利用の手引き
このページでは資料版に掲載している 1. 地震、2. 地殻ひずみの各項目に対応した説明を記述している。
1. 地震
1.1 地域別、規模(マグニチュード)別地震回数表
地域別、規模(マグニチュード)別地震回数表では、日本、および日本周辺で震源決定された地震の地域別、規模(以下、マグニチュードという)別回数を示す。 ここでは、震源精度が良いと判断された地震(1.2.3参照)と有感地震を記載している(有感地震のうち、精度の良くないものを含む)。 未決定欄にはマグニチュードが決定できなかった地震の回数を、欄外には震度1以上が観測された地震の総回数を示す。 なお、表中の北海道等の震央地域区分名は付記1.A.3に示す大地域区分番号による。 また日本周辺ではサハリン、千島列島、朝鮮半島、小笠原諸島、沿海州および台湾など小地域区分番号の311番から341番の地域に発生した地震の回数を示す。
1.2 震源
地震月報(カタログ編)では気象庁および国外機関で震源決定した震源を掲載している。
1.2.1 計算手法
気象庁では発生した地震について、各地震観測点におけるP波あるいはS波の発現時の観測値(以下検測値と呼ぶ)から震源の決定を、 地震波の最大振幅値からマグニチュードの決定を行う。計算に使用した地震観測点名とその位置及び地震計の形式は 付記1.A.1 地震観測点一覧、 1.A.2 地震計の特性曲線に示す。
震源決定
震源計算手法は、Geiger(1910)の方法(1)を改良した反復法[浜田ほか(1983) (2)]を用いる。 計算に用いるデータには震源距離(次式のR(km)で表される)に応じて、
P相の場合 (Wp) : | Wp = Rmin 2/R 2 |
S相の場合 (Ws) : | Ws = Wp/3 |
Rmin : 一番近い観測点の震源距離(km) | |
(但し、Rmin≦50の時はRmin=50、Wp>1の時はWp=1) |
という重みが与えられる[上野ほか(2002)(3)]。 理論走時と観測走時の差が大きい場合にはそのデータを取り除いて反復計算を行う。震源の深さについては、 まず深さも未知数として震源計算を行い、安定な解が得られなかった場合には震央位置を固定して震源の深さを1kmごとに 変化させて誤差が最小となる深さを解とする。ただし、千島列島付近の浅い地震の場合(図1参照)、深さを30kmに固定して震源計算を行う。
気象庁では震源から観測点までの理論走時の計算に走時表を使用して震源計算を行っている。走時表は球殻成層の一次元地震波速度構造モデルを仮定して計算されている。気象庁が震源計算に用いる走時表の1997年10月以降の変遷は以下の通りである。
1997年10月から2020年8月31日までに発生した地震の震源計算には、上野ほか(2002)(3)による走時表、 震央距離2000kmを超える観測点ではJeffreys and Bullen(1958)(4)の走時表を使用している。ただし千島列島付近の浅い地震には市川(1978)(5)の走時表を用いている。これらの走時表を用い、観測点の設置標高は海抜0mであるとして震源計算を行っている。
2020年9月1日以降、内陸の観測点とは地下の地震波速度構造が大きく異なる海域観測点(日本海溝海底地震津波観測網:S-net、地震・津波観測監視システム:DONET2)を震源計算に活用開始した。
これにより、陸域の観測点ではJMA2001A、日本海溝の陸側の観測点ではJMA2020A、日本海溝の外側の観測点ではJMA2020B、そして南海トラフ領域の観測点ではJMA2020Cという4種類の走時表を震源計算に使用することとした。
また、陸域の観測点は海抜-4000mから3900m、海域の観測点は海抜-8000mから0mの範囲で観測点の設置標高を理論走時の計算に加味できるようにした。震央距離が2000kmを超える観測点では、2020年8月31日までと同様の走時表を用いる(データは走時表、速度構造ファイルを参照)。
なお、海域の観測点では、観測点直下に存在する未固結堆積層により、観測走時は理論走時より大幅に遅れる。 そこでShinohara et al.(2012)(19)と同様の手順で海域の観測点の走時を補正する観測点補正値を求め、震源計算で使用している(データは海域観測点の観測点補正値を参照)。
