気候リスク管理技術に関する調査(スーパーマーケット及びコンビニエンスストア分野):販売促進策に2週間先までの気温予測を活用する

買物風景の挿絵

気象庁では、「気候リスク管理」の有効性を示す実例(成功事例)を示すため、食品を中心とした多くの商品を扱う小売店における販売データを用いて、平均気温や降水量など気候がスーパーマーケット及びコンビニエンスストア分野へ与える影響を地域ごとに調査しました。
この調査の結果、多くの品目の販売数と気温・降水の間には関係があること、また販売数が急増する気温といった気象条件は客観的に推定可能であり、商品の中にはこうした気象条件が地域ごとに異なる場合があることがわかりました。
本調査の成果を応用することで、食品を扱う小売店をはじめとした様々な産業において、2週間先の気温予測など気候情報を活用した効率的な在庫管理やお店のレイアウトの検討などが可能となると期待されます。
詳細については、調査報告書をご覧ください。

このページでは、スーパーマーケット及びコンビニエンスストア分野における気候リスクへの対応策として、気温の影響を受ける商品の販売数が多くなる温度を求めた上で2週間先までの気温予測を販売促進に活かす方法について具体的に紹介します。


気候リスク管理の方法

アイスクリームの挿絵

スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の小売店で働くみなさんは、「気温が20℃を超えると○○が売れる」ですとか、「雨が降ると売り上げが落ちる」といったような、販売活動への気象の影響を強く実感されているのではないでしょうか。 みなさんがお持ちの大量の販売データを気象データを使って客観的に分析することで、どういう気象の時にどの程度の影響を受けているのかを踏まえた販売活動が可能になります。

気候の影響を軽減または活用するためには、①気候リスクを認識し、②それを定量的に評価し、③気候情報を用いて対応することが重要で、一連の3つのプロセスを気候リスク管理といいます。

ここでは、気候の影響を受けやすいと広く認識されているファミリーアイスの販売促進を例に、販売数が急増する指標「基準温度」といった気候リスクの高まる気象条件を客観的に評価した上で、2週間先までの気温予測を用いてこの影響を活かす方法を紹介します。

気候リスクの評価

仙台のスーパーマーケットにおける7日間平均のファミリーアイスの販売数と平均気温の関係を調査し、気候リスクを評価します。 散布図の作成方法など評価方法の具体例については、気候リスクの評価ページをご覧ください。

はれるん

まずは日別の過去の気象データとお手持ちの販売データを用意しましょう。
気象データは過去の気象データ・ダウンロードページから取得可能です。

①販売数と平均気温の関係

図1 7日間平均の平均気温とファミリーアイスの販売数の関係(仙台のスーパーマーケット)
赤線は販売数が急増する「基準温度」25℃を示す。橙矢印は、昇温期(2~7月)における販売傾向を示す。

平均気温と販売数の散布図(図1)をみると、ファミリーアイスの販売数は気温が高いほど増え、昇温期(2~7月)には平均気温が15℃を超える頃から販売数が伸びています。 さらに、平均気温が25℃を超えると販売数が急増するだけでなく、昇温期(2~7月)・降温期(8~1月)に限らず販売数がかなり多くなっています。

②基準温度の推定

販売数が急増する「基準温度」をあらかじめ把握しておくことで、その気温以上・以下となる予測確率に応じて販売促進策の実施などの対応を早めにとることが可能となります。

基準温度は図1の散布図から推定することができます。 図1から基準温度を定量的に推定すると、仙台のスーパーマーケットにおけるファミリーアイスの昇温期(2~7月)における基準温度は25℃と推定されます。

あわせて図2の時系列図を確認すると、例えば2012年(赤色線グラフ)の7月下旬など、各年とも平均気温が25℃を超える頃に販売数が急増したことが分かります。 このことからも、基準温度として推定される平均気温25℃は、販売数が特に多くなる気温を推定していると考えられます。

