温(右縦軸)を表す。
図3に、それぞれのグループの、自販機1台あたりの1週間合計の販売数をHOT飲料(赤色)とCOLD飲料(水色)とに分けて、10月の第1週から第4週まで示しました。この図には1週間平均の気温も折れ線グラフで示しています。10月第3週は第2週に比べて平均気温が急激に(約6℃)下がりました。
気温の低下に応じてCOLD飲料の販売数は先行グループ、後発グループ、ともに減少しています。一方、HOT飲料の販売数は、先行グループでは増えていますが、後発グループでは少量です。これは後発グループでは自販機に入っているHOT飲料が少ないことが原因だと思われます。
このように、気温が下がるという予測をもとにHOT飲料の販売を開始することによって、HOT飲料を数多く販売することができました。2週先までの気温予測を活用することで、販売機会ロスを削減することができた、といえるでしょう。
なお、先行グループの方が後発グループよりも総じて販売数が多いですが、これは立地条件により販売数の多い自販機が先行グループに属していることによると思われます。
実験期間中、この事例以外においても、気温予測を基に実施できた指示がありました。
- 自販機への補充量増減
- 商品調達の増減による倉庫在庫の調整
- 社内会議等での販売計画の立案・修正に関わる提案の根拠
③清涼飲料分野関係者のコメント
- もし気象予測に基づいてHOT飲料の販売開始日を変更する対策を行わなかったことを考えると、2017年10月のHOT飲料の販売数が実績よりも低くなった可能性が高いだろう。この10月の実績販売数は台風接近といった天候の影響を受けて前年を大きく下回っており、そうした中でも有効な対策であったことを考えると高く評価できる。
気候リスクへの対応例2(自動販売機の効果的な商品の入れ替え)
①品目別の販売数と気温の関係
平成30年度の調査では、コーヒー飲料以外の飲料やコーヒー飲料についても細分化し、品目別に販売数と気温の関係を調べました。 それをまとめたものが以下の表となります(クリックして拡大)。
②商品の切り替えシミュレーション
この表を用いることにより、気象予測を用いて商品の売り上げが多くなるように商品を入れ替えることができるかもしれません。例えば、以下のような切り替え方が考えられます。
- だんだんと15℃を下回ることが予想されるようになってきた時期に、15℃前後を下回ると販売数が大きく減少する商品から販売数が大きく増加する商品に入れ替えることによって、売り上げを増やす。
- 8℃を超えるとよく売れるなど、気温による販売数傾向が同じ商品をまとめて切り替えることで効率的に商品の切り替えを行う。
- 大きく販売数が減る気温が予想されるときに、気温の影響が少ない商品に入れ替えを行うことで、売り上げの減少を減らす。
③清涼飲料分野関係者のコメント
- 自動販売機におけるホットとコールドの入れ替えについて具体的なシミュレーション案が作成できたことは大きな成果。気象情報を現場で活用するために機会があれば実証実験や追加調査にも挑戦したい。
気候リスクへの対応例3(サプライチェーンの各段階における気候情報活用)
①サプライチェーンと各種気象予測情報の関係
平成30年度の調査では、一般社団法人全国清涼飲料連合会会員企業へのヒアリングを行い、清涼飲料分野における一般的なサプライチェーンの各段階での役割や業務内容とその段階で適用可能な気象情報について整理しました。
②長期予報の活用可能性
予報が対象とする期間が先になればなるほど予報は難しくなるため、長期の予報を断定的な予報として利用するには注意が必要となります。気象庁で長期を予報する季節予報では、複数の数値計算を行うことで複数の未来の気象状況を予測するアンサンブル予報という手法を用いています。
その予想される複数の未来の中の気温の最大値を確認することで、どの程度の高温になりうるかなどの参考にすることができるため、例えば、気温が平年より高くなる確率が大きく予想された際には、アンサンブル予報の値を用いて予測される気温の上限値を把握しリスク対策に備えるといった活用が考えられます。
③清涼飲料分野関係者のコメント
- 製造計画においては、3か月予報を超える季節予報が重要となるため、現段階では3か月予報の活用が有効であるとは断言しがたい。しかし、情報の特性を把握した上で長期予報を判断材料の一部とし、製造におけるリスクの幅を想定することは非常に有用であると考える。
調査結果の活用
自販機で販売している清涼飲料各品目を中心に分析を行った結果、気温の変動と販売数の増減に強い関係があることが分かりました。
また、2週先までの気温予測を活用することで、販売機会ロスを削減することができました。また、その先の気温予測についてもリスク対策に活用できる可能性がみえてきました。
本調査を参考に気温との関係を調査することで、清涼飲料分野だけでなく、その他の産業分野においても、2週以上先の気温予測を活用した様々な対策を実施することができます。