南極オゾンホールの状況(2023年)
診断
オゾンホール
オゾンホールは、南極上空のオゾン量が極端に少なくなる現象で、オゾン層に穴の空いたような状態であることからその名が付けられました。
南半球の冬季から春季にあたる8~9月ごろ発生、急速に発達し、11~12月ごろに消滅するという季節変化をしています。1980年代初めからこのような現象が観測されています。
2023年の南極域上空のオゾン層・オゾンホール
衛星観測によると、2023年の南極オゾンホールは8月上旬に現れたのち8月下旬に面積が急速に拡大し、9月中旬にかけてその時期の最近10年間の最大値と同程度の面積で推移し(図1(a))、9月21日に年最大(2,590万km2 、南極大陸の約1.9倍)となりました(図2)。2023年は南極上空に形成される極渦が9月中旬まで安定していたため、南極上空の高度20km付近の気温の低い領域が9月は最近10年間の平均値より広く推移し(図3)、オゾン層破壊を促進させる極域成層圏雲が例年より維持されやすかったことが要因と考えられます(オゾンホールができるしくみを参照)。その後、南極オゾンホールの面積は9月下旬に縮小し、11月上旬にかけて最近10年間の平均値と同程度となりましたが、11月中旬から下旬は面積が縮小せず1,400万km2前後で推移しました。11月中旬以降、極渦は小さくなりつつも例年より縮小ペースが遅く、低緯度側からの高濃度オゾンの渦内への流入が抑えられ、オゾンホールが維持されたと考えられます。12月に入り、南極オゾンホールの面積は急速に縮小し、12月20日に消滅しました。
オゾンホール内で破壊されたオゾンの総量の目安となるオゾン欠損量は、7月下旬から9月中旬にかけて、その時期の最近10年間の最大値と同程度で推移しましたが、9月下旬に減少し、11月上旬にかけて最近10年間の平均値と同程度となりました。11月中旬以降は最近10年間の平均値より大きく推移しましたが、12月下旬には平均値と同程度まで減少しました(図1(b))。
また、オゾンホールの深まりの目安となる領域最低オゾン全量は、7月から12月にかけて最近10年間の平均値より概ね小さい値で推移しました(図1(c))。
南極昭和基地(図2中の▲印)で行われたオゾンゾンデ観測によると、9月に入り、南極昭和基地上空で顕著なオゾン破壊がみられるようになりました。9月の南極オゾンホールは、南極昭和基地の上空から外れることがあり、9月の月平均オゾン分圧は、高度15kmから20kmは参照値(オゾン量の減少傾向が止まり、少ない状態で安定していた期間の平均値)より高くなりましたが、10月や12月はいずれの高度も概ね参照値並となりました(図4)。11月は高度20km以上のオゾン分圧が参照値より低くなりました。これには、11月は、南極オゾンホールが南極昭和基地の上空にかかることが多かったことが影響したと考えられ、オゾン欠損量が最近10年間の平均値より概ね大きく推移したこと(図1(b))と対応しています。
(b)オゾン欠損量 |
(c)領域最低オゾン全量 |
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図1 2023年のオゾンホールの規模
(a)オゾンホールの面積、(b)オゾン欠損量、(c)領域最低オゾン全量の推移。
赤線:2023年。衛星観測データの欠測等で解析できなかった日は描画していない。
黒線:最近10年間(2013~2022年)の平均値。
濃い紫色の領域:最近10年間の最大値と最小値の範囲。
緑破線:(a)南極大陸の面積、(c)オゾンホール発生の目安となる220m atm-cm。
米国航空宇宙局(NASA)提供の衛星観測データ(OMIおよびOMPSデータ)をもとに作成。
図2 2023年9月21日のオゾン全量南半球分布図
灰色の部分がオゾンホールを示す。
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図3 南極上空50hPa面(高度20km付近)における
赤線:2023年、黒線:最近10年間(2013~2022年)の平均値。
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図4 2023年8~12月の月平均オゾン分圧の高度分布グラフ(南極昭和基地)
赤線:実線は観測値の月平均値、点線は観測回数が1回のみであることを示している。
細実線:月の参照値(1994~2008年平均)、横細実線:参照値の標準偏差。
細破線:オゾンホールが明瞭に現れる以前の月平均値(1968~1980年平均)。
オゾン分圧(横軸)が高いほど、その層のオゾン量が多いことを示す。
【参考】:過去の月平均オゾン分圧の高度分布グラフ