地球温暖化と十年規模変動
世界の平均気温上昇の近年における停滞
世界の平均気温は長期的に上昇しています(世界の年平均気温)。IPCC第6次評価報告書は、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がないとしています(IPCC, 2021)。しかし気温の変化には、自然変動によって数年~数十年程度の比較的上昇率が大きい期間と小さい期間があります(図1)。最近では2000年前後から2010年代前半にかけて気温の上昇率が小さい期間になっていました。この間も地球温暖化の主要な原因物質とされる二酸化炭素が増加を続け(地球全体の二酸化炭素の経年変化)、地球に入ってくる熱が出て行く熱よりも大きい状態が続いている(Loeb et al., 2012)ことにより地球が加熱され続けていました。
図1 世界の年平均気温偏差
細線(黒)は各年の平均気温の基準値からの偏差、太線(青)は偏差の5年移動平均、直線(赤)は長期的な変化傾向を示します。基準値は1991~2020年の30年平均値。
こうした気温上昇の停滞の原因について、IPCC第6次評価報告書では、火山噴火や太陽活動の影響により地上に届く太陽放射が減少したことと、海面付近から海洋内部へ運ばれる熱が増えたことなど、自然変動によって地球表面の温度上昇が抑えられた可能性が高いと指摘しています。
後者に挙げた自然変動については、海洋が重要な役割を果たしていると考えられています。海洋は、1971年から2018年の48年間で気温の上昇や氷の融解などを含む地球上のエネルギー増加量の約90%を蓄積して(海洋への熱の蓄積について)います。すなわち、自然変動によってより多くの熱が海面付近から海洋内部に運ばれると、海洋内部のわずかな水温上昇で世界の平均気温の上昇が抑えられることになります。
世界の平均気温上昇の停滞と海洋の十年規模変動
世界の平均気温上昇の停滞が見られた2000年前後から2010年代前半にかけて、太平洋で貿易風の強い状態が持続し(de Boisséson et al., 2014)、平均的には太平洋赤道域の中部から東部で海面水温が低いラニーニャ現象に似た状態となっていました(Urabe and Maeda, 2014;貿易風とエルニーニョ/ラニーニャ現象の関係)。また、この時期、北太平洋では、太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation : PDO)指数の負の値がおおむね続いていて、赤道域の海面水温がラニーニャ現象に似た状態にあることと対応しています。つまり、太平洋全体では海面水温において太平洋数十年規模振動(Interdecadal Pacific Oscillation : IPO)が負の指数となる状態がおおむね続いていました。England et al.(2014)はこのような時期は海面から海洋表層に熱が取り込まれやすく、地球温暖化による世界の平均気温の上昇が抑えられやすいと指摘しています。
一方、太平洋ではなく大西洋や南大洋での海洋内部への熱の取り込みが重要だという指摘もあります(Chen and Tung, 2014)。北大西洋の平均海面水温は60~100年程度の周期で上昇、下降を繰り返しており大西洋数十年規模振動(Atlantic Multidecadal Oscillation : AMO)と呼ばれています。AMOは大西洋の南北循環(Atlantic meridional overturning circulation : AMOC)と関連していて、海洋内部へ運ばれる熱が増えることで地上付近の気温上昇を抑えることに寄与すると考えられており(Katsman and Oldenborgh, 2011)、太平洋の変動の影響に加えて、世界平均気温の十年規模の変動に追加的な影響を及ぼすと指摘されています(IPCC, 2021)。
2000年前後から2010年代前半にかけて世界の平均気温上昇は停滞しましたが、その後は急激に上昇し、2016年から2020年の5年間は、1850年以降で最も高くなったとみられています(IPCC, 2021)。この急激な世界平均気温の上昇に同期して、PDO指数は正から負に反転する様子も見られました。このような世界の平均気温上昇に見られる十年規模の変動は、今後21世紀の間も続く可能性が高いと考えられています。
このように、地球温暖化の進行を適確に検出するには、大気だけでなく、海洋を含めた気候システム全体を対象として捉えた上で、長期的な観点で変化傾向を監視することが重要です。
参考文献
- Chen, X., and K. Tung (2014): Varying planetary heat sink led to global-warming slowdown and acceleration. Science, 345, 897-903, doi:10.1126/science.1254937.
- de Boisséson, E., M. A. Balmaseda, S. Abdalla, E. Källén, and P. A. E. M. Janssen (2014): How robust is the recent strengthening of the Tropical Pacific trade winds? Geophys. Res. Lett., 41, 4398-4405, doi:10.1002/2014GL060257.
- England, M. H., S. McGregor, P. Spence, G. A. Meehl, A. Timmermann, W. Cai, A. S. Gupta, M. J. McPhaden, A. Purich, and A. Santoso (2014): Recent intensification of wind-driven circulation in the Pacific and the ongoing warming hiatus. Nature Climate Change, 4, 222-227, doi:10.1038/NCLIMATE2106.
- IPCC (2021): Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Pean, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M.I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T.K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekci, R. Yu, and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, In press, doi:10.1017/9781009157896.
- Katsman, C. A., and G. J. van Oldenborgh (2011): Tracing the upper ocean's "missing heat". Geophys. Res. Lett., 38, L14610, doi:10.1029/2011GL048417.
- Loeb, N. G., J. M. Lyman, G. C. Johnson, R. P. Allan, D. R. Doelling, T. Wong, B. J. Soden, and G. L. Stephens (2012): Observed changes in top-of-the-atmosphere radiation and upper-ocean heating consistent within uncertainty. Nature Geosci., 5, 110-113, doi:10.1038/ngeo1375.
- Urabe, Y., and S. Maeda (2014) : The relationship between recent Japan climate and decadal variability. SOLA, 10, 176-179, doi:10.2151/sola.2014-037.