マグニチュードの決定
観測波形の最大振幅値をデータとして、マグニチュードは以下の手法で算出する。以下のi~ⅲの手法での最大振幅は、全振幅の最大値を1/2にしたものである。
- 気象官署マグニチュード MJ
規模が大きくかつ浅い(H≦60km)地震については、気象官署に置いてある計測震度計の加速度データを二階積分して得られた変位最大振幅を用いて、 以下の式(坪井の式[坪井 (1954)(7)])により各観測点でのマグニチュードを計算しその平均値を求める。 ただし、計算に使用した観測点が2点以下の場合は採用しない。なお二階積分の際には、機械式強震計の特性を再現するHPF 6sをフィルターに用いる。 なおこの方法は、大きい地震、特にM7クラス以上に対して、ⅱのCDがMによらない定数と見なせるかが確認できるまでの経過的措置である。
MJ=1/2log(AN2+AE2)+1.73logΔ-0.83 - 変位マグニチュード MD
変位波形(水平動)の最大振幅値が検測されている場合、変位波形の最大振幅から以下の式 (勝間田,2004)(8)により各観測点でのマグニチュードを計算しその平均値を求める。 ただし、計算に使用した観測点が2点の場合はMdと表す。
MD=1/2log(AN2+AE2)+βD(Δ, H)+CD
(R≧30kmかつΔ≦700km、含まれる観測点数が3点未満の場合はΔ≦2000km。ただし、図2に示す領域の地震については観測点数によらずR≧30kmかつΔ≦2000km。) - 速度マグニチュード MV
速度波形(上下動)の最大振幅値が検測されている場合、速度波形の最大振幅から以下の式(舟崎ほか,2004)(9)により各観測点でのマグニチュードを計算しその平均値を求める。 ただし、S-net観測点の場合、AZは3成分毎の最大振幅を合成した値である。また、計算に使用した観測点が2点以上3点以下の場合はMvと表す。
MV=αlog(AZ)+βV(Δ, H)+CV
(データの適用範囲はR≧5kmかつR≦400km ただし、S-net観測点の場合はR≧50kmかつR≦150km、含まれる観測点数が4点未満の場合はΔ≦1000km) - モーメントマグニチュード Mw
気象庁CMT解によるモーメントマグニチュード。
上記ⅰ~ⅲを求める際は、各観測点で求めたマグニチュードの平均値から±0.5以上の偏差を持つ観測点のデータを取り除いてから再度計算し、その結果得られた平均値の標準偏差が0.35未満である場合のみ採用する。
ここで用いられている記号は以下の通り。
H | : 震源の深さ(km)。 |
Δ | : 震央距離(km)。 |
R | : 震源距離(km)。 |
α | : 定数。1/0.85≒1.176。 |
βD,βV | : 距離減衰項(図3、図4参照)。 |
CD | : 津波地震早期検知網(D93)の場合の補正値(=0.2)。 |
CV | : 地震計設置条件補正項(表1参照)。 |
AN,AE | : D93型等の変位波形出力が可能な地震計で観測された水平動成分(南北動、東西動)記録の最大振幅(単位はμm=10-6m)。基本的に、最大振幅の周期が6秒以下のもののみ使用する。 |
AZ | : EMT型、EMT76型、E93型等の速度型地震計、および海底地震計で観測された上下動成分記録の最大振幅(単位は10-5m/s)。 |
図2:変位マグニチュード計算において、震源距離が30km以上かつ震央距離が2000km以下のデータを使用する領域 |
図3:変位マグニチュード距離減衰項(βD) | 図4:速度マグニチュード距離減衰項(βV) |
地震計種類 | 補正値 | 地震計種類 | 補正値 |
---|---|---|---|
津波地震早期検知網 | 0.00 | 火山速度 | 1.13 |
気象庁OBS | 0.47 | JMAその他速度 | -0.18 |
67型LOGアンプ | -0.02 | Hi-net | 0.43 |
構内地上置 | -0.02 | 他機関地上置 | 0.12 |
