南極オゾンホールの状況(2019年)
診断
オゾンホール
オゾンホールは、南極上空のオゾン量が極端に少なくなる現象で、オゾン層に穴の空いたような状態であることからその名が付けられました。
南半球の冬季から春季にあたる8~9月ごろ発生、急速に発達し、11~12月ごろに消滅するという季節変化をしています。1980年代初めからこのような現象が観測されています。
2019年の南極域上空のオゾン層・オゾンホール
衛星観測によると、2019年の南極オゾンホールは8月中旬に現れ、その面積は8月中は拡大し、9月7日に面積が最大(1,100万km2:南極大陸の約0.8倍)となった後、最近10年間の平均値と比べると最も小さい状態で推移しながらその規模を保っていましたが、10月下旬から急速に縮小し、11月10日に消滅しました(図1(a)、図2)。
大規模なオゾンホールが継続してみられるようになった1990年以降で、最大面積は最も小さく、消滅は最も早くなりました。
オゾンホール内で破壊されたオゾンの総量の目安となるオゾン欠損量は、9月上旬以降、最近10年間の累年平均値より小さく推移し、最大欠損量は9月1日に4,700万トンを記録しました(図1(b))。
オゾンホールの深まりの目安となる領域最低オゾン全量は、9月中旬以降、最近10年間の累年平均値より多く、2019年の最低オゾン全量は8月18日の100 m atm-cmとなりました(図1(c))。
8月末に南極上空で成層圏突然昇温が発生し、極渦内部の高度約20km付近で気温の高い状態が続いたため(図3)、オゾン層破壊を促進させる極域成層圏雲が例年より発達せずオゾン層破壊の進行が抑制されました。これに加えて、極渦が弱かったことでオゾンホールの外側から高濃度オゾンが流入したことなどの気象状況を主な要因として、オゾンホールの面積の拡大が抑えられたと考えられます。
また、10月下旬に極渦がさらに弱まったことで、オゾンホールの消滅が早まったと考えられます。
南極昭和基地(図2中の▲印)は、9月中旬までオゾンホールの外側に、9月下旬からオゾンホールの境界付近に位置していたため、昭和基地上空では9月下旬以降、顕著なオゾン破壊が断続的に観測されていました。
その結果、南極昭和基地で行われたオゾンゾンデ観測によると、9月から11月にかけて月平均オゾン分圧は、オゾン破壊が明瞭に現れる以前(細破線)と比べて高度約10~20kmで低くなりましたが、参照値(オゾン量の減少傾向が止まり、少ない状態で安定していた期間の平均値)と比べると高度約10km以上で高く注)なりました(図4)。
注)ここでは、月平均値の参照値からの差が参照値の標準偏差より大きいときを「高い」としている。
(b)オゾン欠損量 |
(c)領域最低オゾ ン全量 |
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図1 2019年のオゾンホールの規模
(a)オゾンホールの面積、(b)オゾン欠損量、(c)領域最低オゾン全量の推移。
赤線:2019年。衛星観測データの欠測で解析できなかった日は描画していない。
黒線:最近10年間(2009~2018年)の平均値。
濃い紫色の領域:最近10年間の最大値と最小値の範囲。
緑破線:(a)南極大陸の面積、(c)オゾンホール発生の目安となる220m atm-cm。
米国航空宇宙局(NASA)提供の衛星観測データ(OMIデータ)をもとに作成。
図2 2019年9月7日のオゾン全量南半球分布図 灰色の部分がオゾンホールを示す。
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図3 南極上空(50hPa)における
赤線:2019年、黒線:最近10年間(2009~2018年)の平均値。
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図4 2019年8~11月の月平均オゾン分圧の高度分布グラフ(南極昭和基地)
赤線:実線は観測値の月平均値。
細実線:月の参照値(1994~2008年平均)、横細実線:参照値の標準偏差。
細破線:オゾンホールが明瞭に現れる以前の月平均値(1968~1980年平均)。
オゾン分圧(横軸)が高いほど、その層のオゾン量が多いことを示す。
【参考】:過去の月平均オゾン分圧の高度分布グラフ