過去の予測値を用いた検証:水稲の刈り取り適期の予測
水稲の刈り取り適期予測は、刈り遅れによる品質低下の防止や乾燥調製施設の稼動準備等への利用のため、多くの農業機関で実施しています。 従来、刈り取り適期の予測は平年値を用いて行われてきましたが、山形県農業総合研究センターでは、平年値の代わりに気象庁の1か月先までの気温予測値を利用し、 どの程度刈り取り適期の予測精度が向上するのか検証を行いました。
気象の予測値を活用するにあたっては、過去の予測値を用いて事前に有効性を確認しておくことで、より適切に気候リスク管理に活かすことができると考えられます。 このページでは、水稲の刈り取り適期の予測を例に、気象の予測値を用いることの有効性を、過去事例のシミュレーションで確認する方法について紹介します。 |
水稲の刈り取りに適した時期と気温の関係
水稲栽培では、出穂後の日平均気温の合計(積算気温)が一定の基準に達する時期が刈り取り適期の目安となります。 表1は、今回用いた水稲の品種と刈り取り適期となる出穂期からの積算気温の関係です。 |
||||||||
表1 刈り取り適期に対応した出穂後の積算気温 |
使用したデータ
過去事例のシミュレーションを行い予測の有効性を確認するには、まずは検証に使用するデータをそろえる必要があります。今回、使用したデータは以下になります。
|
過去の事例におけるシミュレーションと予測による有効性の確認
必要なデータがそろったら、過去の事例におけるシミュレーションを行い、どの程度予測が有効であったかを検証します。
まず、実際の観測値により、過去の刈り取り適期の始まりの日を計算します(これを実際の刈り取り適期とします)。
次に、1985~2012年の各年において、8月10日ごろに8月11日以降のガイダンスデータを利用して出穂期からの積算気温を計算して、刈り取り適期を予測するという設定でシミュレーションを行います。 ※ ガイダンスデータはアンサンブル平均値(多数の予測シナリオを平均した値)を用い、気温の予測値は平年偏差(平年値からの差)のガイダンスデータを検証地点の平年値に加える形で作成しています。 これらの予測(①~③)に利用したデータとその期間の関係を示すと以下の通りとなります。 |
|
|
|
図1 刈り取り適期予測結果グラフ |
|
図1は、縦軸を実際の刈り始めの日(推定日)、横軸を予測による刈り始めの日として、各年の結果をプロットしたものです。
対角線(青点線)に上にある場合、予測日は実際と一致しており、対角線の上側(下側)では予測日が早すぎ(遅すぎ)ということになります。 |
|
図2 刈り取り適期予測結果グラフ |
|
図2は、図1と同じデータを、横軸を実際の刈り始めの日(推定日)との誤差、縦軸をそれぞれの誤差となった年次数として、棒グラフで表したものです。
予測の精度は、0付近が最も良く、グラフの左(右)にいくに従い、予測日が早すぎ(遅すぎ)ということを表しています。
となっており、この調査では4週目までの予測を用いた場合の方が、若干良くなっています。
※ (参考文献)横山克至 2014: 気象確率予測資料を用いた水稲刈取適期の予測. 東北の農業気象, 58, 1-6. 同様の調査は、積算気温が影響する小麦など他の作物の刈り取り適期、病害虫防除適期、果樹開花日等の様々な予測にも応用できる可能性があります。 |
過去の予測値を使って検証してみませんか?
以上で紹介した水稲の刈り取り適期の予測のように、過去の予測値を用いた検証(過去事例のシミュレーション)を行うことで、
事前に予測の特徴、精度、有効性などを確認した上で、予測を利用することができます。 |
ありがとうございました。