図2 仙台のスーパーマーケットにおける7日間平均のファミリーアイスの販売数と平均気温の時系列図(7月1日~8月15日)
細線は平均気温、太線は販売数を示し、各色が年に対応している。また、赤色点線は基準温度25℃を示す。
例えば2012年(赤色線)の7月下旬や2013年(紫色線)の7・8月上旬などの平均気温が25℃を超える頃に、販売数が急増している(矢印)。


多くの品目を扱う小売店においても販売数が急増する温度を定量的・効率的に推定することができます。
その具体的な方法については報告書[PDF形式:約1.4MB]第4章に掲載しています。


気候リスクへの対応

気候リスクの評価を行った結果、仙台においてファミリーアイスの販売数が特に多くなる温度は平均気温25℃であると推定しました。 平均気温が25℃を超える時期に積極的な商品供給などを行うことで、効果的に販促を行うことができると考えられます。

そこで、平均気温25℃に注目し、2012年6月から7月にかけての事例を用いて、気候リスクへどのように対応できたかについて確率予測資料を用いてシミュレーションをしてみましょう。

はれるん

気温予測データを基に、2週間先の販売数を見積もってみましょう。
2週間先までの気温予測データは確率予測資料ページで確認できます。

まず、2012年7月13日当時の2週間先までの気温の確率予測資料(図3)をみると、 2週目(7月21日~7月27日)に平均気温25℃を超過する確率は32%とそれほど高くなく、 この時点で積極的な商品供給といった事前の対応を始めるのは難しかったと思われます。

図3 2012年7月13日発表の仙台における2週間先までの確率時系列図
2週間先までの期間について、注目する7日間平均気温25℃を超過する確率の推移を示す。 縦軸は7日間平均の期間を、横軸は注目する7日間平均気温25℃を超過する確率を示す。
2週間先にかけて、7日間平均気温が25℃を超過する確率は20%程度で推移しており、 7月21日~7月27日の7日間平均気温が25℃を超過する確率は32%と、それほど高くない。


一方、その後の2012年7月17日当時の2週間先までの気温の確率予測資料(図4)では、 今後2週間先にかけて平均気温25℃を超過する確率は高まっていき、2週目(7月25日~7月31日)の7日間平均気温が25℃を超過する確率は52%と高くなりました。
この予測をもとに、2週目にかけてファミリーアイスの販売数が急増する可能性が高いと判断し、 店舗においては発注量の調整や販売促進策の実施等の対応を事前に適切に行うことが可能となります。
実際には、図2の赤矢印で示すように、2012年(赤色線)の7月25日~31日の7日間平均気温は27.1℃となり、販売数は増加しました。

図4 2012年7月17日発表の仙台における2週間先までの確率時系列図
図の見方は図3と同様。
2週間先にかけて、7日間平均気温が25℃を超過する確率が高まっており、 7月25日~7月31日の7日間平均気温が25℃を超過する確率は52%である。


ここで、平均気温25℃を超過する確率がどの程度高くなった時に実際に対応を行った方がよいのかは場合によって異なることに注意が必要です。 対応に要するコストや、対応を行った場合の効果などを考慮し、コストロスモデルなどを用いて費用対効果を事前に検討しておくことが重要です。

気候リスクへの対応方法については、気候リスクへの対応ページも参考になりますので、ご覧ください。


調査結果の活用

スーパーマーケット及びコンビニエンスストアで扱っている品目について気候リスクの評価を行った結果、気温の変化と販売数の増減に関係がある品目が多数あることが分かりました。
気温と関係のある品目については、週間天気予報に加えて、2週間先までの平均気温の予測を活用することで、 今後の気温の変化によって生じることが予測される需要の変化に対して、早い段階から必要な対策を計画・実施することができます。

本調査結果を参考に気温との関係を定量的に調査することで、スーパーマーケット及びコンビニエンスストア分野だけでなく、その他の分野においても2週間先までの気温予測を活用した様々な対策を実施することができます。

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