構内埋設 | 0.50 | 他機関横穴 | 0.30 |
構内埋設LOGアンプ | -0.11 | 他機関埋設 | 0.48 |
検知網以外の隔測地上置 | 0.03 | 他機関OBS速度(S-net除く) | 0.11 |
S-net埋設速度 | 0.51 | S-net非埋設速度 | 0.27 |
隔測埋設 | 0.29 |
南海トラフ沿いのプレート境界付近で発生する深部低周波地震については、前述の計算手法に加えて、2018年3月22日から、 森脇(2017)(18)によるMatched Filter法(以下、MF法)を用いた自動震源決定手法を導入した。 MF法を用いた自動震源決定は、検出したイベントに対応するテンプレートの震源近傍で、4次元のグリットサーチにより行う。このとき、配置したグリッド空間の端に決まった場合には、テンプレートの震源をイベントの震源とする。 マグニチュードは、発生した地震とテンプレートの速度波形(上下動)の最大振幅値から、以下の式により各観測点でのマグニチュードを計算し、その平均値としている。MF法により求めたマグニチュードは計算に使用した観測点数にかかわらずMvと表す。
Mv=Mtemplate+αlog(Az/Aztemplate)
ここで用いられている記号は以下の通り。
α | : 定数。1/0.85≒1.176。 |
Mtemplate | :テンプレート地震のマグニチュード |
Az,Aztemplate | : 速度型地震計で観測された、震源決定する地震とテンプレート地震の上下動成分記録の最大振幅(単位は10-5m/s)。 |
1.2.2 検測方式
2016年4月から、溜渕ほか(2016)(17)によるPF法を用いた自動震源決定手法を導入した。 これに伴い、地域ごとに設定した閾値M(以下、Mthという)で区分される以下の3種類の検測方式を設けた。
-
精査検測震源
Mth以上の地震について、自動検測値の目視確認と手作業(マニュアル)による検測を行い、震源の精査を行うもの。(2016年3月以前と同じ方式) -
簡易検測震源
Mth未満の地震について、自動検測値の目視確認と手作業(マニュアル)による検測を行うが、震源の精査は行わないもの。 自動検測された地震について、震央距離が近い順に10観測点程度をマニュアルで検測し、それ以外の観測点については自動検測値をそのまま採用して震源決定する。 -
自動震源
Mth未満の地震について、自動検測値と自動震源の目視確認を簡易的に行った上で、そのまま採用するもの。
Mthの分布を図5に示す。深さ150kmまでにおいては、震源決定精度の最も良い内陸部および沿岸50kmまでの範囲を1.7とし、内陸部の沿岸からの距離により0.1ごとに1.8~3.5のMth値が定められている。
深さ150kmより深い地震については、表2のとおり、深さに応じてより大きなMthを定める。
ただし、東海地域については東海地震予知業務のため、他の地域よりも小さなMthで運用してきたが、PF法による自動処理結果の精度等を検討した結果、2018年3月22日からは前述の方法に統一した。
従来は図6に示すとおり、Mthが0.5、およびMthなしの領域については、全ての深さで同じMthとしていた。
なお、MF法により決定した震源については、Cの区分に相当する自動震源として、Mthに関係なく採用する。
図5:各地域のMth(深さ0~150km)実線は0.1ごとのMth境界を示す。 |
図6:東海地域のMth (2018年3月21日まで) |
表2:深さごとのMth |
A. 精査検測震源 においては、多数の観測点で検測できる場合、以下に述べる2つの方法で最大40地点程度に観測点を選別して検測を行う(1997年10月より)[気象庁地震火山部(1998)(6)]。
- 震央距離と震源の深さに関係する経験的な式、
Δlim=Δ32/100+Depth+100
