海洋中の溶存酸素量の長期変化傾向(日本南方及び親潮域)
令和7年3月5日 気象庁発表
(次回発表予定 令和8年3月5日)
診断(2024年)
- 東経137度線(日本南方)の北緯20~30度では、海洋中の溶存酸素量*が、1967~2024年の期間で減少(10年あたり0.5~0.6%)しており、特に、1985年以降の期間で顕著に減少(10年あたり1.4~1.7%)していました。
- 親潮域では、海洋中の溶存酸素量*が、1954~2024年の期間で減少(10年あたり2.5%)しており、特に、1985年以降の期間で顕著に減少(10年あたり3.7%)していました。
- 溶存酸素量の減少(貧酸素化)は地球温暖化の進行が主要因と考えられ、海洋生態系へ与える影響も懸念されています。
*1991~2020年の同海域の溶存酸素量(深度0~1000m積算)の平均値を基準 (100%) としたときの比率

図 日本南方及び親潮域における海洋中(深度0~1000m積算)の溶存酸素量の変化
(左及び右下)東経137度及び親潮域における、1991~2020年の同海域の溶存酸素量(深度0~1000m積算)の平均値を基準 (100%) としたときの比率(%)(右軸は基準値に対する偏差(mol/m2))、それぞれの値の幅は各グラフに記載の緯度帯または海域で平均した際の標準偏差、図中の数値は10年あたりの変化率、"±"以降の数値は変化率に対する95%信頼区間を表しています。赤線は95%信頼区間で有意な長期変化傾向を表しています。溶存酸素量の単位はµmol/kgですが、ここでは溶存酸素量を海面から深度1000mまで積算し、単位面積当たりの物質量(mol/m2)で示しています。(右上)使用した観測データの海域を色太線で表しています。ただし、親潮域は親潮水のデータを抽出するため、黒太線の枠内(水色の海域)の観測の中から深度100mにおけるポテンシャル水温5℃以下のデータを選んでいます(Kawai, 1972)。
- 東経137度 北緯20-25度[TXT形式:約4KB] 北緯25-30度[TXT形式:約4KB] 北緯30-34度[TXT形式:約4KB]
- 親潮域 親潮域[TXT形式:約8KB] 掲載しているデータは、解析に使用するデータの変更などにより修正する場合があります。
解説
東経137度(日本南方)における海面から深度1000mまでの溶存酸素量は、北緯20~30度では、1967~2024年の期間で累計3.0~3.6%(10年あたり0.5~0.6%)低下しており、長期的に貧酸素化が進行しています。特に、Takatani et al. (2012) で溶存酸素量が顕著に減少したと報告されている1985年以降の期間に顕著で、累計5.4~6.8%(10年あたり1.4~1.7%)低下していました。一方、北緯30~34度の海域でも溶存酸素量の減少が見られますが、黒潮大蛇行期に溶存酸素量が大きく減少していることから、短期的な海洋の内部構造の変動が大きく影響していると考えられます。
親潮域における海面から深度1000mまでの溶存酸素量は、1954~2024年の期間で累計17.7%(10年あたり2.5%)低下しており、長期的に貧酸素化が進行しています。特に、1985年以降の期間に顕著で、累計14.3%(10年あたり3.7%)低下していました。
溶存酸素量の減少が世界の多くの海域で観測されており(IPCC, 2019)、「貧酸素化」と呼ばれています。1970年から2010年までの間に、全世界平均における海面から深度1000mの溶存酸素量は0.5~3.3%の範囲で減少したことが報告されています。したがって、日本南方及び親潮域では全世界平均と同程度かそれ以上の速度で貧酸素化が進行していることが分かります。
日本海においても長期観測を行っており、特に、大和海盆及び日本海盆東部の日本海固有水(深度2000m)では海水温の上昇と共に、溶存酸素量の減少が続いています。
貧酸素化の影響
酸素は、ほとんどの海洋生物にとって生存に必要不可欠な物質であることから、 貧酸素化は水温上昇や海洋酸性化とともに、気候変動が引き起こす海洋生態系へ影響を与える三大ストレスに挙げられています。そのため、貧酸素化の現状把握は、海洋生態系への影響評価や水産資源の管理等の観点から重要です。
貧酸素化と地球温暖化
外洋域の貧酸素化の要因について、主として海水温の上昇に伴う「溶解度の低下」と「成層の強化」が知られています。先行研究では東経137度の貧酸素化に関して、約300mより浅いところでは溶解度の低下、深いところでは成層の強化が主要因であり(Takatani et al., 2012)、親潮域における表層の貧酸素化に関しては海水温上昇に伴う成層強化等が原因と指摘されています(Sasano et al., 2018)。どちらの要因も海水温上昇が主な原因であり、地球温暖化の進行に伴って今後も貧酸素化が進行していくと考えられています(IPCC, 2021)。
参考文献
- IPCC, 2019: IPCC Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate [H.-O. Portner, D.C. Roberts, V. Masson-Delmotte, P. Zhai, M. Tignor, E. Poloczanska, K. Mintenbeck, A. Alegria, M. Nicolai, A. Okem, J. PetZold, B. Rama, N.M. Weyer (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, 755 pp, https://doi.org/10.1017/9781009157964.
- IPCC, 2021: Climate Change 2021: The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Sixth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change [Masson-Delmotte, V., P. Zhai, A. Pirani, S.L. Connors, C. Péan, S. Berger, N. Caud, Y. Chen, L. Goldfarb, M.I. Gomis, M. Huang, K. Leitzell, E. Lonnoy, J.B.R. Matthews, T.K. Maycock, T. Waterfield, O. Yelekçi, R Yu, and B. Zhou (eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge, United Kingdom and New York, NY, USA, doi:10.1017/9781009157896.
- Kawai, H., 1972: Hydrography of the Kuroshio extension. ln H. Stonmel, & K.Yoshida(Eds.), Kuroshio: Physical aspects of the Japan current (pp. 235-352). Seattle: University of Washington Press.
- Sasano, D., T. Takatani, N. Kosugi, T. Nakano, T. Midorikawa, and M. Ishii, 2018: Decline and bidecadal oscillations of dissolved oxygen in the Oyashio region and their propagation to the western North Pacific. Global Biogeochemical Cycles, 32, 909–931, https://doi.org/10.1029/2017GB005876.
- Takatani, Y., D. Sasano, T. Nakano, T. Midorikawa, and M. Ishii, 2012: Decrease of dissolved oxygen after the mid-1980s in the western North Pacific subtropical gyre along the 137°E repeat section. Global Biogeochemical Cycles, 26, GB201, https://doi.org/10.1029/2011GB004227.