大気ハロカーボン類の観測

ハロカーボン類とは、ハロゲン原子であるフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を含んだ炭素化合物の総称であり、その多くは本来自然界には存在せず、工業的に生産されたものです。これらは直接、温室効果ガスとして働くほか、一部のハロカーボン類は成層圏オゾンを破壊する働きもあります。
ハロカーボン類のうち、クロロフルオロカーボン類(chlorofluorocarbon: CFC、特定フロン)は、炭素、フッ素、塩素から成る化合物です。また、ハイドロフルオロカーボン類(hydrofluorocarbon: HFC、代替フロン)は、炭素、フッ素、水素から成る化合物です。

気象庁の地上観測地点では、綾里でCFC-11(CCl3F)、CFC-12(CCl2F2 )、CFC-113(CCl2FCClF2 )を観測しているほか、四塩化炭素(CCl4 )や1,1,1-トリクロロエタン(CH3CCl3 )も観測しています。
また、南鳥島で以下の8種類のハイドロフルオロカーボン類を観測しています。
HFC-23 (CHF3 ) 、HFC-32 (CH2F2 ) 、HFC-125 (CHF2CF3 ) 、HFC-143a (CH3CF3 ) 、HFC-134a (CF3CH2F) 、HFC-152a (CH3CHF2 ) 、HFC-227ea (CF3CHFCF3 ) 、HFC-245fa (CHF2CH2CF3 )


大気クロロフルオロカーボン類の観測

分析計

大気クロロフルオロカーボン類濃度の観測には、放射線源(63Ni)を用いた電子捕獲型検出器(Electron Capture Detector: ECD)を搭載したガスクロマトグラフを用いています。大気環境観測所(綾里)で現在使用している分析計は、㈱島津製作所製のGC-2014です(図1参照)。

大気クロロフルオロカーボン類(特定フロン)観測装置(綾里)

図1 大気クロロフルオロカーボン類(特定フロン)観測装置(綾里)


大気試料の採取及び分析

綾里では、地上高約7mに取り付けた取入口(一酸化二窒素、1,1,1-トリクロロエタン及び四塩化炭素と共用)から大気試料を室内に常時導入して、ここから10mLの定量管に大気試料を分取し、これを分析計へ導入しています。大気中のクロロフルオロカーボン類(ここではCFC-11、CFC-12及びCFC-113)が非常に低濃度であることから、低温濃縮用トラップ剤(Res-Sil C 5cm+Porapak 5cm)に大気試料中のこれらの成分を吸着させた後、これを急速加熱し、各成分に分離するカラム(Res-Sil C 3m)へ導入する方式を用いています。1時間ごとに分析を行ってその波形出力を解析し、3種類のクロロフルオロカーボン類の濃度に対応する出力値を求めています。
大気試料のクロロフルオロカーボン類の濃度を測定する合間に、8時間に1回の割合で、濃度の異なる3本の標準ガスの濃度を1本あたり40分間(計2時間)で測定するサイクルを繰り返します。

濃度の決定方法

分析計の出力値をもとに、綾里での濃度を算出します。3本の空気ベースの標準ガスは重量法を用いて大気レベルの濃度に調製されており、これらの既知濃度とそれに対応した出力値から求めた2次式の検量線を観測サイクルごとに決定し、この検量線を用いて大気試料の出力値を濃度に換算します。分析計の応答が時間変化することによる誤差を最小にするため、1つの大気試料出力値について観測時刻前後の各検量線から求めた2つの濃度値を時間内挿して、1時間ごとの濃度値を得ています。
また、大気濃度に合わせた指標ガスを定期的に測定し、標準ガスの長期的な濃度変動や観測装置の異常などを監視しています。

バックグランドデータの選別及び統計値の算出

これらクロロフルオロカーボン類において、他の観測要素と同様にバックグランドデータの選別を実施して、統計値を算出しています。手順は以下のとおりです。

  1. 測器の点検、故障時などを除いた、全ての1時間ごとの観測値から日別値を求める。
  2. 日別値について、算出に用いる時別観測値が3個未満の場合は棄却する。
  3. 日別値について、算出時の標準偏差がしきい値(Aとする)を超えた場合は棄却する。
  4. 上記の手順により残った日別値を、バックグランドデータとする。
  5. 月別値は、バックグランドデータとして選別された日別値の平均値である。
  6. 年平均濃度は月別値の年平均値である。

しきい値AはCFC-11の場合10ppt、CFC-12では20ppt、CFC-113では7pptとしています。この値は、過去の観測値を検証して局地的な影響を受けているとみられる濃度データを取り除きながら、バックグランドデータを数多く残すことができるように決められています。


大気1,1,1-トリクロロエタン及び大気四塩化炭素の観測

分析計

大気1,1,1-トリクロロエタン濃度及び大気四塩化炭素濃度の観測には、放射線源(63Ni)を用いた電子捕獲型検出器(Electron Capture Detector: ECD)を搭載したガスクロマトグラフを用いています。大気環境観測所(綾里)で現在使用している分析計は、㈱島津製作所製のGC-2014です(図2参照)。