で求めた震央距離内の地点を選別する。ここでΔ3は震央から3番目に近い観測点の震央距離、Depthは地震の深さである。単位はいずれもkmである。 - これらのうち、まず震央距離の小さい順に16地点、そのあとは波形状況の良好な地点を震央距離の小さい順に24地点を選別する。 波形状態の良否は各観測点において地動ノイズレベル、回線の品質、走時残差等を考慮した7段階の固有の選別定数として与えられている。 なお海域の地震、あるいは深発地震等でこのΔlimの範囲内に観測点が十分存在しないと判断した際にはΔlimを超えるデータが適切な数になるまで選別したり、40地点よりも多く観測点を選別する場合がある。
B. 簡易検測震源においては、観測点の選別は行わない。
C. 自動震源においては、PF法によるものは観測点の選別を行う。
1.2.3 震源区分
得られた震源は検測方式と誤差等の決定精度による基準によって下表のようにK、S(精査検測震源)、A、a(自動震源)、k、s(簡易検測震源)にそれぞれ区分する。
精度の良い震源(気象庁震源) | 精度の良くない震源(参考震源) | |||
---|---|---|---|---|
Mth以上 | K(精査検測) | S(精査検測) | ||
Mth未満 | k(簡易検測) | A(自動震源) | s(簡易検測) | a (自動震源) |
なお、日本国内で震度1以上を観測した地震、その他必要と認められる地震については、Mth未満であっても精査検測を行う。 また、Mが不明の場合はk、sまたはa登録となるが、Mth以上であると考えられる場合は精査検測を行う。 MF法により決定した震源については、誤差等の決定精度によらず、全てa(自動震源)に区分する。
震源の精度についての基準は以下のとおりである。内陸特定領域は図1に示したとおりである。 全国の基準は、内陸特定領域と千島列島付近の地震を除くすべての領域に適用する。
精度良く震源決定されたと判断する地震(気象庁震源:K、簡易気象庁震源:k、自動気象庁震源:A) | |||
---|---|---|---|
内容\領域 | 内陸特定領域 | 全国の基準 | 千島列島付近の地震 |
震源時の誤差 | 0.5秒未満 | 1.0秒未満 | 1.5秒未満 |
水平方向の誤差 | 3.0分未満 | 5.0分未満 | 10.0分未満 |
精度は良くないが参考として登録する地震(参考震源:S、簡易参考震源:s、自動参考震源:a) | |||
---|---|---|---|
内容\領域 | 内陸特定領域 | 全国の基準 | 千島列島付近の地震 |
震源時の誤差 | 0.5秒~2.0秒 | 1.0秒~2.0秒 | 1.5秒~2.0秒 |
水平方向の誤差 | 3.0分~10.0分 | 5.0分~10.0分 | 10.0分~15.0分 |
1.2.4 掲載基準等
本表では精度良く震源決定されたと判断する地震、すなわち気象庁震源(K)、簡易気象庁震源(k)、および自動気象庁震源(A)の基準を満たしたものについて地震の震源時、震央位置、震源の深さ、マグニチュード、最大震度、震央地名(付記1.A.3)を記載する。
- 震源時の単位は時、分、秒で誤差の単位は秒、震央位置の単位は度、分で誤差の単位は分である。震源の深さの単位、誤差の単位はともにkmである。
- 震源の深さを未知数として震源が求めた場合には標準誤差を示す。また、深さを固定して震源を求めた場合には、深さの後にFを付記する。
-
マグニチュードはMJ、MD、MV、Md、Mvの順位付けを行い、第1順位のものを気象庁マグニチュードとし、原則として「MAGNITUDE1」の欄に記載する。
第2順位のものがある場合は参考値として「MAGNITUDE2」の欄に記載する。ただし、気象庁CMT解が求められた場合は、モーメントマグニチュードを原則として「MAGNITUDE2」の欄に記載する。
(「MAGNITUDE1」の欄に記載する場合もある。その場合は、気象庁マグニチュードを「MAGNITUDE2」の欄に記載する。)マグニチュードの値の後には、その算出方法を表す記号(J、D、V、d、v、W)を付記する。
いずれも、記載すべき値を求めることができなかった場合は空欄とする。
- 最大震度
