地上オゾン観測に関する較正
気象庁では地上オゾン較正装置(図1)を整備して、基準となるオゾンガス発生器及び観測用オゾン濃度計の管理を行っています(図2)。
経緯
観測開始当初、世界気象機関(WMO)において地上オゾンの濃度基準が決まっていなかったため、気象庁では2002年3月までJIS B7957で定められたヨウ化カリウム(KI)法に基づいた較正を行っていました。この方法は較正作業そのものが絶対濃度を決定するものであり、ヨウ化カリウム溶液の調製及びその溶液の正確な希釈など計量作業が多く、化学分析の専門的技術を必要とするものでした。
その後にWMOは、米国国立標準技術研究所(NIST)が開発した安定性のある誤差の少ない光学的な方法を用いたオゾン標準参照フォトメータ(Standard Reference Photometer)を、全球大気監視(GAW)計画の地上オゾン濃度の基準として採用しました。2001年に策定されたWMO/GAW戦略計画において、NISTはGAWの地上オゾン観測の基準を維持する中央較正施設(Central Calibration Laboratory: CCL)に指名されています(WMO, 2001)。これを受けて気象庁では2002年3月に、WMOの基準に従うべく光学的方法を用いた地上オゾン較正装置を整備し、観測用濃度計と基準濃度計との比較による較正を開始しました。(※注1)
較正装置
較正装置の構成
現在の較正装置(図1)は、オゾンガス発生器を中心とするオゾン濃度計較正部、清浄空気生成部及びパソコンを中心とする制御処理部から構成されています。オゾンガス発生器にはMODEL 49C-PS(Thermo Fisher Scientific社製)を使用しており、較正精度は1ppb、直線性±0.1%以内(フルスケール)、応答速度20秒(95%まで)となっています。このオゾンガス発生器を定期的にNISTへ送ってWMO基準と比較することにより、気象庁の地上オゾン較正装置は、WMOの基準スケールとのトレーサビリティを維持しています(図2)。
較正手順
各観測地点で使用するオゾン濃度計を較正装置で較正する場合、以下の手順で行います。
- ゼロガス発生器からオゾンが全く含まれないガス(ゼロガス)を発生させる。
- ゼロガスを元に、オゾンガス発生器から4種類のオゾン標準ガス(0ppb、150ppb、100ppb、50ppb)を順に発生させてオゾン濃度計へ導入する。
- 各濃度について、置換時間を5分とったのち、濃度測定を15分間行う。4種類のオゾン標準ガスの濃度測定を一つの較正サイクルとし、これを10回繰り返す。
- 指示濃度ごとにオゾンガス発生器、オゾン濃度計で測定される濃度値を平均し、較正サイクルごとの較正係数を計算する。
- 較正作業の終了時に10回分の較正係数が得られる。これを平均して、オゾン濃度計の較正係数を決定する。
較正後のオゾン濃度計の運用
オゾン濃度計は、気象庁本庁で上記の較正が行なわれたのち各観測地点に送られ、約半年間の観測に使用された後、再度気象庁へ戻されます。返送された濃度計は較正を再度行い、較正係数の変化を確認しています。確認が終了した濃度計は、水銀ランプなどの消耗部品の交換とオーバーホールが実施され、次の観測まで待機となります。
各観測地点では、オゾン濃度計の交換時に2台での並行観測を約1か月間行って、観測値の確認を行っています(
「地上オゾンの観測」
参照)。
較正装置の変更に伴い、新旧の較正装置の較正係数をもとに基準スケールを比較して検証を行いました。この結果、新旧の較正装置で基準スケールが異なっていたことから、装置間の較正係数の補正を行うとともに、それまで気象庁の地上観測地点で得られた観測値についても補正を行い、これらの連続性を確保しています(気象庁, 2004)。
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関連情報
- 地上オゾンの診断情報とデータ集
- 地上オゾンの観測
- 温室効果ガス等の観測に関わる較正
- 他の温室効果ガス等の較正( 二酸化炭素 メタン 一酸化二窒素 一酸化炭素 )
参考文献
WMO, 2001: Strategy for the Implementation of the Global Atmosphere Watch Programme (2001-2007). GAW Report No. 142, 62pp.
気象庁, 2004: 地上オゾン較正装置のGAW基準への準拠と基準変更に伴う観測濃度の補正について, 測候時報, 71, 4-6, 165-176.