黒潮の数か月から十年規模の変動(流量)
令和6年5月20日 気象庁発表
(次回発表予定 令和7年5月20日)
診断(2023年)
- 東経137度線を横切る黒潮の流量は、数年から10年程度の周期で変動しています。
- 1970年以降で有意な⻑期変化傾向は見られません。
東経137度線を横切る冬季・夏季の黒潮の流量の経年変化(1967年冬季~2023年夏季)
気象庁の海洋気象観測船による冬季と夏季の観測に基づいて深さ約1250mを基準とした地衡流量を計算し、本州南方における東向き流量からその南側の西向き流量(黒潮反流)を差し引いた正味の東向きの流量を黒潮の流量としています。細線は観測値、太線はその3年移動平均を表します。2009年夏季(図中'x')は、気象庁の海洋気象観測船以外のデータも利用しています。詳細については「東経137度線の海洋観測の欠測時における他の観測データの利用について」をご覧ください。
解析には、2017年の診断(2018年5月発表)より、2018年3月に公開した「東経137度定線の長期解析結果」を使用しています。そのため、2016年の診断(2017年5月発表)以前の数値と一部異なります。
東経137度線を横切る黒潮流量の時系列(数値データ[TXT形式:3KB])
解説
黒潮は、北太平洋亜熱帯域の西岸を北向きに流れる海流で、多量の熱を低緯度域から高緯度域へと輸送しています。この黒潮による熱の輸送は、北太平洋を中心とした各地域の安定した気候の形成に大きな役割を果たしています。
東経137度線を横切る黒潮の流量は、数年から10年程度の周期で変動しています。この黒潮の流量の変動は、北太平洋の中央部における風の変化の影響を受けたものです(参考:北太平洋亜熱帯循環と代表的な海流および水塊)。2000年以降、10年周期の変動は検出されず、数年周期の変動のみみられるとの指摘もあります。(Kawakami et al., 2022)
1990年代以降、若干の減少傾向が見られるものの、1970年以降では有意な長期変化傾向は見られません。数値モデルによる将来予測において、黒潮流量に有意な変化は見られないとの予測(Yamanaka et al., 2021)がある一方、黒潮を含む西岸境界流が強化されるとの予測(Yang et al., 2016)もあり、今後も監視を続けていく必要があります。参考文献
- Kawakami, Y., A. Kojima, K. Murakami, T. Nakano, and S. Sugimoto, 2022: Temporal variations of net Kuroshio transport based on a repeated hydrographic section along 137°E. Clim Dyn (2022), doi:10.1007/s00382-021-06061-8
- Yamanaka, G., H. Nakano, K. Sakamoto, T. Toyoda, L.S. Urakawa, S. Nishikawa, T. Wakamatu, H. Tsujino and Y. Ishikawa, 2021: Projected climate change in the western North Pacific at the end of the 21st century from ensemble simulations with a high-resolution regional ocean model. J Oceanogr 77, 539–560 (2021), doi:10.1007/s10872-021-00593-7
- Yang, H., G. Lohamann, W. Wei, M. Dima, M. Ionita, and J. Liu, 2016: Intensification and poleward shift of subtropical western boundary currents in a warming climate. J. Geophys. Res. Oceans, 121, 4928-4945.