農研機構との共同研究(農業分野):
気候予測情報を活用した農業技術情報の高度化に関する研究

農業分野における気候予測情報を用いた気候リスク管理の様々な成功事例の創出を目的として、気象庁は国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と平成23年度から平成27年度にかけて共同研究を行いました。本研究により、水稲の冷害・高温障害の軽減に向けた2週間先の農作物警戒情報の有用性や赤かび病対策で重要な小麦の開花期予測の改善などの成果が示されました。

ここでは、その概要について説明します。詳細については、共同研究報告書をご覧ください。

共同研究報告書の概要

共同研究では、以下の農研機構の農業研究センターが参加しました。

  • 北海道農業研究センター
  • 東北農業研究センター
  • 中央農業総合研究センター
  • 近畿中国四国農業研究センター
  • 九州沖縄農業研究センター
※名称は2016年3月現在

ここでは、各農業研究センターとの取り組みの概要を紹介します。

北海道農業研究センター

じゃがいものイラスト
雪だるまのイラスト

収穫もれしたジャガイモ(野良イモ)が越冬して発芽し雑草化すると、ジャガイモの作付け後に育てる作物の生育を阻害し、また、混種や各種病害虫の温床にもなるため、除草が不可欠となり、大規模農業では深刻な労働負担となっています。 野良イモは土壌凍結に伴い凍死しますが、積雪があると、その雪が断熱材の役割を果たし、凍死せず越冬するイモが出てきます。 一方、除雪をすることで土壌を凍結させ、野良イモを凍死させることが出来ますが、土壌凍結深が深すぎると春の農作業に遅れが生じてしまいます。このことから、計画的な除雪管理に必要となる土壌凍結深の予測の調査を、気象予測モデル等を用いて行いました。

その結果、現在の気象予測モデルを用いた土壌凍結深予測では、対象地域によっては大きな誤差が生じてしまうものの、解像度を高くすることで予測精度が向上する見込みのあることがわかりました。今後、高解像度の気象予測モデルを組み込むことで、一定の改善が期待されます。

東北農業研究センター

稲のイラスト

東北農業研究センターは、岩手県立大学と共同で「Google Mapによる気象予測データを利用した農作物警戒情報」を運営しており、1週間先までの1kmスケールの農作物警戒情報を提供しています。 今回、2週間先の予測についても、1kmスケールの農作物警戒情報を試作し、提供しました。 利用者アンケートから、2週間先の予測情報の継続が望まれる声が聞かれるなど、その有効性が確認されました。

中央農業総合研究センター

農業での栽培管理等には自らの圃場における気象データが重要なため、きめ細かく面的なメッシュ情報が必要とされます。 そこで、1kmスケールの気象予測及び観測部分のメッシュ値を作成しました。 予測については約10日先までの有効性が確認されました。その先の予測の利用については、積算気温や確率的な利用を検討する必要があることが示唆されています。

近畿中国四国農業研究センター

小麦のイラスト

高温・多湿な日本では、赤かび病は小麦の最重要病害です。赤かび病対策では、開花期に防除を実施しますが、近年主流となりつつある無人ヘリ防除では開花期の2~3週間前に防除日を決めるため、開花期の予測が重要となります。通常、開花期の予測には気温の平年値を用いていますが、気温の予測値を用いたところ、調査した20年(1991~2010年)のうち、13年が改善、3年が改悪となり、予測結果が最大で数日改善できることが明らかとなりました。

九州沖縄農業研究センター

太陽のイラスト

近年、西日本を中心とした多くの地域で、登熟期の高温による玄米の品質低下が問題となっています。 この品質低下を軽減する方法のひとつとして、出穂前の追肥量を通常より増やすことで出穂後の高温による品質低下を軽減できることがわかってきました。 しかし、葉色が濃い場合にさらに追肥量を増やすと食味が落ちたり、高温とならずに日照不足になった場合には、追肥量の増加は品質低下をもたらすことも明らかになっています。 そこで、出穂前の追肥時期に出穂後の気象を予測し、かつ葉色に応じて追肥量を決定する「気象対応型追肥法」について、調査を行いました。

まず、2014年から2015年にかけて、高温を想定して追肥を実施し、実際に高温になった場合には品質向上が認められました。一方、高温にならなかった場合にも品質の低下は限定的であり、マイナスリスクは小さいことがわかりました。

稲のイラスト

この判定に必要な、3~4週間先の気温予測の精度について調べたところ、予測精度は高くはないものの、高温予測を外した場合のマイナスリスクは小さいため、「気象対応型追肥法」の利用は可能と考えられます。


対応の実例

上記研究によって、これまでに得られた成果のうち、Webなどで実際に情報を提供している、以下の2点について詳しく解説します。

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