大気二酸化炭素の観測

分析計

大気二酸化炭素濃度の観測には、二酸化炭素の赤外線吸収特性を利用した非分散型赤外分析計(Non-Dispersive Infra-Red Spectroscopy: NDIR)を用いています。現在、各観測地点で使用している分析計はLI-COR社製のLI-7000です(図1参照)。この装置の安定性は15分平均の標準偏差で0.02ppm以下で、再現性は上記の安定性の試験を2度行った際の差が±0.02ppm以下となっています。

大気二酸化炭素観測装置(与那国島)

図1 大気二酸化炭素観測装置(与那国島)


大気試料の採取及び分析

各観測地点では、地上約20mの高さにある取入口(メタン及び一酸化炭素と共用)から取り込んだ大気試料を冷却して露点が-75℃以下となるまで除湿したのち、毎分500mLの流量を保ちながら分析計へ導入しています。分析計では、出力電圧を1秒間隔で読み取り、これを30秒間平均して濃度に対する出力値を求めています。大気試料の二酸化炭素濃度を測定する合間に、2時間に1回の割合で、濃度の異なる5本の観測用標準ガスの濃度をそれぞれ3分ずつ測定するサイクルを繰り返します。


濃度の決定方法

これらの分析計の出力値をもとに、各観測地点での濃度を算出します。空気ベースで作成された5本の観測用標準ガスは、気象庁本庁にある二酸化炭素濃度較正装置によりあらかじめ濃度が正確に決められています( 「二酸化炭素観測に関する較正」 参照)。これらの既知濃度とそれに対応した出力値から求めた2次式の検量線を観測サイクルごとに決定し、この検量線を用いて大気試料の出力値を濃度に換算します。分析計の応答が時間変化することによる誤差を最小にするため、1つの大気試料出力値について観測時刻前後の各検量線から求めた2つの濃度値を時間内挿して、30秒ごとの濃度値を得ています。
さらに、観測用標準ガスの時間経過とともにみられるボンベ内でのガス濃度の変化(以下、これを濃度ドリフトと表します)をその使用前後に気象庁本庁で実施する較正によって確認し、濃度ドリフトが検出された場合にはドリフト量に応じて補正を行い、最終的な濃度値を決定します。
このようにして求めた気象庁の各観測地点における二酸化炭素の大気濃度値は、気象庁の二酸化炭素標準ガスが世界気象機関(WMO)標準にトレーサブルであるため、WMO標準にトレーサブルな各国の観測地点の濃度値と直接比較することができます。
各観測地点で使用する二酸化炭素の標準ガスは充填圧約15MPa(綾里は約12MPa)にて使用を開始しますが、ボンベ壁面からの不純物質遊離による濃度変化を避けるため、圧力が3.5MPa以下になる前に使用を中止しています。分析計におけるガス消費量から、二酸化炭素の観測用標準ガスの観測地点での使用期間はおおよそ6か月です。


バックグランドデータの選別及び統計値の算出

観測された濃度値には、数時間の間でも大きな変動がみられることがあります。これは、気象状況によって生じる、人間活動や植物活動などの影響がもたらす地表付近(接地境界層内)の局地的な変動と考えられます。境界層内の広い水平空間を代表する平均的な濃度と考えることのできる大気のバックグランドデータを求めるためには、局地的な濃度変動を取り除いたデータを選び出す必要があります。
局地的影響を受けた空気塊は、その空間規模が小さいため、観測値の時間的変動が大きいと考えられます。信頼性の高いバックグランドデータを求めるためには、この影響を受けていないデータを選別しなければなりません。一方で、できるだけ多くのデータを選び出すことも望まれます。これらのことから気象庁では、以下の手順で二酸化炭素濃度のバックグランドデータの選別を実施して、統計値を算出しています。

  1. 測器の点検、故障時などを除いた、全ての観測値を1時間平均して時別値を求める。
  2. 時別値について、算出に用いる観測値が求められうる個数の半数未満の場合は棄却する。
  3. 時別値について、算出時の標準偏差がある値(Aとする)を超えた場合は棄却する。
  4. 時別値について、その前後の時別値との差が両方ともある値(Bとする)を超えた場合は棄却する。
  5. 上記の手順により残った時別値を、バックグランドデータとする。
  6. 日別値は、バックグランドデータとして選択された時別値を日平均する。
  7. 月別値は、バックグランドデータとして選択された時別値を月平均する。
  8. 年平均濃度は月別値の年平均値である。

値A及び値Bは、観測地点ごとに、過去の観測値を検証して局地的な影響を受けているとみられる濃度データを取り除きながら、バックグランドデータを数多く残すことができるように決められています。二酸化炭素の場合、これらの値は表1のとおりです。

表1 二酸化炭素のバックグランドデータ選別しきい値

観測地点 期間 値A 値B
綾里 1987年1月 - 0.6 ppm 0.6 ppm
南鳥島 1993年3月 - 0.3 ppm 0.3 ppm
与那国島 1997年1月 - 0.6 ppm 0.3 ppm

観測結果におけるバックグランドデータの取得状況については 「温室効果ガス等のバックグランドデータ」 をご参照ください。


関連情報



    温室効果ガス等の観測方法に関する知識トップページへ

    温室効果ガスWeb科学館へ

    温室効果ガストップページへ

このページのトップへ