海洋中の二酸化炭素蓄積量

令和6年3月5日 気象庁発表
(次回発表予定 令和7年3月5日)

診断(2023年)

  • 1990年代以降、北西太平洋亜熱帯域の東経137度、東経165度及び北緯24度において海面から深さ約1000mまでの海洋中に蓄積した二酸化炭素量は、約4~11トン炭素/km2/年でした。
  • 北西太平洋亜熱帯域における二酸化炭素蓄積量は、北緯20度から北緯30度付近で多くなっています。
緯度ごとの二酸化炭素蓄積量

図1 東経137度、東経165度及び北緯24度における緯度/経度ごとの1年あたりの二酸化炭素蓄積量

東経137度、東経165度及び北緯24度における緯度/経度ごとの海面からポテンシャル密度27.2σθ(深さ約1000m)までの1年あたりの二酸化炭素蓄積量。エラーバーは95%信頼区間を示します。
解析手法の詳細は、海水中の二酸化炭素蓄積量の見積もり方法をご覧ください。

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解説

北西太平洋亜熱帯域の観測線(東経137度、東経165度、北緯24度)における海面からポテンシャル密度27.2σθ(深さ約1000m)付近までの全炭酸濃度(DIC)は、1990年代以降増加傾向にあり(図2)、この深さまでの二酸化炭素蓄積量は、東経137度の北緯10度から30度の海域で1年あたり5~11トン炭素/km2(面積1平方キロメートルの海域あたりに蓄積した炭素の重量に換算)、東経165度の北緯10度から35度の海域で1年あたり4~11トン炭素/km2、北緯24度の東経130度から165度の海域で1年あたり7~10トン炭素/km2でした。(解析手法の詳細は、海水中の二酸化炭素蓄積量の見積もり方法をご覧ください。)

北西太平洋亜熱帯域の緯度/経度帯ごとの二酸化炭素蓄積量を見ると、北緯20度~30度付近で二酸化炭素蓄積量が多いことがわかります(図3)。これらの海域では、深さ100~400m付近にみられる北太平洋亜熱帯モード水や深さ300~800m付近にみられる北太平洋中層水と呼ばれる水塊が分布していることにより、その他の海域と比べてより深くまで二酸化炭素が蓄積することで、単位面積あたりの二酸化炭素蓄積量が多くなっていると考えられます(海洋中の二酸化炭素蓄積量)。


これまで、1990年代から行われている高精度・高密度観測の結果から、二酸化炭素蓄積量が見積もられています(Khatiwala et al., 2013、Kouketsu et al., 2013、Gruber et al., 2019)。これらの報告では、東経137度や東経165度周辺の海域での二酸化炭素蓄積量は1年あたり約3~10トン炭素/km2で、本解析の結果とおおむね一致しています。また、北太平洋亜熱帯域は二酸化炭素の蓄積速度が早い海域であることも指摘されています(北太平洋亜熱帯循環域の二酸化炭素蓄積量)。

産業革命(1750年ごろ)以降2022年までに海洋全体で約1900億トン炭素の二酸化炭素が蓄積されたと見積もられており(Friedlingstein et al., 2023)、北西太平洋においては、産業革命以降1990年代までに約300トン炭素/km2が蓄積していると考えられます(Sabine et al., 2002)。気象庁の観測定線における2つの高精度・高密度観測の結果から見積もられた海水中の二酸化炭素蓄積量(eMLR法)は、東経137度で1994年から2010年までの16年間で約100トン炭素/km2、東経165度で1992年から2011年までの19年間で約130トン炭素/km2でした。

DIC:塩分と溶存酸素を用いて実際に観測で得られた全炭酸濃度から淡水の出入りによる海水中の物質の濃度変化や生物活動による影響を取り除いた値

参考文献

  • Khatiwala, S., T. Tanhua, S. Mikaloff Fletcher, M. Gerber, S. C. Doney, H. D. Graven, N. Gruber, G. A. McKinley, A. Murata, A. F. Ríos, C. L. Sabine, and J. L. Sarmiento, 2013: Global ocean storage of anthropogenic carbon. Biogeosciences, 10, doi:10.5194/bgd-9-8931-2012.
  • Kouketsu, S., A. Murata and T. Doi, 2013: Decadal changes in dissolved inorganic carbon in the Pacific Ocean. Global Biogeochem, Cycles, 27, doi:10.1029/2012GB00413.
  • Gruber, N., D. Clement, B. R. Carter, R. A. Feely, S. van Heuven, M. Hoppema, M. Ishii, R. M. Key, A. Kozyr, S. K. Lauvset, C. L. Monaco, J. T. Mathis, A. Murata, A. Olsen, F. F. Perez, C. L. Sabine, T. Tanhua and R. Wanninkhof, 2019: The oceanic sink for anthropogenic CO2 from 1994 to 2007, Science, 363(6432), 1193-1199, doi:10.1126/science.aau5153.
  • Friedlingstein, P., O'Sullivan, M., Jones, M. W., Andrew, R. M., Bakker, D. C. E., Hauck, J., et al.: Global Carbon Budget 2023, Earth Syst. Sci. Data, 15, 5301-5369, https://doi.org/10.5194/essd-15-5301-2023, 2023.
  • Sabine, C. L., R. A. Feely, R. M. Key, J. L. Bullister, F. J. Millero, K. Lee, T.-H. Peng, B. Tilbrook, T. Ono, and C. S. Wong, 2002: Distribution of anthropogenic CO2 in the Pacific Ocean, Global Biogeochem. Cycles, 16(4), 1083, doi:10.1029/2001GB001639.
東経137度線のDIC*の時系列 東経165度線のDIC*の時系列 北緯24度線のDIC*の時系列

図2 等密度面上の全炭酸濃度(DIC)の長期変化傾向(東経137度、東経165度、北緯24度)

DICは、実際に観測で得られた全炭酸濃度から淡水の出入りによる海水中の物質の濃度変化や生物活動による影響を取り除いた値になります。詳しくは海水中の二酸化炭素蓄積量の見積もり方法をご覧ください。
単位の「µmol/kg」は海水1kg中に含まれる二酸化炭素の物質量です。
1µmolの二酸化炭素量を炭素の重量に換算すると約12µgに相当します。
µ(マイクロ)は百万分の1です。

東経137度線の二酸化炭素蓄積速度 東経165度線の二酸化炭素蓄積速度 北緯24度線の二酸化炭素蓄積速度

図3 海面からポテンシャル密度27.2σθ(深さ約1000m)までの1年あたりの二酸化炭素蓄積量(東経137度、東経165度、北緯24度)

図中の赤色(青色)で塗りつぶされた部分は、1年間で蓄積(放出)される単位面積当たりの二酸化炭素量(mol/m2/年)を表します。
1µmolの二酸化炭素量を炭素の重量に換算すると約12µgに相当します。
µ(マイクロ)は百万分の1です。

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