表面海水中のpHの長期変化傾向(日本近海)

令和6年3月5日 気象庁発表
(次回発表予定 令和7年3月5日)

診断(2023年)

  • 日本近海の水素イオン濃度指数(pH)は、10年あたり約0.02低下しており、世界平均と同程度の割合で海洋酸性化が進行しています。
  • 日本近海の広い海域で表面海水中のpHが低下し、海洋酸性化が進行しています。
表面海水中のpHの長期変化

日本近海のpHの10年あたりの低下速度

現場水温におけるpHの値を用いています。
時系列図の黒丸(及び細線)は海域内のpHの月平均値、太線はその13ヶ月移動平均、破線は長期変化傾向を示しています。
解析手法の詳細は、海洋の二酸化炭素吸収·表面海水中のpHの分布及び長期変化傾向の見積もり方法をご覧ください。
なお、掲載しているデータは、解析に使用しているデータの更新及びそれに伴う再計算のため、過去に遡って修正されます。

解説

日本近海の表面海水中のpHは、1998年から2023年までの期間で、10年あたり0.021の割合で低下しています。世界各地の海洋時系列観測点や北西太平洋外洋域で観測されたpH、推定された世界の海洋の平均的なpHの低下の割合は、対象期間や海域による違いはあるものの、概ね0.02前後の値が報告されており(IPCC 2021; 文部科学省及び気象庁 2020)、日本近海においても同程度の速度で海洋酸性化が進行していることが分かります。

海域ごとにみると、日本南方、関東沖、北海道周辺·日本東方及び九州·沖縄海域で0.019~0.021と、日本近海の平均値に近い値となっている一方、日本海では0.024と大きくなっています。一般に水温の低い高緯度ほどpHの低下の割合が大きくなることや、海域に特有の海洋循環の自然変動の影響などにより、値の差があらわれていると考えられます。しかし、海域間の差は不確かさの範囲内にあり、日本近海では、酸性化の進行に大きな違いはみられていません。(海域の区分は「海面水温の長期変化傾向(日本近海)」参照)

pHの低下傾向と海洋酸性化

海水のpHが長期間にわたり低下する傾向を『海洋酸性化』といい、おもに海水が大気中の二酸化炭素を吸収することによって起きています。現在の海水は弱アルカリ性を示していますが、二酸化炭素は水に溶けると酸としての性質を示すため、海水のpHを低下させます。なお、「海洋酸性化」とは海洋が酸性(pHが7以下)になることではなく、pHが低下して酸性へ近づいていく現象です。海洋酸性化の進行により、海洋の二酸化炭素を吸収する能力の低下や、海洋生態系への負の影響を通じた海洋の社会・経済的価値の低下(IPCC, 2021; 2022)が指摘されています。

参考文献

  • IPCC (2021), Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change[Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M.I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T.K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R. Yu, and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 2391 pp. doi:10.1017/9781009157896.
  • IPCC (2022), Climate Change 2022: Impacts, Adaptation, and Vulnerability. Contribution of Working Group II to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [H.-O. Pörtner, D.C. Roberts, M. Tignor, E.S. Poloczanska, K. Mintenbeck, A. Alegría, M. Craig, S. Langsdorf, S. Löschke, V. Möller, A. Okem, B. Rama (eds.)]. Cambridge University Press. Cambridge University Press, Cambridge, UK and New York, NY, USA, 3056 pp., doi:10.1017/9781009325844.
  • 文部科学省及び気象庁(2020)、日本の気候変動 2020—大気と陸·海洋に関する観測·予測評価報告書—、263pp.

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