C欄には震度観測点で計測された計測震度のうち最大震度が1以上のものを示す。ここで最大震度とは、同一の地震により観測された各震度観測点の震度のうち最大のものを言う。 複数の地震が短時間のうちに発生した場合は、規模(マグニチュード)がもっとも大きい地震に対してのみ最大震度を付すことがある。無感地震は空欄にする。 なお、1996年10月より震度5、6がそれぞれ5弱、5強、6弱、6強に細分化されたが、これらはそれぞれA、B、C、Dの記号で表す (付記1.A.4:気象庁震度階級)。 - 震央地名
震央地名は震央の緯度、経度により付記1.A.3の震央地名表に示す区域番号(D,R)、および区域名を用いて表す。 区域の境界は震央地名区域図(1)-(4)に示す。 -
遠地地震
遠地地震(日本の地震観測網では震源決定が不可能なほど遠距離で発生した地震)の地震波が観測された場合、USGS等の決定した震源に関する情報を掲載する。この場合行末にUSGSと記載する。 なおマグニチュードは基本的にUSGS等が計算したmb(実体波マグニチュード)を採用するが、USGS等が計算したMS(表面波マグニチュード)、Mw(モーメントマグニチュード)、または気象庁CMTによるMwを採用する場合がある。 -
初動発震機構解、CMT解の有無
「1.2震源」においては発震機構解が得られている地震について行末にNPSの記号をつける。解のパラメータは「1.3 検測値」に、また等積投影図(下半球投影)は、「1.5 主な地震の初動発震機構解」または、「1.6 主な地震のCMT解」として記載する。
1.3 検測値
気象庁、および関係機関(国立研究開発法人防災科学技術研究所、北海道大学、弘前大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、高知大学、九州大学、鹿児島大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国土地理院、国立研究開発法人海洋研究開発機構、公益財団法人地震予知総合研究振興会、青森県、東京都、静岡県、神奈川県温泉地学研究所、米国大学間地震学研究連合(IRIS))の各地震観測点で観測された地震の検測値を示す。掲載する地震は、
- 気象庁で震源を決定した地震。
- USGS等が震源を決定した地震のうち、mb(実体波マグニチュード)かMS(表面波マグニチュード)のいずれかが概ね6以上のもの。但し、6未満でも日本の観測地点で震度1以上となったものは掲載する。
のいずれかに該当する地震である。
震源の決定された地震については、検測値の記述の前に震源に関する情報を示す。深さ固定による震源には、深さの値の後に(F)を付記する。 震源は決定されるが精度の良くないものについては参考のための震源(POOR SOLUTION)として掲載するが、「1.2震源」には掲載していない。 MF法により決定された震源には「MF」と記載し、震源に関する情報の次にテンプレートに関する情報を記載する。 また、遠地地震についてはUSGS等が決定した震源に関する情報を示し、AFTER USGSと記載する。 ただし、この場合でもマグニチュードは気象庁CMTによるモーメントマグニチュードを記載することがある。 なお、震源が十分な精度を持って決定することができない、あるいは震源が決定できない地震に関しては、前者の場合は検測値のみを震央距離の小さい順に、後者の場合は観測時刻順に記載する。
初動発震機構解あるいはCMT解が決定された地震については、震源に関する情報の次にその情報を記載する。
津波や被害が発生した場合等、特記事項がある場合はREMARKとして状況を示す。
観測点名称は付記1.A.1の地震観測点一覧 に掲載するJMAコードで示す。観測点名称に続く各欄の詳細は次の通りである。
-
相名(PHA欄)
表示される相名はP相、S相、X相、M相等である。これに加えて相の発現の明瞭度を示す、I(impulsive:明瞭)、E(emergent:不明瞭)の記号が相名の前に付加される。 なおM相は変位波形の最大振幅値を検測したもので、発現時は分位まで記載する。 -
走時残差(RES欄)
P相、およびS相の観測値(Observation)と気象庁使用走時表による計算値(Calculation)の差を示す。 -
