南極オゾンホールの状況(2020年)
診断
オゾンホール
オゾンホールは、南極上空のオゾン量が極端に少なくなる現象で、オゾン層に穴の空いたような状態であることからその名が付けられました。
南半球の冬季から春季にあたる8~9月ごろ発生、急速に発達し、11~12月ごろに消滅するという季節変化をしています。1980年代初めからこのような現象が観測されています。
2020年の南極域上空のオゾン層・オゾンホール
衛星観測によると、2020年の南極オゾンホールは8月中旬に現れたのち8月下旬に急速に拡大し、9月20日に今年最大(面積2,480万km2;南極大陸の約1.8倍)となりました。
南極オゾンホールの面積は、9月上旬以降、最近10年間の平均値より大きく推移し、10月中旬以降も例年ほど縮小せず推移しましたが、12月下旬にかけて急速に縮小し、2008年と並んで観測史上最も遅い12月28日に消滅しました(図1(a)、図2、南極オゾンホールの経年変化を参照)。11月下旬や12月中旬にはその時期の最大値を更新しています。
今年は、南極上空に形成される極渦が大きく、ほぼ円形で安定していたため、極渦内部の高度約20km付近の気温の低い領域が、7月中旬から11月中旬まで、最近10年間の平均値より概ね広く推移し(図3)、オゾン層破壊を促進させる極域成層圏雲が例年より維持され、オゾン層破壊が継続したと考えられます。11月以降も極渦は大きさが小さくなりつつも勢力を維持し、高度約20km付近の気温の低い領域が消滅した後も中緯度の高濃度オゾンの渦内への流入が抑えられ、オゾンホールが消滅せず維持されていたと考えられます(オゾンホールができるしくみを参照)。
オゾンホール内で破壊されたオゾンの総量の目安となるオゾン欠損量は、7月下旬以降、最近10年間の平均値より大きく推移し、11月以降はその最大値と同程度か大きい状態を維持していました(図1(b))。
オゾンホールの深まりの目安となる領域最低オゾン全量は、9月下旬以降、最近10年間の最小値と同程度か小さい値となっています(図1(c))。
南極昭和基地(図2中の▲印)で行われたオゾンゾンデ観測によると、
9月に入り、南極昭和基地上空で顕著なオゾン破壊が観測されるようになりました。
9月以降の南極昭和基地は、南極オゾンホールの内部に位置することが多く、9月の月平均オゾン分圧は、
参照値(オゾン量の減少傾向が止まり、少ない状態で安定していた期間の平均値)並となり、10~12月は高度約15~25kmで参照値より低くなりました(図4)。10月はオゾン欠損量が最近10年間の平均値より大きく、オゾンホール内で破壊されたオゾン量が多くなりました。11月、12月はオゾンホールが12月28日に消滅するまで縮小するも、例年よりも規模を維持していたことでオゾン欠損量もその時期として最近10年間で最も多くなり、月平均オゾン分圧についても参照値より低い状態が継続したと考えられます。
(b)オゾン欠損量 |
(c)領域最低オゾ ン全量 |
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図1 2020年のオゾンホールの規模
(a)オゾンホールの面積、(b)オゾン欠損量、(c)領域最低オゾン全量の推移。
赤線:2020年。衛星観測データの欠測で解析できなかった日は描画していない。
黒線:最近10年間(2010~2019年)の平均値。
濃い紫色の領域:最近10年間の最大値と最小値の範囲。
緑破線:(a)南極大陸の面積、(c)オゾンホール発生の目安となる220m atm-cm。
米国航空宇宙局(NASA)提供の衛星観測データ(OMIおよびOMPSデータ)をもとに作成。
図2 2020年9月20日のオゾン全量南半球分布図 灰色の部分がオゾンホールを示す。
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図3 南極上空(50hPa)における
赤線:2020年、黒線:最近10年間(2010~2019年)の平均値。
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図4 2020年8~12月の月平均オゾン分圧の高度分布グラフ(南極昭和基地)
赤線:実線は観測値の月平均値。
細実線:月の参照値(1994~2008年平均)、横細実線:参照値の標準偏差。
細破線:オゾンホールが明瞭に現れる以前の月平均値(1968~1980年平均)。
オゾン分圧(横軸)が高いほど、その層のオゾン量が多いことを示す。
【参考】:過去の月平均オゾン分圧の高度分布グラフ