過去の予測値を用いた検証:水稲の刈り取り適期の予測


水稲の刈り取り適期予測は、刈り遅れによる品質低下の防止や乾燥調製施設の稼動準備等への利用のため、多くの農業機関で実施しています。 従来、刈り取り適期の予測は平年値を用いて行われてきましたが、山形県農業総合研究センターでは、平年値の代わりに気象庁の1か月先までの気温予測値を利用し、 どの程度刈り取り適期の予測精度が向上するのか検証を行いました。

気象の予測値を活用するにあたっては、過去の予測値を用いて事前に有効性を確認しておくことで、より適切に気候リスク管理に活かすことができると考えられます。

このページでは、水稲の刈り取り適期の予測を例に、気象の予測値を用いることの有効性を、過去事例のシミュレーションで確認する方法について紹介します。

実ったお米

水稲の刈り取りに適した時期と気温の関係

水稲栽培では、出穂後の日平均気温の合計(積算気温)が一定の基準に達する時期が刈り取り適期の目安となります。 表1は、今回用いた水稲の品種と刈り取り適期となる出穂期からの積算気温の関係です。

品種 出穂後の積算気温

はえぬき

950~1200℃

ササニシキ

950~1150℃

  ※ ただし、出穂後30日間の平均気温が25℃を超える場合は積算気温が
      50℃早まるものとする(例:はえぬきの場合 900~1150℃)。

表1 刈り取り適期に対応した出穂後の積算気温

使用したデータ

過去事例のシミュレーションを行い予測の有効性を確認するには、まずは検証に使用するデータをそろえる必要があります。今回、使用したデータは以下になります。

  • 農業データ
    山形県農業総合研究センター・水田農業試験場(鶴岡市)の水稲作況圃出穂期データ
    (「ササニシキ」:1985~1991年、「はえぬき」:1992~2012年)

  • 気象データ
    本事例では、山形県農業総合研究センター・水田農業試験場(鶴岡市)の気象観測データ(日平均気温)を使用しています。(1985~2012年、平年値)

  • 過去の予測データ(気温)
    本調査では、東北日本海側ガイダンスデータ(確率予測資料)を使用しています。(1985~2012年)

過去の事例におけるシミュレーションと予測による有効性の確認

必要なデータがそろったら、過去の事例におけるシミュレーションを行い、どの程度予測が有効であったかを検証します。

まず、実際の観測値により、過去の刈り取り適期の始まりの日を計算します(これを実際の刈り取り適期とします)。 次に、1985~2012年の各年において、8月10日ごろに8月11日以降のガイダンスデータを利用して出穂期からの積算気温を計算して、刈り取り適期を予測するという設定でシミュレーションを行います。
予測値は、①2週間先までと②4週間先までガイダンスを用いた場合を計算し、予測値の期間が足りない部分には平年値を用いています。 また、従来通り、③全て平年値を用いた場合の予測も行います。 これらの予測値と、先ほど求めた実際の刈り取り適期を比較します。

※ ガイダンスデータはアンサンブル平均値(多数の予測シナリオを平均した値)を用い、気温の予測値は平年偏差(平年値からの差)のガイダンスデータを検証地点の平年値に加える形で作成しています。


これらの予測(①~③)に利用したデータとその期間の関係を示すと以下の通りとなります。

予測に利用したデータ

刈り取り時期検証

図1 刈り取り適期予測結果グラフ
(山形県農業総合研究センター・水田農業試験場、1985~2012年)

図1は、縦軸を実際の刈り始めの日(推定日)、横軸を予測による刈り始めの日として、各年の結果をプロットしたものです。 対角線(青点線)に上にある場合、予測日は実際と一致しており、対角線の上側(下側)では予測日が早すぎ(遅すぎ)ということになります。
ガイダンスデータ(2W:2週目まで、4W:4週目まで)を用いた予測では、平年値による予測(緑三角)と比較して、対角線からそれほど外れておらず、 より適切な予測となっていることが示されています。

刈り取り時期検証

図2 刈り取り適期予測結果グラフ
(山形県農業総合研究センター・水田農業試験場、1985~2010年、2012年)

図2は、図1と同じデータを、横軸を実際の刈り始めの日(推定日)との誤差、縦軸をそれぞれの誤差となった年次数として、棒グラフで表したものです。 予測の精度は、0付近が最も良く、グラフの左(右)にいくに従い、予測日が早すぎ(遅すぎ)ということを表しています。
平年値による予測(青斜線)では、実際と比較して4日以上遅くなった事例もありますが、ガイダンスを用いた予測では、1事例を除き3日程度となっています。 ガイダンスデータ(2W:2週目まで、4W:4週目まで)を用いた予測では、平年値による予測と比べて誤差が0に近い事例が多く、予測の精度が高いことがうかがえます。 また、2週目までと4週目までの予測を用いた場合の比較では、それほど顕著な精度の違いは見られませんが、

  • 誤差が1日以内の事例は、2週目まで予測を用いたものは15例に対し、4週目まで予測を用いたものは17例。
  • 2週目までの予測を用いたものは6日の誤差の事例があるが、4週目までの予測を用いたものは最大4日。

となっており、この調査では4週目までの予測を用いた場合の方が、若干良くなっています。

このように、従来の気温平年値を用いた予測に比べて、気温予測値を用いた方が刈り取り適期の予測精度が大きく改善することが確認されたことから、 2014年より山形県の米づくり情報で本方法を用いた刈り取り適期を発表しています

※ (参考文献)横山克至 2014: 気象確率予測資料を用いた水稲刈取適期の予測. 東北の農業気象, 58, 1-6.

同様の調査は、積算気温が影響する小麦など他の作物の刈り取り適期、病害虫防除適期、果樹開花日等の様々な予測にも応用できる可能性があります。

過去の予測値を使って検証してみませんか?

以上で紹介した水稲の刈り取り適期の予測のように、過去の予測値を用いた検証(過去事例のシミュレーション)を行うことで、 事前に予測の特徴、精度、有効性などを確認した上で、予測を利用することができます。
また、予測が有用であることが分かっていても、たくさんの事例において検証することにより、予測を使うことにより得られるメリットを、 より定量的に把握できることもあるでしょう。
より充実した気候リスク管理に向けて、ぜひ、過去の予測値をご活用ください。過去の予測値(ガイダンスデータ)は以下のページから取得できます。

はれるん


*このページで紹介した資料・内容は、山形県農業総合研究センターにご提供いただきました。
   ありがとうございました。

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