降水・降下じんの化学成分

降水・降下じんとは、物質が大気から地上へ向かう沈着の過程であり、物質の放出・輸送とともに物質循環を構成している重要な概念です。近年、大気中の酸性物質が地上に降下沈着し、河川、土壌、植物などの環境に悪影響を及ぼすことが問題となっています。
大気中の主要な酸性物質は、化石燃料の燃焼で大気中に放出される二酸化硫黄や窒素酸化物から光化学反応過程などによって生成される硫酸や硝酸です。これら酸性物質の降下沈着のうち、一般的には酸性雨が有名ですが、気象庁では雨以外の塵などの粒子等の沈着も観測し、その化学成分を分析しています。

気象庁における降水・降下じん化学成分の分析については、「 降水・降下じん化学成分の分析 」および「 降水・降下じん化学成分の品質管理 」もご参照ください。


酸性沈着とその定量化

酸性物質が地上に降下する過程は、雨、雪、霧などに溶け込み降水として降下する場合(湿性沈着・酸性雨)と、微粒子又はガスとして降下・付着する場合(乾性沈着)があり、両方を含めて酸性沈着と呼んでいます。酸性沈着による影響の大きさは、大気から地上に降下した酸の量によって決まります。雨の場合、酸性がそれほど強くない雨でも降る量が多ければ、酸性の強い雨が少し降るよりも地上へ沈着した酸の量が多くなることがあります。実際の酸性沈着における影響は、酸の強度の変化が生物に影響を与える場合と、アンモニアのように沈着物質そのものが生物に影響を与える場合とがあります。
一般に降水の酸性度は水素イオン濃度の対数であるpH(ピーエッチまたはペーハ)により、pH= −log[H+ ]で表されます。ここで[H+ ]は水素イオンの濃度を表し、pHが7より小さいと酸性、大きいと塩基性(アルカリ性)となります。降水中では、他のイオン濃度との平衡状態により水素イオン濃度が定まります。

東アジア域での動向

二酸化硫黄や窒素酸化物が大気中へ放出されるとやがて酸性沈着を引き起こしますが、大気中のエーロゾルの中には大気中の酸を緩和する物質もあり、実際の大気中の挙動には未解明な点が多くありました。近年、大気質(air quality)モデルの発達に伴い、酸性沈着の影響をモデルの数値計算で評価する研究が進みつつあります。これによると、アジア大陸における汚染物質放出の急速な増加によって、東アジア域全体において降水の酸性化が進んでいます。Terada et al. (2002)は、モデルを使って1985年から1995年にかけて、中国北東部を中心とした地域で月平均値で0.3~0.8の、日本と韓国において月平均値で0.1~0.2のpHの減少を推定しています。一方、黄砂などの土壌エーロゾルはカルシウムなど酸を中和する物質を含んでおり、これが東アジアの降水中の酸を緩和してpHを上げていることがわかってきました(Terada et al. , 2002; Wang et al. , 2002)。例えば、Wang et al. (2002)は、黄砂などの土壌エーロゾルがあった場合、中国北部でpHが0.8~2.5、日本でも0.1~0.4上昇すると推定しています。

日本での酸性雨の状況

全国の主な都道府県で行われている酸性雨の観測結果について、2014年3月に環境省から発表された越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング報告書(環境省, 2014)にまとめられています。 これによると、平成20年度から24年度における降水pH の地点別年加重平均値(平成20年度末で休止の地点を含む)の範囲は4.48~5.37であった。全地点の5年間のpH 加重平均値 (平成20年度末で休止の地点を除く)は4.72 であり、降水pHは引き続き酸性化した状態であることが認められたと報告しています。


参考文献

Terada, H., H. Ueda, and Z. Wang, 2002: Trend of acid rain and neutralization by yellow sand in east Asia - a numerical study. Atmos. Env., 36, 503-509.

Wang, Z., H. Akimoto, and I. Uno, 2002: Neutralization of soil aerosol and its impact on the distribution of acid rain over east Asia: Observations and model results. J. Geophys. Res., 107(D19), 4389, doi:10.1029/2001JD001040.

環境省, 2014: 越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング報告書(平成20~24年度)、平成26年3月, 238pp.


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