最大振幅(N-S AMP, E-W AMP及びU-D AMP欄)
-
速度波形の最大振幅が検測されている場合、U-D AMP欄に上下動成分の最大速度振幅値(単位は10-5m/s)及びその周期(単位は秒)を記載する。O.S.は振り切れを表す。
なお、N-S AMP及びE-W AMP欄に記載されている水平動成分の速度波形の最大振幅値とその周期は、自動処理による読み取り値であるため、利用の際には留意のこと。
また、Mth未満の地震については、水平成分に加え、U-D成分の最大振幅値とその周期についても、自動処理による読み取り値であるため、利用の際には留意が必要である。 - D93型地震計による変位波形の振幅データがある場合にはN-S AMP及びE-W AMP欄に水平動成分の最大振幅値(単位は10-6m)およびその周期(単位は秒)を記載し、*を付記する。 最大振幅値は波形上での全振幅を1/2し、さらに地震計の基本倍率で割ったものである。
-
速度波形の最大振幅が検測されている場合、U-D AMP欄に上下動成分の最大速度振幅値(単位は10-5m/s)及びその周期(単位は秒)を記載する。O.S.は振り切れを表す。
- 震央距離(DELTA欄)
震央距離(Δ)は球面三角法により求める。
cosθ=sinφE・sinφS+cosφE・cosφS ・cos(λE-λS)θ : 角度(ラジアン)で表した震央距離 φE, λE : 震央の地心緯度および経度 φS, λS : 観測点の地心緯度および経度
Δ=rθΔ : 震央距離(km) r : 地球の平均半径(6371.009km) - 方位(AZM欄)
方位は震央から観測点の方向を時計回りに測ったもの(北が0度)である。 -
マグニチュード(MAG欄)
各観測点において1.2.1の要領で算出されたマグニチュードの計算値を示す。 -
マグニチュード残差(MRES欄) 上記MAG欄に示された各観測点におけるマグニチュードの計算値と1.2.1の要領で算出された当該地震のマグニチュードの値との差を示す。
ただし、MF法によって決定された地震の検測値において、観測点名称に続く各欄の詳細は次の通りである。
- 相名(PHA欄)
- 波形相関時間窓の先頭時刻(TIME欄)
- 相関係数(N-S COR, E-W COR, U-D COR欄)
- 最大振幅(N-S AMP, E-W AMP,U-D AMP欄)
- 震央距離(DELTA欄)
- 方位(AZM欄)
1.4 震央分布図
1年間及び1か月間の全国の震央分布図と各地域別の震央分布図を掲載する。また1年分の深さ別震央分布図を示す。
1.5 主な地震の初動発震機構解
主な地震の発震機構解を下半球等積投影図で示す。また、節面(NP1,NP2)の走向(STR)、傾斜角(DIP)、すべり角(SLIP)、圧縮軸(P)、張力軸(T)、中立軸(N)それぞれの方位角(AZM)、傾斜角(PLG)の値を掲載する。この方位角、傾斜角は下半球投影時の値である。
節面の走向、軸の方位角は北から時計回りに測った値で、節面および軸の傾斜角は水平面から下向きに測った値である。すべり角は断層の下盤に対する上盤の相対的なずれで、走向方向から反時計回りに測った値である(詳細は発震機構解と断層面を参照)。
なお、発震機構解の決定法は中村・望月(1988)(10)の方法を使用している。射出角の計算は上野ほか(2002)(3)の速度構造を使用している。
また、2020年9月からは、陸域の観測点については上野ほか(2002)(3)の速度構造を用いて計算した射出角を使用し、海域の観測点については、海域の速度構造を用いて計算した射出角を使用している(データは射出角表、速度構造ファイルを参照)。
1.6 主な地震のCMT解
主な地震のCMT(Centroid Moment Tensor)解を下半球等積投影図で示す。CMT解の決定方法は、Kawakatsu(1989)(11)によった。 解析手法の詳細は中村ほか(2003)(12)を参照。
それぞれのCMT解の図中に示している情報は以下のとおり。
1行目 | : 震源時(年、月、日、時、分、秒)ただし、日本時間 |
2行目 | : 震央地名 |
Hypo. | : 震源の位置(緯度、経度、深さ) |
