太平洋の各海域の表面海水中のpHの長期変化傾向
北太平洋から南太平洋にかけてのほとんどの海域でpHが低下しており、海洋酸性化が太平洋の広い範囲で進行しています。海域別の10年あたりのpHの低下速度は、北太平洋亜熱帯域で0.020、太平洋赤道域で0.020、南太平洋亜熱帯域で0.020、南太平洋亜寒帯域で0.018となっています(下図参照)。
(a)北太平洋亜熱帯域、(b)太平洋赤道域、(c)南太平洋亜熱帯域、(d)南太平洋亜寒帯域における表面海水中の水素イオン濃度指数(pH)の長期変化と2022年における太平洋のpH分布図(中央)
中央の図は、pHの分布を示し、色が暖色系であるほどpHの数値が低いことを示しています。
(a)から(d)の図は各海域における表面海水中のpHの時系列を示します。太線は平均値、塗りつぶしは空間的変動幅(±1σ)、破線は長期変化傾向を示しています。
(a)から(d)の図中の数字は10年あたりのpHの変化率(減少率)を示し、"±"以降の数値は変化率に対する95%信頼区間を示しています。
なお、掲載しているデータは、解析に使用しているデータの更新及びそれに伴う再計算のため、過去に遡って修正されます。
太平洋におけるpH分布の変動
表面海水中のpHは、海水の循環や生物活動の違いにより、海域ごとに示す値は大きく異なります。また、季節的な変動や、エルニーニョ/ラニーニャ現象などの影響による時間変動もみられます。
赤道域では二酸化炭素を多く含んだ海水が下層から湧昇していることにより、高緯度の海域よりもpHが低い値を示します。また、季節変動は小さいものの、エルニーニョ/ラニーニャ現象の影響が大きく現れています。エルニーニョ時には、二酸化炭素を多く含んだ海水の湧昇が弱まるため、pHが高くなる傾向があります (海洋による二酸化炭素の吸収・放出の分布 -年々から十年規模の変動 参照)。
亜熱帯域や亜寒帯域は赤道域よりも高いpHの値を示し、季節変動が大きいという特徴があります。水温の変化によってpHは変化するため、亜熱帯域では、水温の低い冬季にpHが高く、水温の高い夏季にpHが低くなります。亜寒帯域では、冬季に海水がかき混ぜられ二酸化炭素が豊富な下層の水と混ざることでpHが低下したり、夏季に植物プランクトンによる光合成によって二酸化炭素が消費されるためpHが上昇する、などの変動がみられます。
2月 | 5月 |
8月 | 11月 |
各季節における平均的な水素イオン濃度指数(pH)の分布図
2月、5月、8月及び11月の平均的なpHの分布図を示しています。平均期間は1991年から2020年までです。