気候リスク管理技術に関する調査(ドラッグストア産業分野):
売り場作りに2週間先までの気温予測を活用する

気象庁では、「気候リスク管理」の有効性を示す実例(成功事例)を示すため、 日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の協力を得て、ドラッグストア産業分野における気候リスク管理技術に関する委託調査を実施しました。 詳しくは下記をご覧ください。

この調査の結果、様々な産業への気候情報の応用が期待できる成果が得られました。


このページでは、ドラッグストア産業分野における気候リスクへの対応策として、2週間先までの気温予測を売り場作りに活かす方法について紹介します。

1. はじめに ~売り場作りに気温予測を活用してみませんか?~

本調査の結果、ドラッグストアで扱う様々な商品の販売数と気温との間には明瞭な関係があることが分かりました。
このことから、平年から大きく隔たる気温が予測された場合には陳列棚の配置の変更や在庫の調整などの対策を行うことができます。

挿絵

東京における気温と経口補水液(熱中症対策飲料)の販売数の関係の調査結果を紹介します。

2. 分析 ~気温と経口補水液の販売数は連動する~

① 気温と経口補水液販売数を比べてみる

まずは東京における平均気温と経口補水液の販売数の推移をみてみましょう。

図1をみると、平均気温が23℃(点線)を上まわる頃から8月上旬頃まで、経口補水液の販売数は平均気温の変動と連動していることがわかります。

平均気温と経口補水液の販売数と熱中症搬送者数の推移

図1 平均気温及び熱中症搬送者数、経口補水液販売数の推移
細線は平均気温、太線は経口補水液販売数、棒グラフは熱中症搬送者数を示す。 それぞれ7日間平均値。 ただし熱中症搬送者数のデータ(消防庁提供)は6月4日以降。

次に平均気温と経口補水液の販売数の関係をみてみましょう。

図2をみると、経口補水液の販売数は昇温期に平均気温が23℃を超える頃に急増しています。

また、東京におけるスポーツドリンクの販売数は、昇温期に平均気温が25℃を超える頃に急増することが分かりました(図略)。

この他にも、虫さされ薬、殺虫剤、総合感冒薬、日焼け止め、ハンドクリームなどの多くの品目の販売数と気温の関係が明らかとなりました。


【ドラッグストア協力社からのコメント】
今回の分析結果で、年によって気温の上がり始める時期やピークが大きく変動する事や気温と販売量の相関関係がある品目も分かりました。 今回の調査結果を活用したいと思います。

平均気温と経口補水液の販売数の関係

図2 平均気温と経口補水液の販売数の関係
赤線は販売数が大きく増加する目安の気温(23℃)。

② 気温と熱中症搬送者数を比べてみる

平均気温と熱中症搬送者数の関係をみてみましょう。

図3をみると、熱中症搬送者数はどの年も平均気温が25℃を超える頃に増加し始めていることがわかります。

また、図1をみると、経口補水液の販売数が急増する頃に熱中症搬送者数も急増しており、その後も連動しています。

経口補水液の売上が増え始めるのは平均気温23℃ですが、熱中症搬送者数が増え始める平均気温25℃を熱中症対策商品の販売促進を行う目安と考えます。

平均気温と熱中症搬送者数の関係

図3 平均気温と熱中症搬送者数の関係

③ 気温から販売数を見積もる

経口補水液の販売数が大きく増加する23℃(基準温度)からの気温差と販売数の関係を把握することで、気温予測を基に販売数の目安を見積もり、追加発注の判断や在庫管理を行うことができます。

図4をみると、販売数が増加し始めてからピークに至るまでの期間には、基準温度(23℃)より5℃高く(28℃)なると、販売数は約2.6倍に増えることが分かります。

はれるん
平均気温の基準温度差と販売数の関係

図4 平均気温の基準温度(23℃)差と販売数の関係
2012年~2014年の6月1日~8月10日の7日間平均気温の基準温度(23℃)差と販売数の関係。
黒直線は近似直線。 基準温度より気温が5℃高いと、販売数は基準温度での販売数の約2.6倍となる。

3. 対策 ~2週間先までの気温予測を活用して対策をする~

熱中症搬送者数が増え始める平均気温25℃に注目し、2週間先までの気温予測を踏まえて、経口補水液の売り場作りや在庫管理を検討します。 平均気温が平年値を大きく上まわった2013年7月を対象にして、当時発表された予測を用いて対応策を検討してみましょう。