Cent. | : セントロイドの位置(緯度、経度、深さ) |
Δt | : 震源時を基準としたセントロイド時刻の差(秒) |
Mo | : 地震モーメント |
Mw | : モーメントマグニチュード |
Mj | : 気象庁マグニチュード |
mrr,mtt,mff,mrt,mrf,mtf | : モーメントテンソル成分 |
STR | : 二つの節面(NP1、NP2)の走向 |
DIP | : 二つの節面(NP1、NP2)の傾斜角 |
SLIP | : 二つの節面(NP1、NP2)のすべり角 |
MOM | : 圧力軸(P-axis)、張力軸(T-axis)、中立軸(N-axis)各々のモーメントテンソル成分 |
AZM | : 圧力軸(P-axis)、張力軸(T-axis)、中立軸(N-axis)各々の方位角 |
PLG | : 圧力軸(P-axis)、張力軸(T-axis)、中立軸(N-axis)各々の傾斜角 |
V.R. | : バリアンスリダクション |
ε | : 非ダブルカップル成分比 |
N | : 使用観測点数 |
COMP | : 使用成分数 |
モーメントテンソル成分(r,t,f)については、rは鉛直上向きが正、tは南向きが正、fは東向きが正となる。
各軸の方位角、傾斜角は下半球投影時の値である。節面の走向、軸の方位角は北から時計回りに測った値で、節面および軸の傾斜角は水平面から下向きに測った値である。 すべり角は断層の下盤に対する上盤の相対的なずれ方向を、走向方向から反時計回りに測った値である。
2. 地殻ひずみ
東海・南関東地域の埋込式体積ひずみ計[観測部地震課(1979)(13),二瓶ほか(1987)(14)]および気象庁多成分ひずみ計[石井ほか(1992)(15)]による観測値を掲載する。 埋込式体積ひずみ計設置観測地点の地点名、地点コード、経度、緯度、標高および地中変換部の埋設深度は、付記2.A 体積ひずみ観測地点一覧、気象庁多成分ひずみ計設置観測地点の地点名、地点コード、経度、緯度、標高、地中変換部の埋設深度および各成分の測定方向は、 付記2.A 線ひずみ観測地点一覧の表とおりである。 また、観測地点の配置を図に示す。
2.1 地殻体積ひずみ時間平均値
ひずみ時間平均値を示す。観測開始時を基準として、+(無表示)は伸び、−は縮みを表す。
* を付加したデータは、観測値を修正していることを示す。以下のいずれかのコメントが付加されている場合がある。
LOSS | 欠測 |
V.O. | バルブオープン |
I | 調整作業 |
P | 停電 |
O | その他 |
2.2 地殻体積ひずみ変化図
-
月ひずみ変化図
毎時値による1か月間のひずみ変化図を掲載する。(ATM.:気圧の毎時値、PREC.:時間降水量) -
長期ひずみ変化図、年ひずみ変化図
日値による過去7年間のひずみ変化図と、1年間のひずみ変化図を掲載する。(ATM.:日平均気圧、PREC.:日降水量)。 - これらデータは気圧変化による影響を除去している[桧皮ほか(1983)(16)]。
- 変化図は上方向に伸び、下方向に縮みを表す。
2.3 地殻線ひずみ時間平均値
気象庁多成分ひずみ計によって観測された各方向成分の線ひずみ時間平均値を示す。
観測開始時を基準として、+(無表示)は伸び、−は縮みを表す。
* を付加したデータは、観測値を修正していることを示す。以下のいずれかのコメントが付加されている場合がある。
LOSS | 欠測 |
Z.S. | ゼロシフト |
I | 調整作業 |
P | 停電 |
O | その他 |
2.4 地殻線ひずみ変化図
-
月ひずみ変化図
毎時値による1か月間の線ひずみ変化図を掲載する。(ATM.:気圧の毎時値、PREC.:時間降水量) -
長期ひずみ変化図、年ひずみ変化図
日値による過去7年間の線ひずみ変化図と、1年間の線ひずみ変化図を掲載する。(ATM.:日平均気圧、PREC.:日降水量)。 - 変化図は上方向に伸び、下方向に縮みを表す。
参考文献
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