日本沿岸海況監視予測システムの概要

気象庁では、日本沿岸海況監視予測システム(以下、MOVE-JPN)を開発し、令和2年10月28日から運用を開始しました。 本システムには、以下のように 海洋大循環モデルデータ同化(数値予報解説資料集の解説) の最新の技術が用いられています。

システムの特徴

  MOVE-JPNは、日本沿岸域における海流・海水温を詳細に把握するために気象庁で開発された、海洋データ同化・予測システムです。 システムの基盤となる海洋モデルは、沿岸地形を表現するために2kmと高い水平解像度を用いており、さらに、潮汐、気圧による海面の変化、河川水の流出など、沿岸域で重要となる様々な物理過程も導入しています。 また、人工衛星、Argoフロート、船舶などによる観測値と海洋モデルを組み合わせて実況の解析値を作成する、データ同化と呼ばれる技術において、時々刻々と変化する観測の情報をより正確に扱う高度な手法(4次元変分法)を採用しています。 これらにより日本沿岸域の水温、海流を詳細に表現することが可能となり、気象庁ホームページ「海洋の情報」において、沿岸の詳細な海洋情報を提供できるようになりました。 システムには海氷モデルも組み込まれており、気象庁の海氷情報にも本システムのデータが利用されています。

システム構成

  MOVE-JPN中の海洋モデルは、図1に簡略化して示したとおり、全球モデル(解像度約100km)、北太平洋モデル(解像度約10km)、日本近海モデル(解像度約2km)から構成されます。 これらのモデルを用いて、データ同化による解析と、モデル・シミュレーションによる予測を行います。 データ同化による解析は、北太平洋モデルを直近の10日間で実行し、その期間の観測データと最も整合する海洋の時間発展を求めます。 予測は、データ同化による実況解析値にもとづいて各海洋モデルの初期値を作成したうえで、大気モデルの予測データを利用して予測計算を行います。 予報発表日を1日目とすると日本近海モデルは10日先まで、北太平洋モデルは約1か月先まで予測を行っています。 (なお、4次元変分法による解析は膨大な計算資源を使うため、北太平洋モデルの海域における解析では、日本近海以外の海域で北太平洋モデルの解像度10kmよりもやや粗い解像度の「北太平洋解析モデル」を使用しています。 気象庁ホームページ「海洋の健康診断表」には、北太平洋モデル、北太平洋解析モデル、日本近海モデルの結果が利用されています。)

図1 MOVE-JPNのシステム構成

図1 MOVE-JPNのシステム構成

結果の例:外洋から沿岸まで

MOVE-JPNにより、日本近海の広い範囲の海流や海水温を2kmの解像度で解析・予測できます。 これにより、沖合の黒潮や親潮といったスケールの大きい海流の変動から、日本沿岸域におけるスケールの小さい現象の変動まで詳細に表現することができます(図2)。 また、海流や海水温だけでなく、沿岸の潮位変動や海氷の分布もよく再現できます(図3)。

図2a MOVE-JPNの構成 図2b MOVE-JPNの構成

図2 MOVE-JPNによって予測された海面水温の変動

(右図は、左図の四国・東海沖の拡大図)

図2 潮位・海氷におけるMOVE-JPNの利用例 図2 潮位・海氷におけるMOVE-JPNの利用例

図3 MOVE-JPNの利用例

左図:広島呉で2011年に発生した異常潮位の再現例。 右図:MOVE-JPNによって解析された海氷密接度の分布。

気象庁ホームページでの表示

気象庁ホームページでは、海水温、海流、海氷の前日までの5日分の実況図と30日後までの予想図を毎日更新しており、MOVE-JPNはその主要な部分を担っています(MOVE-JPNによる提供コンテンツ)。 また「海洋の情報」では、MOVE-JPNによる海水温や海流に関する沿岸域の詳細な情報も分かりやすく見られるように、自由に拡大や縮小が可能です(図4)。

図4 気象庁ホームページにおける日本近海の海流の表示

図4 気象庁ホームページにおける日本近海の海流の表示

平年値について

  表層水温や親潮面積など平年値は長い期間のデータが必要となります。MOVE-JPNの4次元変分法による解析は膨大な計算資源を使うため、2008年以降のデータしかありません。 それ以前の期間は、衛星海面高度計データのある1993年から2007年までについて、4次元変分法に比べて計算量が少なくできる3次元変分法を北太平洋解析モデルに適用して解析計算を行いました。これらの解析値から1993年~2017年の25年間の平年値(統計量)を作成し、表層水温や親潮面積などの平年値として使用しています。

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