大気1,1,1-トリクロロエタン・大気四塩化炭素観測装置(綾里)

図2 大気1,1,1-トリクロロエタン・大気四塩化炭素観測装置(綾里)

大気試料の採取及び分析

大気クロロフルオロカーボン類及び一酸化二窒素の観測でも使用している地上高約7mに取り付けた取入口から大気を室内に常時導入して、ここから150mLの定量管に試料を分取し、これを分析計へ導入しています。大気中の1,1,1-トリクロロエタン及び四塩化炭素が非常に低濃度であることから、低温濃縮用トラップ剤(Porapak P 50/80mesh 20 cm)に大気試料中のこれらの成分を吸着させた後、これを急速加熱し、目的成分を分離するカラム(Silicone DC200 20% Chromosorb W(AW)DMCS 60/80 mesh 2 m)に導入する方式を用いています。1時間ごとに分析を行ってその波形出力を解析し、1,1,1-トリクロロエタン及び四塩化炭素の濃度に対応する出力値を求めています。これらの濃度を測定する合間に、8時間に1回の割合で、濃度の異なる3本の標準ガスの濃度を1本あたり40分間(計2時間)で測定するサイクルを繰り返します。

濃度の決定方法

分析計の出力値をもとに、綾里での濃度を算出します。3本の空気ベースの標準ガスは重量法を用いて濃度を調製されており、これらの既知濃度とそれに対応した出力値から求めた2次式の検量線を観測サイクルごとに決定し、この検量線を用いて大気試料の出力値を濃度に換算します。分析計の応答が時間変化することによる誤差を最小にするため、1つの大気試料出力値について観測時刻前後の各検量線から2つの濃度値を時間内挿して、1時間ごとの濃度値を得ています。
また、大気濃度に合わせた指標ガスを定期的に測定し、標準ガスの長期的な濃度変動や観測装置の異常などを監視しています。

バックグランドデータの選別及び統計値の算出

1,1,1-トリクロロエタン及び四塩化炭素においても、大気クロロフルオロカーボン類と同様のバックグランドデータの選別及び統計値の算出を実施しています。手順につきましては、当ページ内のクロロフルオロカーボン類に関する説明をご参照下さい。
しきい値Aについては、1,1,1-トリクロロエタン及び四塩化炭素ともに10pptとしています。


大気ハイドロフルオロカーボン類の観測

分析計

大気ハイドロフルオロカーボン類濃度の観測には、四重極型質量分析計を搭載したガスクロマトグラフを用いています。南鳥島気象観測所では、Agilent Technology Inc. 製のGCMS-5977を用いて分析を行っています(図3参照)。

大気ハイドロフルオロカーボン類(代替フロン)観測装置(南鳥島)

大気ハイドロフルオロカーボン類(代替フロン)観測装置の分析計部

図3 (上)大気ハイドロフルオロカーボン類(代替フロン)観測装置(南鳥島) (下)観測装置の分析計部


大気試料の採取及び分析

南鳥島では、地上高約20mに取り付けた取入口から大気試料を室内に一定の流量になるように常時導入しています。大気中のハイドロフルオロカーボン類は非常に低濃度であることから、一旦低温のトラップ(吸着剤を充填した捕集管)に吸着させ、濃縮します。これを急速加熱してトラップ中の試料をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)に導入します。1時間ごとに分析を行い、その波形を解析し、8種類のハイドロフルオロカーボンに対応する出力値を求めています。
大気試料のハイドロフルオロカーボン類の濃度を測定する合間に、8時間に1回の割合で、1本の標準ガスを測定するサイクルを繰り返しています。

濃度の決定方法

重量法を用いて調製されたガスを基準にして、観測用標準ガスの濃度を決定しています。観測用標準ガスは1本で、大気の観測時刻前後の標準ガスの出力値を時間内挿して、大気試料の出力値と比較することによって大気の濃度を求めています。
また、この標準ガスとは別に指標ガスを1日1回測定し、標準ガスの長期的な濃度変動や観測装置の異常などを監視しています。

バックグランドデータの選別及び統計値の算出

大気ハイドロフルオロカーボン類においても、大気クロロフルオロカーボン類と同様のバックグランドデータの選別及び統計値の算出を実施しています。手順につきましては、当ページ内のクロロフルオロカーボン類に関する説明をご参照下さい。
しきい値Aは各ハイドロフルオロカーボン毎に以下の通りとしています。
HFC-23:1.2ppt HFC-32:1.8ppt HFC-125:1.1ppt HFC-143a:0.7ppt HFC-134a:3.0ppt HFC-152a:0.7ppt HFC-227ea:0.1ppt HFC-245fa:0.1ppt
なお、このしきい値は暫定値であり観測データを蓄積後再度検証します。



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