① 2週間先までの気温予測を把握する

2013年6月25日発表の2週間先までの気温予測

図5 2013年6月25日発表の2週間先までの気温予測
上図の確率時系列図は、7日間平均気温の「かなり低い」「低い」「平年並」「高い」「かなり高い」の5階級の確率を示す。 確率時系列図の色は上表の階級の色に対応する。
左下図は、7月3日~9日の7日間平均気温の確率累積確率(青)と確率密度分布(緑)を示す。 横軸は7日平均気温の平年偏差(カッコ内は7日間平均気温の絶対値)。

2週間先の確率予測資料はこちらから、最新の予測情報を参照できます。

図5をみると、2013年6月25日発表の2週間先までの気温予測では、6月29日からはじまる1週間から気温が平年より高い確率が大きくなっています。 2週目(7月3日からはじまる1週間)に平均気温が25℃を超える確率は57%(25℃を下まわる確率は43%)と気温が高くなることが予想されます。

図6をみると、2013年6月28日発表の2週間先の気温予測では、2週目(7月6日からはじまる1週間)に平均気温が25℃を超える確率は69%(25℃を下まわる確率は31%)と、25℃を超える確率はさらに高まっており、気温が高い状態が続きそうです。

2013年6月28日発表の2週間先の確率密度

図6 2013年6月28日発表の2週間先(7月6日~7月12日)の確率密度分布図

② 対策を検討する


週間天気予報も参考にしつつ、気温が高くなる時期に効果的な販売ができるように事前に対策を検討します。 たとえば、次のような対策ができます。

はれるん
  • 商品の配置変更(特設コーナーの設置や棚のエンドの活用)
  • POPやボードを用いた販売促進
  • メールを活用した販売促進
  • 在庫管理(追加発注量の調整)
  • カウンセリング(薬剤師による熱中症への注意喚起)

【ドラッグストア協力社からのコメント】
今回の分析では、気温と商品売れ数の関係を科学的に解明しており、商品のライフサイクルに基づいて、導入期の設定と特に衰退期での在庫調整でより活用できると思います。

また、熱中症対策のためには、以下のページも参考にして下さい。

4. まとめ

ここで示した経口補水液の事例の他にも、表1のように販売数と気温の関係が明瞭な品目は多くあります。 虫さされ薬や日焼け止め等の販売数は気温が上昇すると増加する一方、総合感冒薬やハンドクリーム等の販売数は気温が下降すると増加します。

表1 販売数と気温の関係の一例

気温と関係のある品目例

気温と関係がある品目の中には、ある一定の気温(基準温度)を上まわる、または下まわると販売数が急増するものがあります(図7)。 品目ごとの基準温度と販売数の増加の目安を把握することで、気温の昇降に伴う販売数の増減を見積もることができます(表2)。

品目別販売数が増加する気温や期間の目安

図7 販売数が増加する気温や期間の目安(東京)
濃い矢印は気温の変動と販売数の変動が連動する期間。
薄い矢印は販売数のピークまでの期間。
灰色線グラフは東京における2011年~2013年の3年間の7日間平均気温の平均値。

表2 気温と販売数の連動期間と販売数の増加の目安(東京)
販売数の増加の目安は基準温度時点の販売数との比。

気温と販売数の連動期間と販売数増加の目安

2週間先までの気温予測を用いて基準温度を上まわる確率や下まわる確率を把握することで、2週間先までを見越した販売促進策や在庫管理を行うことができるようになります。

また、ドラッグストア産業分野における気象予測の活用は、売上増加だけではなく、健康維持・増進にも寄与すると期待されます。

5. 調査結果の活用 ~様々な産業分野で気候情報を活用してみませんか?~

ドラッグストアで扱っている医薬品や雑貨品を中心に分析を行った結果、気温の変化と販売数の増減に関係がある品目が多数あることが分かりました。

気温と関係のある品目については、週間天気予報に加えて、2週間先までの平均気温の予測を活用することで、今後の気温の変化によって生じることが予測される需要の変化に対して、早い段階から必要な対策を計画・実施することができます。

はれるん

本調査結果を参考に気温との関係を調査することで、ドラッグストア産業分野だけでなく、その他の産業分野においても2週間先までの気温予測を活用した様々な対策を実施することができます。

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