二酸化炭素観測に関する較正
気象庁では二酸化炭素濃度較正装置(図1)を整備して、3段階に分けた二酸化炭素標準ガスの管理を行っています(図2)。
標準ガス
一次標準ガス
気象庁の二酸化炭素濃度観測の基準となる1段目の一次標準ガスは14本のボンベで構成されており、濃度範囲は約200~480ppmです。この濃度範囲は、海洋から大気までの幅広い観測に対応しています。これらの一次標準ガスは、時間経過とともにみられるボンベ内でのガス濃度の変化(以下、これを濃度ドリフトと表します)の少ないアルミニウム製の48リットルボンベに空気ベースで二酸化炭素を充填したものであり、使用開始前に米国海洋大気庁地球システム調査研究所(NOAA/ESRL)において世界気象機関(WMO)の標準ガス(Zhao and Tans, 2006)を用いて、正確に濃度が決定されます。この濃度基準はWMO X2007スケールと呼ばれ、これにより国際的にトレーサビリティが確保されています。
二次標準ガス
2段目の標準ガスとして、一次標準ガスとほぼ同じ濃度範囲の14本の二次標準ガスを使用しています。一次標準ガスは気象庁の観測の一元性を確保する上で重要であり、なるべく長期間にわたって同じガスを使用することが望ましく、二次標準ガスを導入することにより、一次標準ガスの使用量を抑えて長期間の使用を可能にしています。二次標準ガスもアルミニウム製の48リットルボンベに充填されており、二酸化炭素濃度較正装置により一次標準ガスを用いて濃度が決定されています。
観測用標準ガス
各観測所や観測船で使用される3段目の観測用標準ガスは一組5本のボンベで構成されており、それぞれの目的とする二酸化炭素濃度に応じた濃度幅で作成されます。これらの標準ガスは、二酸化炭素濃度較正装置により二次標準ガスを用いて濃度が決定されたのち、各観測所または観測船へ送られています。濃度ドリフトを確認するため、観測での使用が終了したのち気象庁へ戻されて、再度二次標準ガスを用いて濃度の確認が行われます(
「大気二酸化炭素の観測」
参照)。
標準ガス濃度の監視
濃度ドリフトを監視するために、必ず上位の段階の標準ガスと定期的に比較する必要があります。しかし、頻繁に2つの段階の標準ガスを同じ場所に用意することは効率が悪いため、同じ段階の標準ガス同士で濃度監視を行うことがあります。これを自己較正と呼んでおり、単独のボンベの典型的な濃度ドリフトに対する監視が可能です。気象庁では、一次標準ガスと二次標準ガスについて、この自己較正を上位の標準ガスとの比較の合間に頻繁に行うことにより、標準ガスの精度管理を行っています。2004年と2011年には、過去の較正データの整理・再検討を行い、標準ガス交換時の濃度の差異などを補正して再計算することにより、観測開始以来の一次標準ガスの濃度の一貫した補正を行っています(気象庁, 2003; 松枝ほか, 2004; Tsutsumi et al.
, 2005)。現在は観測開始から数えて第7世代目となる、2010年10月にNOAA/ESRLで較正した一次標準ガスを使用しています。
較正装置
二酸化炭素濃度較正装置は、観測装置とほぼ同じように非分散型赤外線分析計(NDIR: ㈱堀場製作所製VIA510R)を中心に構成されていますが、実際の大気を分析しないので大掛かりな除湿装置を装備していません(過塩素酸マグネシウムによる除湿のみ)。この較正装置の安定性は、15分平均の標準偏差で0.02ppm以下、再現性は、上記の安定性の試験を2度行った際の差が±0.02ppm以下を保てるように維持されています。
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関連情報
- 二酸化炭素の診断情報とデータ集
- 大気二酸化炭素の観測
- 温室効果ガス等の観測に関わる較正
- 他の温室効果ガス等の較正( メタン 一酸化二窒素 一酸化炭素 地上オゾン )
参考文献
気象庁, 2003: 気象庁における二酸化炭素観測の基準となる標準ガスの維持 -観測データの時間的な連続性の確保について-, 測候時報, 70, 6, 217-236.
松枝秀和, 須田一人, 西岡佐喜子, 平野礼朗, 澤庸介, 坪井一寛, 堤 之智, 神谷ひとみ, 根本和宏, 長井秀樹, 吉田雅司, 岩野園城, 山本 治, 森下秀昭, 鎌田匡俊, 和田 晃, 2004: 気象庁及び気象研究所における二酸化炭素の長期観測に使用された標準ガスのスケールとその安定性の再評価に関する調査・研究, 気象研究所技術報告, 45, 64pp.
Tsutsumi, Y., H. Matsueda, S. Nishioka, 2005: Consistency of the CO2 primary standards in JMA, 12th WMO/IAEA meeting of experts on carbon dioxide concentration and related tracers measurement techniques (Toronto, Canada, 15-18 September 2003), Global Atmosphere Watch Report No. 161, WMO/TD-No. 1275.
Zhao, C. L., and P. P. Tans, 2006: Estimating uncertainty of the WMO mole fraction scale for carbon dioxide in air. J. Geophys. Res., 111, D08S09, doi:10.1029/2005JD006003.